異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます

りゆ

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第二章:サジェット食堂

9話 つるっと!もっちりフォー①

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「全く、本当に忙しくなったねえ!」
「本当ですねえ、ここまでサイダーが流行るとは思っていませんでしたし……」

リチャトさんと2人でガチャガチャと出前用のサイダーを保存装置に入れる。
初めて持って行った時より、5倍の量になったそれを見て、思わずため息を漏らす。
保存装置に入れているので、重量などは変わらないのだが、気力の問題だ。

へマートさんからも太鼓判をもらった次の日から、出前限定でサイダーの販売を開始した。
売り出した日は人はまばらだった。
しかしその次の日、すでに洞窟の前には人だかりができていた。
嫌な予感を抱きつつ私が姿を現すと、予感通りみんなが寄ってたかってサイダーをねだるので、人だかりをちゃんと列に並べるのでさえでも一苦労だったのだ。

そんなことから、想像していたよりも遥かに多い反響をうみ、しまいには、堀場をこえて村の住人にまで、是非売ってほしい!とお願いされるようになったのだ。

確かに、サイダーの美味しさはわかる。
ここにはビールもないし、炭酸の珍しさも、すっきりする気持ちもわかる。
ただ、ここまでとは思わなかった。
店を開ければ、もっと売ってほしい、正式にメニューに加えてほしいなど、要望は多数寄せられた。
しまいには、冒険者達からもぜひ定期的に注文したいと声がかかった。
しかし、炭酸はナージェニス王国から持ってきてもらっているものだし、そんなに元々在庫もなかった。
だから、多くの需要に応えることができず、どうしようもない状況にため息をつく毎日だった。

そうやって頭を悩ませていた時、へマートさんが助け舟を出してくれた。
どうやら、ヘマートさんは王都の学院の出らしく、その時に留学生として来ていたナージェニスの友人が炭酸水の事業に興味を持っていたから協力しないかという話だった。
今から話を持ち掛けるため、あまり即日に話を進めることは難しいが、ひと月ぐらいあれば、ギルド登録して正式に契約を結べるだろうとのことだった。

「そんな棚から牡丹餅にいいんですか!」
「ボタモチ……?はないけど、今日の仕事終わりにでも連絡しておくよ。正式な契約が結べるまでは1日何本限定!とかで売り出せばいいんじゃない?」
「ヘマートさん天才!そうします!お友達さんにもよろしくとお伝えください!」
「うん。向こうが話に乗ったら、多分じきに来てくれると思うし、その時にお礼はまたしてくれればいいから」
「お礼って、それ、自分から言うことじゃないですよう……しますけど……」

そんなこんなで、炭酸水も安定して手に入る目途もたち、サイダーは本格的にメニューに並べられたのだ。

「ただいま帰りましたあ~」
「おかえり!出前の伝票はまたファイルに閉じておくんだよ」
「はあい」

ここで働き始めてから2週間が経とうとしていた。
リチャトさんともかなり打ち解けることができ、楽しくお仕事を続けさせてもらっている。

「今日は新メニューを考えるんだったかい?」
「はい、そのつもりです。やっぱりお肉料理はこの暑さでは重たいですし、不健康ですしね」
「おにぎりもかなり好評だし、今のままでも良いと思うんだけどねえ」
「いえ、おにぎりもやっぱりもそもそしていますし、食べにくいと思うんです。サイダーのようにさっぱりしたものが何か欲しいなと思って」
「まあ……そうだねえ、あたしたちにとってはこれが普通の夏だけど、あんたにとったら過ごしにくいだろうしね。いいよ。ゆっくり考えな」
「ありがとうございます!」

リチャトさんからの許可もおりたところで、改めて椅子に座りなおす。
すっきりしてて、食べやすくて、消化にいいものを目指したい。
そう思いながら、ペンをぎゅっと握った。
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