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第二章:サジェット食堂
11話 つるっと!もっちりフォー③
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だんっ!と大きく玄関扉を鳴らしながら開ける。
「うわっびっくりした。なんだチヒロかあ、おかえり」
「ただいま、驚かしちゃってごめんね、忘れ物取りに帰ってきたの」
「そうだったんだあ。じゃあわたしはまた寝るねえ」
「うん、おやすみ。お大事にね」
リベラルは3日前から流行病にかかっている。
症状的には風邪のようだし、もうだいぶこうやって起き上がれるようにもなっているので一安心だ。
とはいえ、いきなり玄関で音をたててしまって配慮が足りてなかったなと反省する。
ぎいと相変わらず建て付けの悪い扉を開き、部屋に入る。
目に入らないよう、戸棚の上に置かれた鞄達をずるりと引きずり下ろすと、ふわりと埃が舞った。
持ち慣れていたトートバッグから、一冊本を抜き出す。
美味しそうな卵焼きが全面に押し出された表紙に、食欲がそそられる。
だけど、探していたのはこれじゃない。
がさりと書店の紙袋も一緒に出して、中身を見る。
『世界のフード』
そう書かれたシンプルな表紙の本。
「あった!!」
思わずまた大声を出してしまい、はっと口を抑える。
だからここには病人がいるんだってば!と自分を叱った。
ぱらりと本を捲ると、新書のいい匂いが鼻腔をくすぐる。
これでも、大学では文学を専攻していたのだ。
本は好きなのである!
脳内1人劇をしながら目的のページを目次をなぞりながら探す。
何個か色とりどりの料理があった先に、目的のものはあった。
『麺から作る簡単ベトナムフォー』
そう題されたページには、美味しそうにきらきらと光を受けて輝くフォーの宣材写真があった。
「これだ!えっと、麺のレシピは……」
じっとりと手汗をかくのがわかる。
フォーはうちの実家でも一度試したことがある料理だった。
その時の記憶通りであれば、簡単に集められる素材だったと思うのだが、もしそうでなければと思ってしまう。
焦る気持ちと合わさって視線も鋭く動く。
「米粉……片栗粉、塩……よかった、作れるじゃん」
簡単に集められる素材にほっと胸を撫で下ろす。
鶏がらスープとかもスープ作りにおいて必要なようだが、生憎そんな便利なものこの世には存在しない。
これは私の腕にかかってるな。
ふうと一息ついて、アターモを取り出す。
カチャリ
アターモのシャッターが切れた音がして、空中にふわりと本の内容が浮き出る。
しっかりと保存できたことを確認して、またトートバッグは同じところにしまった。
盗られなんてしないだろうし、ここの言語とは全く違うから読めもしないだろうけど、これは私にとって思い出でもあり宝物だ。
ぽんぽんとトートバッグを叩いてまたねと告げて、家を後にする。
今から試作祭りの始まりだ!
そう思うとウキウキと気分が高鳴り、スキップで食堂まで帰った。
「うわっびっくりした。なんだチヒロかあ、おかえり」
「ただいま、驚かしちゃってごめんね、忘れ物取りに帰ってきたの」
「そうだったんだあ。じゃあわたしはまた寝るねえ」
「うん、おやすみ。お大事にね」
リベラルは3日前から流行病にかかっている。
症状的には風邪のようだし、もうだいぶこうやって起き上がれるようにもなっているので一安心だ。
とはいえ、いきなり玄関で音をたててしまって配慮が足りてなかったなと反省する。
ぎいと相変わらず建て付けの悪い扉を開き、部屋に入る。
目に入らないよう、戸棚の上に置かれた鞄達をずるりと引きずり下ろすと、ふわりと埃が舞った。
持ち慣れていたトートバッグから、一冊本を抜き出す。
美味しそうな卵焼きが全面に押し出された表紙に、食欲がそそられる。
だけど、探していたのはこれじゃない。
がさりと書店の紙袋も一緒に出して、中身を見る。
『世界のフード』
そう書かれたシンプルな表紙の本。
「あった!!」
思わずまた大声を出してしまい、はっと口を抑える。
だからここには病人がいるんだってば!と自分を叱った。
ぱらりと本を捲ると、新書のいい匂いが鼻腔をくすぐる。
これでも、大学では文学を専攻していたのだ。
本は好きなのである!
脳内1人劇をしながら目的のページを目次をなぞりながら探す。
何個か色とりどりの料理があった先に、目的のものはあった。
『麺から作る簡単ベトナムフォー』
そう題されたページには、美味しそうにきらきらと光を受けて輝くフォーの宣材写真があった。
「これだ!えっと、麺のレシピは……」
じっとりと手汗をかくのがわかる。
フォーはうちの実家でも一度試したことがある料理だった。
その時の記憶通りであれば、簡単に集められる素材だったと思うのだが、もしそうでなければと思ってしまう。
焦る気持ちと合わさって視線も鋭く動く。
「米粉……片栗粉、塩……よかった、作れるじゃん」
簡単に集められる素材にほっと胸を撫で下ろす。
鶏がらスープとかもスープ作りにおいて必要なようだが、生憎そんな便利なものこの世には存在しない。
これは私の腕にかかってるな。
ふうと一息ついて、アターモを取り出す。
カチャリ
アターモのシャッターが切れた音がして、空中にふわりと本の内容が浮き出る。
しっかりと保存できたことを確認して、またトートバッグは同じところにしまった。
盗られなんてしないだろうし、ここの言語とは全く違うから読めもしないだろうけど、これは私にとって思い出でもあり宝物だ。
ぽんぽんとトートバッグを叩いてまたねと告げて、家を後にする。
今から試作祭りの始まりだ!
そう思うとウキウキと気分が高鳴り、スキップで食堂まで帰った。
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