Heroic〜龍の力を宿す者〜

Ruto

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2章

103:驚愕

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あいつなら、どうするだろうか

あいつなら、なんて言うだろうか

ふと、そんな事を考えてしまう。対等でありたいと思うと同時に憧れみたいなものも感じている

あの時から

あいつの背中が瞼の裏に焼き付いて離れない

背中で語る、その言葉の、本当の意味を

あの時、理解したんだ





~~~~~~





体の内側、冷えた心に火が灯るような、そんな力強い言葉

彼の鼓舞で皆が武器を取り、立ち上がる

けれど、俺達に出番はなかった

前に1度だけ見た、冒険者の中でも上の存在であるSランク冒険者の戦いよりも凄い

いや、凄いとしか分からない

同時に繰り出される多くの魔法

とんでもない速さ、力

そして、宙を駆けている

もう、デタラメだ

見るからに彼は獣人だ、にも関わらず多彩な魔法。その魔法は繰り出されれば確実に敵が屠られる

彼がその手に持つ槍を振るえば、敵は木っ端の如く死んでゆく

戦場という危険な場にも関わらず、味方である俺たちは彼に見惚れ、敵は強者である彼を止められない

絶望の中、現れた希望は、絶望の象徴と戦闘を始めた

先制は水竜王。数え切れないほどの水の槍が彼へ雨のように降り注ぐ

それに対して獣人の彼は炎の槍を作り出して迎撃した。水の槍1本1本に対してだ。普通ならこの行為は馬鹿な事をと嘲笑されるような行為。何故なら、普通あの数にその手段を取っては魔力は足りないし、無駄に難度が上がってしまう

それを彼は平然とやってのけた。しかも、自分の周りだけではなく全ての水の槍に対してだ。恐らく、俺たちに流れ弾が当たらないようにと考えてくれているのだろう

「おらあぁぁぁぁ!」 ドンッ!

雄叫びが辺りに響き、衝撃音と共に水竜王が吹き飛ばされた

ギャアアァァァァァ!

膨大な水しぶきと巨大な水柱を作り出しながら、水竜王が悲痛な叫びを上げる

「どうやったらあんな巨体を吹き飛ばせるんだ……」

思わず口をついてでた言葉、それに周りが反応する

「住む世界が違う」

「理解が追いつかねーよ」

「かっこいい……」

どれも分からんでもない

いや最後のが1番分かるな、うん

というか、ぼさっとしてるだけでいいのか?
船は動かない。だけど、俺たちは何も出来ないわけじゃないはずだ

「おい! お前ら動けるな! 彼だけに戦わせていいのか!? 俺たちにも出来ることはあるばずだ!」

「確かに、このまま見てるだけっていうのはダセェな」

「魔道砲は使えるぞ!」

「おっしゃ! 砲弾準備だ! 魔術は!?」

「魔力がないわ!」

「魔力回復薬ならここに!」

「魔術が使えるやつは魔力回復薬飲んで準備しろ!」

諦めの空気などもう無かった

船上は生きることへの活力で溢れている

援軍として来たのは1人

けれど、その1人の影響は絶大な効果を発揮した

魔道砲や魔術によって僅かではあるが魔物を屠り、彼の力になれていると思う

そんな間にも獣人の彼は水竜王以外の魔物を屠りながら水竜王を追い立てる

明らかに水竜王は劣勢だ

「おらおらおら! そんなもんか、よっ!」

また、水竜王が吹き飛ばされた。今度は横ではなく上にだが

それは物語の中でしか見たことのないもの。現実では無いのではないかと疑いたくなるほどだ

彼は水面に立ち、槍を回し、上を見上げ、構えを取る

そして、彼を中心として円状に波が広がっていく

ん? 気のせい、だろうか

彼の背後に巨大な獅子が見える

水竜王はその手足のない蛇のような体にある翼を広げ、空中にて体勢を整える。最初に現れた時と同じように大気が震え空気が軋む。いや、あの時以上だ

けれど、不思議と恐怖はなかった

獣人の彼がいる。ただそれだけで、逃げなくても大丈夫だと、そう思えた

水竜王の攻撃が放たれた。それは竜系統の魔物が放つ強力なもの。純粋な魔力の放出、魔砲と呼ばれるものだ。威力は絶大、範囲は広大、当たれば爆発するという理不尽な攻撃

そんな魔砲に彼は正面から挑んだ

魔砲が放たれるのと同時。膝を曲げ、腰を沈ませ、反動をつけると一気に飛び上がったのだ。ドンッ! という衝撃音と海面に波を残して

そこからは一瞬だった

彼が魔砲と激突する瞬間に構えていた槍を突き出せば、槍から獅子が現れ魔砲を食い破り水竜王の体に風穴を開けたのだ

命の炎が消え、落下する水竜王

すると、魔物達が逃げ出した

俺たちの心の支えが推進装置であったのに対して、水竜王は奴らの支えだったのだろう。蜘蛛の子を散らすように逃げていく

「深追いはするなよ! 取り敢えず港に戻るぞ! 推進装置を予備のと取り替えるんだ!」

危機が去った今、むこうが心配だ。イヴは、フレッドは大丈夫なのか?

ストッ

「!?」

後ろ!?

「あ、ども。おっさんがこの街の代表的な人?」

物音がして振り返れば、獣人の彼だった。遠目で見るよりも若い印象を受ける。けど、雰囲気は若者のそれではない

「いや、俺は漁師組合の代表だ」

「そうなん? まあ、いいや。街中の方の敵はもう片付いてるはずだけど、いた人達はあっちの森に避難して貰ってるからそっちいったげて」

そんな適当でいいのか。だがやはり、街の中にも敵が。早く森に行ってイヴとフレッドが無事か確かめないと

「分かった。助けに来てくれたこと本当に感謝している」

「いいって、仲間助けに来たついでだ。ん?」

俺が礼を言い頭を下げると、彼はどうでもいいというように返事を返し、ふと何かに気づいたように俺に近づいて

スンスン

と匂いを嗅ぎ始めた

「な、なんだ!」

「あ、悪りぃ悪りぃ。それより、あんたイヴの親父さんか。イヴは無事だぜ」

「な、何故イヴを知っているんだ!」

イヴにこんなチャラい知り合いはいなかったはずだ!

「そりゃ、イヴとは同じクラスだからな」

な、なに!?

つ、つまり、彼はイヴと同じ12歳!?

「んじゃ、俺は仲間と合流しなきゃいけねぇから先行くぜ」

「あ、ちょっ」

止める間もなく、彼は船上からいなくなってしまった。どういう原理か分からんが戦闘の時にもやっていたのと同じように海面を走って行ってしまった

「彼はなんて?」

「ヒルデか。街のみんなは森に避難しているらしい。あと、獣人の彼、イヴのクラスメイトだと」

「え!? それ本当なの!?」

「ああ、本当だと思うぞ」

「それは、また、凄い話ね」

「本当にな」

「ガルド! 推進装置を予備のに取り替えたから、戻れるぞ!」

「了解だ!」

港へと戻る途中。彼に倒されて浮いている水竜王の死体が視界に入り、先程の戦闘が思い起こされ、天才ってのはいるもんなんだなと実感した

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