異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます

りゆ

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第二章:サジェット食堂

7話 しゅわしゅわ!すっきりサイダー①

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「おにぎり~おにぎりはいりませんかあ~~~」

さんさんと陽が照りつける街道に、ほぼ脳死で呼びかける。
一応、店前にはサンシェードがあって直接光は照り付けてこないが、むんむんとした熱気があがってくる。
昨日まではこんなんじゃなかったのになあ、と思いながらフターラという日本で言う扇風機のようなものをぶうんとつける。
暑さでぼうっとしていると、見覚えのある人が歩いてきた。

「嬢ちゃん!新しいメニューできたんだって!」
「ヘラルドさん!いらっしゃい!できましたよ~おにぎりっていうんですけど」
「お、じゃあそれ、2個くれ!」
「わかりました~お仕事頑張ってくださいね!」
「おうよ!」

たったったと帰っていくヘラルドさんの背中を見つめながら、改めて暑いなと思う。
盆地だし、王都には大きな塩湖があるらしいし、湿度がそれのせいで多いのだ。
日本でもこんなに暑くなかったぞ、とうだうだしながらフターラの風にあたる。

「嬢ちゃん、これなんだい?」
「おにぎりっていう軽食です!塩気があってコンパクトなので、食べやすいですよ」
「ならひとつもらおうかな。安いし」
「まいど~」

こうやってちらほらお客様は来てくれるものの、肉じゃがほど売れ行きはよくない。
たぶん、暑くてもう食欲ほどではないのだろう。

食堂も、昨日までは人でいっぱいだったが少し今日は客足が遠のいた感じがする。
肉じゃがも捌けるのが遅いとリチャトさんがぼやいていた。

昼食という概念をおにぎりで植え付けられると思ったのになあ。
そう独りごちながらぼーっとする。

それにしても耐えられない熱気だ。
こんな時はキンキンのビールが飲みたい……
日本にいたらいつでも飲めるのにな。

「嬢ちゃん?嬢ちゃん!」
「あっすみません!ってヘラルドさん?」
「いやあ、すまんなまた来ちまって。おにぎり5個追加したいんだわ」
「えっいいですが……どうされたんですか?」
「みんなこの暑さに参っちまってよお、いつもはこんなに暑くないんだぜ?」
「ああ、塩気確保ですか?」
「それもあるけど、腹が減って夜まで待てねえんだ」
「そうですか……でしたら、塩堀場までおにぎり出前しましょうか?」
「出前?」
「はい。私が直接持っていくんです。そっちの方がわざわざヘラルドさんが来なくてもいいですし」
「おお!助かる!なら、おにぎりあるだけ出前して欲しい!じゃあまたな!」

また同じようにたったったと帰っていくヘラルドさんを見つめながら、リチャトさんに許可をとらないとな、と今更ながら気づく。
少し気が重くなりつつ、食堂の扉を開けた。

「リチャトさん、出前行ってきていいですか?」
「出前?なんだってんだいそれ」
「料理を持っていくんですよ。注文があったので。この暑さを何回もヘラルドさんにきてもらうのは悪くて」
「ほほう。そんな制度考えたこともなかったね。いいね、行ってきな。今日はそんなにお客もいないしね」
「えっいいんですか……ありがとうございます。行ってきます」

まさか二つ返事で許可してもらえるとは思っていなかったが、許可してもらった以上急いで支度をすませる。
おにぎりと、フターラを保存装置の中にぽいぽいと詰め、自転車を引っ張り出す。

「あっ……そう言えば、炭酸があったんだった」

自転車に乗ろうとしたところで、冷蔵装置に炭酸水が入っていたのを思い出す。
ナージェニス王国からリチャトさんが興味半分で入荷したと言っていた。
もしかしたらサイダーを作れるかも……!
そう思って、裏口の扉を開けるとガタガタと肉じゃがをかき混ぜるリチャトさんがいた。

「リチャトさあん!この炭酸少し持って行ってもいいですか!」
「持っていきな!あたしはそれ飲めないから!」

そういえば、炭酸を飲んだ時リチャトさんはうげえという顔をしていた。
炭酸苦手人間なのだろう。
かわいい一面もあるんだな、と思った。

「ありがとございまあす!行ってきます!」

今度こそ、自転車に乗って出発する。
途中で家に寄って、レモンと蜂蜜を拝借した。
リッタには悪いが、後でちゃんと返すから許してほしい。

「よし!おっけい!」

全ての用意が完了したのを確認して、ペダルをぐいと踏み込んだ。
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