32 / 46
第二章:サジェット食堂
17話 さくっと!お手軽サンドウィッチ④
しおりを挟む
「あ~しまったなあ~どうしようかなあ~」
私は、2日前の失態のカバーを未だできずにいた。
その上、あの店は卵を使っているらしいぞという噂が流れ、あんなに繁盛していた食堂でさえも閑古鳥が鳴いている。
思いがけない形ではあるが、まさかの形でリチャトさんに迷惑をかけてしまうことになり、なんだかやるせない気持ちになる。
そもそも、私は最近になるまで忘れてしまっていたのだ。
この世界はこの世界の食文化があり、それを守らなければならないということを。
リチャトさんがただ、食に対していろいろ経験を積まれていることもあって、私が考案する食材に対してあまり文句を言わなかったという、簡単なことを。
この国が、卵を食すことを嫌がることを。
そんなことも忘れて、調子に乗って自分ならヒット作を連発することができるとうぬぼれてしまっていたのだ。
「リチャトさん。本当にすみませんでした」
先ほどまで座っていた丸椅子が、勢いよく立った影響で悲しくカラカラと音をたてる。
何も言わず、いつも通りの椅子に座り、通りの行きかう人を見つめるだけのリチャトさんは本当に珍しくて、威勢よく立ち上がったのはいいものの、隅っこでおどおどするだけになってしまう。
手持ち無沙汰なのが嫌で、服の裾をぐじぐじといじり時間が経つのを待った。
「ちょっと……働き方を変えてもらおうかねえ」
服の裾がよれてかなりでろんでろんになったころ、リチャトさんはそう呟いた。
「えっと、つまりそれはどういうことですか?」
「当分は新メニューはやめてもらおうかね、不信感が残っているし」
「はい……わかりました」
「あとは……配達を積極的にして、あんたの信用回復につとめな」
「つまり、料理には関わるなってことですか」
「そうだね……あたしもあんたはかわいいが、自分の店が1番この世でかわいくて愛しているから、大切なんだよ」
そう言ったリチャトさんの顔は今まで見たことないほどに切なく、悲しいものだった。
そんな顔を見て私は、何も言えずグッと唇を噛み締める。
「けどね……サンドウィッチ自体はとても美味しかったし、流行るものだと思う」
「え……?」
「だから、最後にサンドウィッチだけは流行らせなさい。これは店主命令、もし、うまくいけば……どうにかしてあげよう、例えばあんたの名前がしれてないところで存分に料理をつくるとか」
「なんで……」
「あんたが料理を作らないのはらしくない、過ごした月日は確かに短いが、そう思うんだ。配達とか、そういうのであんたの時間を浪費させたくない。だから、ほら、まずはサンドウィッチ。はやく作りな」
ほら、ほら、と背中をぐいぐいと押され、厨房に押し込められる。
あれよあれよという間に、食材が私の前に並べられ、手には包丁が握らされた。
「え、や、ちょっと、こんな状態で料理なんて作れないですよ」
「何言ってるんだ?なんであんたが口答えできるんだ、私の店に初めて閑古鳥まで鳴かして。あんたが、この状況をどうにかせずに誰がするんだい」
「でもっ……!」
「馬鹿だねえ、店主の言う通りにしてればなんとかなるんだよ、なんてったってここはあたしの城だからね、ほら、さっさと手を動かす!」
「は、はい!」
半ば強制的に再開させられたサンドウィッチ考案であったが、とにかく手を動かし、頭を働かせる。
釈然としないところは、数えきれないほどあるし、聞きたいこともたくさんあるが、とりあえず今はあとだ。
じんわりと奥から漏れ出てくる涙をすんと啜りながら、ざくりざくりとレタスをちぎった。
私は、2日前の失態のカバーを未だできずにいた。
その上、あの店は卵を使っているらしいぞという噂が流れ、あんなに繁盛していた食堂でさえも閑古鳥が鳴いている。
思いがけない形ではあるが、まさかの形でリチャトさんに迷惑をかけてしまうことになり、なんだかやるせない気持ちになる。
そもそも、私は最近になるまで忘れてしまっていたのだ。
この世界はこの世界の食文化があり、それを守らなければならないということを。
リチャトさんがただ、食に対していろいろ経験を積まれていることもあって、私が考案する食材に対してあまり文句を言わなかったという、簡単なことを。
この国が、卵を食すことを嫌がることを。
そんなことも忘れて、調子に乗って自分ならヒット作を連発することができるとうぬぼれてしまっていたのだ。
「リチャトさん。本当にすみませんでした」
先ほどまで座っていた丸椅子が、勢いよく立った影響で悲しくカラカラと音をたてる。
何も言わず、いつも通りの椅子に座り、通りの行きかう人を見つめるだけのリチャトさんは本当に珍しくて、威勢よく立ち上がったのはいいものの、隅っこでおどおどするだけになってしまう。
手持ち無沙汰なのが嫌で、服の裾をぐじぐじといじり時間が経つのを待った。
「ちょっと……働き方を変えてもらおうかねえ」
服の裾がよれてかなりでろんでろんになったころ、リチャトさんはそう呟いた。
「えっと、つまりそれはどういうことですか?」
「当分は新メニューはやめてもらおうかね、不信感が残っているし」
「はい……わかりました」
「あとは……配達を積極的にして、あんたの信用回復につとめな」
「つまり、料理には関わるなってことですか」
「そうだね……あたしもあんたはかわいいが、自分の店が1番この世でかわいくて愛しているから、大切なんだよ」
そう言ったリチャトさんの顔は今まで見たことないほどに切なく、悲しいものだった。
そんな顔を見て私は、何も言えずグッと唇を噛み締める。
「けどね……サンドウィッチ自体はとても美味しかったし、流行るものだと思う」
「え……?」
「だから、最後にサンドウィッチだけは流行らせなさい。これは店主命令、もし、うまくいけば……どうにかしてあげよう、例えばあんたの名前がしれてないところで存分に料理をつくるとか」
「なんで……」
「あんたが料理を作らないのはらしくない、過ごした月日は確かに短いが、そう思うんだ。配達とか、そういうのであんたの時間を浪費させたくない。だから、ほら、まずはサンドウィッチ。はやく作りな」
ほら、ほら、と背中をぐいぐいと押され、厨房に押し込められる。
あれよあれよという間に、食材が私の前に並べられ、手には包丁が握らされた。
「え、や、ちょっと、こんな状態で料理なんて作れないですよ」
「何言ってるんだ?なんであんたが口答えできるんだ、私の店に初めて閑古鳥まで鳴かして。あんたが、この状況をどうにかせずに誰がするんだい」
「でもっ……!」
「馬鹿だねえ、店主の言う通りにしてればなんとかなるんだよ、なんてったってここはあたしの城だからね、ほら、さっさと手を動かす!」
「は、はい!」
半ば強制的に再開させられたサンドウィッチ考案であったが、とにかく手を動かし、頭を働かせる。
釈然としないところは、数えきれないほどあるし、聞きたいこともたくさんあるが、とりあえず今はあとだ。
じんわりと奥から漏れ出てくる涙をすんと啜りながら、ざくりざくりとレタスをちぎった。
1
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?
そらまめ
ファンタジー
中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。
蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。
[未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]
と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。
ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。
ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる