異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます

りゆ

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第一章:セントラル家

10話 ほかほか!ふわとろオムレツ②

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あの話の後、色々とリッタさんにこの世界の常識、システムなどを教えてもらった。
『リッタさん』と心の中でも呼ぶようになったのは、家族として、少しでも距離を縮めなければ失礼だと思ったからだ。
いつかは呼び捨てにできるようになってね、そうリッタさんに言われ、目が覚めるような思いになった。

晩御飯もリッタさんと仲良くキッチンに作り、簡単に作れるミネストローネの作り方を教えた。
というのも、いくら野菜を育てているからといっても、主食は肉だったそう。
穀物や野菜をバランスよく摂らないと不健康になって早死にしますよ、と脅すと、野菜を使った料理を教えてほしい!頼まれたのだ。

そしてこの村、『リーズ村』に住む人たちはセントラル家よりもひどい食生活をしていた。
私を、セントラル家の養女として戸籍登録をするために、一度外に出たのだが、そこで入った料理屋の料理はひどいものだった。

肉!肉!肉!肉!肉!!!

メニュー表には、これでもかと肉が盛られたものしかなく、穀物といえば、申し訳程度にオーツ麦の炒め物があった程度だった。
あんまりのひどさに呆れつつ、都会に出たての私だったら、喜んで食べていただろうなと反省する。

そんなことがありつつ、役場に行って戸籍登録を無事済ませ、晴れて私は『チヒロ=セントラル』となった。
なんだか語感的に擽ったいような感じがするが、この名前が、一家の決意の象徴だと思うと、大切にしなければならないなと思った。

これが、この世界に来て目覚めてからの2日間の話だ。
今はリベラルと共に、オムレツを作っていたところだ。
どうやら、プリンを食べてから卵料理にハマったらしく、やたら卵を使った料理を出してほしいとせがむので、リベラルでもお手伝いができるように、簡単なオムレツを選んだ。

ほかほかと湯気があがるオムレツに、キラキラとした視線を向けるリベラル。
今すぐにでも食べたいのか、うずうずと手がフォークに伸びたり、オムレツを突いたりしている。

「こらー。食べる前は何をしないといけなかった?」
「はっ!!手洗いといただきます!」
「じゃあ手洗いはしましたかー?」
「まだっ!!!!するっ!!!」

勢いよくだだだっとリベラルが洗面所に走っていく間に、オムレツに最後の仕上げをする。
ここには、生クリームがなかったため、バターもなかったのだが、遠心分離で牛乳から生クリームを作り、ついでにバターも作ってやったのだ。
ここの主流とされている牛乳は水牛の乳なので、普通のものより乳脂肪が多く、生クリームが作りやすい。
こんな好条件なのに、生クリームがないだなんて勿体無い。

そうしてできたバターは手作りのため、市販の食べ慣れたものより生クリームっぽい味がするが、それでも美味しいんだからバターは罪な食材だ。

バターをポトンとオムレツの上に落とす。
じわあっとオムレツの上で溶けて広がっていくバターを見て、思わず頬がゆるんでしまった。

「チヒローーッ!洗ってきた!!って、それ、さっきのバター?」
「そうだよ、オムレツの上に乗せたり、ホットケーキっていうおやつの上に乗せたりすると倍美味しくなるんだよ!さあ、食べよう!手を合わせて、いただきます!」
「いただきます!!」

すっかりこの2日でいただきますが板についたリベラルは、体型も少し変化した。
コロンとした雰囲気だったのが、少しスッキリして見える。
野菜のおかげなのか、私のおかげなのか。
少し自画自賛しつつ、オムレツを口に運ぶ。

「うん~~っまい!!美味しいよ!チヒロ!卵の味、すごくするし、ふわっふわだね!」
「ふふ、よかった。オムレツも色々種類があってね、中に野菜を混ぜるものもあるんだよ」
「ええ!野菜も入れられるの!~~っ!バターのあるところ、また味が変わって美味しいっ!」
「でしょう!これが、バターの魔力なんだよ……」
「え?バターって魔法でできてるの?」
「ううん、違うよ。虜になってしまうことを、元の世界では魔力とかの言葉で表現していたんだ」
「ふうん、やっぱりチヒロは面白いね!」

にこにことオムレツを頬張るリベラルを見て、温かい気持ちになる。
ずっとこんな時間が続けばいいのに、そう思う反面、何も働かないのもダメだと思う自分がいる。
後でリッタさんに職を紹介してもらおう、そう思いながらまた一口、オムレツを口に入れた。
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