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第三十八話 戻りました
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二十六階の上も、森の階層でした。
「これ、どこまで森の階層が続くんでしょうね?」
「さあな。何せ、二十一階以上は記録が残っていないから」
出てくる魔物が虫系以外なら、いいのですが……
そんな私の願いもむなしく、二十七階、二十八階、二十九階と見事に虫系の魔物ばかり出ました。
迷宮は、私に嫌がらせをしているのでしょうか。
「ちょっと迷宮ごと燃やし尽くしたくなりました……」
「落ち着きなさい、ベーサ。次は三十階だから」
「そ、そうそう! うまくすれば、一挙に一階に帰れるぞ!」
だといいのですけど。
三十階も、やはり森でした。これまで通り、上ってきた階段の側で休憩をしつつ、使い魔を飛ばして地図を作成します。
地図作成に集中する為、使い魔の数を増やしているので、広い階層の地図もあっという間に出来上がっていきました。
「……この階層、水場が一箇所だけですね」
「本当ね。今まで複数あったのに」
まだ地図は完成していませんが、三分の二は出来上がっています。そこに記載された水場は一箇所だけ。
これまで二十六階以外の森の階層では、水場が複数あるのは当たり前でした。しかも、この階層凄く広いのに。
カルささんが、テーブルの上に広げた出来かけの地図を見て、嬉しそうです。
「こりゃいよいよ石碑がある可能性が高いな」
「そうなんですか?」
「ああ。以前行った石碑のある迷宮の階層も、複数あるものが一箇所しかなかったんだ」
地下型の迷宮でも、一つの階層に拠点地が複数あるんですね。
「使い魔達には、見慣れないものがあったら星形の印を入れるように命じておきました」
なので、地図上に星形が浮かび上がる場所があれば、そこに何かがあるはずです。
「あ!」
出ました! 星形!
私が指差したのは、地図上で左下に当たる場所です。
「ここに、石碑があるの?」
「わかりません。ですが、今まで見た事のないものがあるのは確実です」
私と使い魔は魔力で繋がっています。つまり、使い魔が見た事のないものというのは、私が見た事のないものなのです。
「とりあえず、見に行ってみようぜ」
カルさんが凄く楽しそうです。今にも走り出していきそうなので、何とか押しとどめて結界を張り直し、一緒に向かいます。
星形の場所までは、曲がりくねった小道を遠回りに進むしかありません。
「迷宮の悪意を感じます……」
「ベーサ、燃やすのはダメよ」
すかさずニカ様にダメと言われてしまいました。
「ベーサお嬢、もうじきだから」
本当でしょうか。地図上には、さすがに現在地が表記されませんから、今どの辺りを歩いているのかわかりません。
今度、うんと小さい使い魔を作って、地図のどこに自分達がいるのかを示せるようにしましょう。
「お! 到着したみたいだぞ」
カルさんの声に、下がっていた視線を上げます。確かに、奥に行き止まりのような、樹木で囲まれた小部屋のような場所が見えました。
あそこに、石碑が?
「……何だ? こりゃ」
小部屋状の行き止まりは丸く、その中央に鉢植えの木が一つ、ぽつんと置いてあるだけです。
森の中に、鉢植え? 木には白い花が咲いていますが、見た事のない花です。花びらが多く、とても綺麗な花ですねえ。
「いい香りだわ」
ニカ様が仰る通り、香りもとてもいい花ですよ。
「……もしかして、この木が石碑の代わりか?」
確かに、周囲には他に何もありませんし、こんな場所に鉢植えが置かれているのも不自然です。
下の階層にはなかったものですから、カルさんの言葉は正しいのではないでしょうか。
「では、この木に触れればいいのかしら」
ニカ様! いきなり触れるなど危のうございます!!
でも、木に触れたニカ様に変化はありません。
「……違うのか?」
「……どうなんでしょう?」
何もおきないという事は、この木で一階に戻る事は出来ないという事ですよね。
困りました。
「綺麗な花ではあるんですけど……」
そっと白い花に触れてみると、その花が、瞬時に赤く染まります。
「え――」
目の前にあった木が一瞬ゆがみ、気がついたら見覚えのある壁に囲まれた、へこみのような場所にいました。
「ここ……一階?」
塔の一階はお屋敷の玄関ホールのようになっていて、入ってすぐの回り階段を上って、皆さん二階へと進みます。
そういえば、一階ってろくに見て回っていませんね。
壁にあるへこみ部分で呆然としていると、すぐ後ろから声がかかりました。
「ベーサ!」
「ニカ様!」
ニカ様の後ろには、カルさんもいます。どうやら、無事一階へ戻ってこられたようです。
「まさか、木じゃなくて花の方だとはな……」
一階に戻ってくる手段は、あの木に咲く花に触れる事のようですね。でも、これで三人とも無事を確認出来て良かったです。
「ああ、ここって入ってすぐの左手奥にある場所なのね」
「普段、こちらには来ませんから、こんな場所がある事すら知りませんでした」
「私もよ」
ニカ様と二人で笑っていると、カルさんが後ろから声をかけてきます。
「おーい、ここの壁にある花の絵、これに触れるとさっきの三十階に戻れるぞ」
「まあ、本当に?」
「便利ですねえ」
次からは、下から上らずともいいと考えると、大変楽ですね。
特にあの十八階。二つの組に占有されているようなものではありませんか。あそこを通り抜けるのは、あまりやりたくありません。
無事三十階から戻って来ましたので、まずは協会に行って地図やその他を売る事になりました。
「まずはカルさんの呪いの確認なんじゃないんですか?」
「勘弁してくれ。まだ日は高いだろ? それに、迷宮区の外で試したいんだ」
ああ、確実に解呪されたという保証は、ありませんものね。では、まずは協会に向かいましょう。
相変わらず、協会の入り口には長蛇の列が出来ています。用事ごとに入り口が別れていますから、面倒はないんですけど。
買い取りは、個別のカウンターで行います。
「すみません、迷宮の地図を買い取ってほしいんですけど」
「地図ですか? 申し訳ございません、現在二十一階以上の地図以外は買い取りを行っていないんです」
「ええ、ですから、その二十一階以上のものですよ」
「え?」
「え?」
固まる職員の方に、こちらも似たような反応をしてしまいました。背後では、カルさんが笑っている気配がします。
数拍置いて、職員の方が大声を上げました。
「ええええええええええええええええ!?」
凄い大きな声ですね。驚きました。それに、職員の方の声で、協会内にいた人達の視線が、こちらに向かっています。
「まずいな……これじゃ目立っちまう」
「あまり、よくないわね」
「おい、嬢ちゃん。ものがものだ。協会長まで話を上げてくれねえか?」
大声を張り上げた職員の方は、驚いた顔のままこくこくと頷いて、震えながら席を立って奥へと走っていきました。
ああ、あんなに足をもつれさせて。転ばないでくださいね。
「これ、どこまで森の階層が続くんでしょうね?」
「さあな。何せ、二十一階以上は記録が残っていないから」
出てくる魔物が虫系以外なら、いいのですが……
そんな私の願いもむなしく、二十七階、二十八階、二十九階と見事に虫系の魔物ばかり出ました。
迷宮は、私に嫌がらせをしているのでしょうか。
「ちょっと迷宮ごと燃やし尽くしたくなりました……」
「落ち着きなさい、ベーサ。次は三十階だから」
「そ、そうそう! うまくすれば、一挙に一階に帰れるぞ!」
だといいのですけど。
三十階も、やはり森でした。これまで通り、上ってきた階段の側で休憩をしつつ、使い魔を飛ばして地図を作成します。
地図作成に集中する為、使い魔の数を増やしているので、広い階層の地図もあっという間に出来上がっていきました。
「……この階層、水場が一箇所だけですね」
「本当ね。今まで複数あったのに」
まだ地図は完成していませんが、三分の二は出来上がっています。そこに記載された水場は一箇所だけ。
これまで二十六階以外の森の階層では、水場が複数あるのは当たり前でした。しかも、この階層凄く広いのに。
カルささんが、テーブルの上に広げた出来かけの地図を見て、嬉しそうです。
「こりゃいよいよ石碑がある可能性が高いな」
「そうなんですか?」
「ああ。以前行った石碑のある迷宮の階層も、複数あるものが一箇所しかなかったんだ」
地下型の迷宮でも、一つの階層に拠点地が複数あるんですね。
「使い魔達には、見慣れないものがあったら星形の印を入れるように命じておきました」
なので、地図上に星形が浮かび上がる場所があれば、そこに何かがあるはずです。
「あ!」
出ました! 星形!
私が指差したのは、地図上で左下に当たる場所です。
「ここに、石碑があるの?」
「わかりません。ですが、今まで見た事のないものがあるのは確実です」
私と使い魔は魔力で繋がっています。つまり、使い魔が見た事のないものというのは、私が見た事のないものなのです。
「とりあえず、見に行ってみようぜ」
カルさんが凄く楽しそうです。今にも走り出していきそうなので、何とか押しとどめて結界を張り直し、一緒に向かいます。
星形の場所までは、曲がりくねった小道を遠回りに進むしかありません。
「迷宮の悪意を感じます……」
「ベーサ、燃やすのはダメよ」
すかさずニカ様にダメと言われてしまいました。
「ベーサお嬢、もうじきだから」
本当でしょうか。地図上には、さすがに現在地が表記されませんから、今どの辺りを歩いているのかわかりません。
今度、うんと小さい使い魔を作って、地図のどこに自分達がいるのかを示せるようにしましょう。
「お! 到着したみたいだぞ」
カルさんの声に、下がっていた視線を上げます。確かに、奥に行き止まりのような、樹木で囲まれた小部屋のような場所が見えました。
あそこに、石碑が?
「……何だ? こりゃ」
小部屋状の行き止まりは丸く、その中央に鉢植えの木が一つ、ぽつんと置いてあるだけです。
森の中に、鉢植え? 木には白い花が咲いていますが、見た事のない花です。花びらが多く、とても綺麗な花ですねえ。
「いい香りだわ」
ニカ様が仰る通り、香りもとてもいい花ですよ。
「……もしかして、この木が石碑の代わりか?」
確かに、周囲には他に何もありませんし、こんな場所に鉢植えが置かれているのも不自然です。
下の階層にはなかったものですから、カルさんの言葉は正しいのではないでしょうか。
「では、この木に触れればいいのかしら」
ニカ様! いきなり触れるなど危のうございます!!
でも、木に触れたニカ様に変化はありません。
「……違うのか?」
「……どうなんでしょう?」
何もおきないという事は、この木で一階に戻る事は出来ないという事ですよね。
困りました。
「綺麗な花ではあるんですけど……」
そっと白い花に触れてみると、その花が、瞬時に赤く染まります。
「え――」
目の前にあった木が一瞬ゆがみ、気がついたら見覚えのある壁に囲まれた、へこみのような場所にいました。
「ここ……一階?」
塔の一階はお屋敷の玄関ホールのようになっていて、入ってすぐの回り階段を上って、皆さん二階へと進みます。
そういえば、一階ってろくに見て回っていませんね。
壁にあるへこみ部分で呆然としていると、すぐ後ろから声がかかりました。
「ベーサ!」
「ニカ様!」
ニカ様の後ろには、カルさんもいます。どうやら、無事一階へ戻ってこられたようです。
「まさか、木じゃなくて花の方だとはな……」
一階に戻ってくる手段は、あの木に咲く花に触れる事のようですね。でも、これで三人とも無事を確認出来て良かったです。
「ああ、ここって入ってすぐの左手奥にある場所なのね」
「普段、こちらには来ませんから、こんな場所がある事すら知りませんでした」
「私もよ」
ニカ様と二人で笑っていると、カルさんが後ろから声をかけてきます。
「おーい、ここの壁にある花の絵、これに触れるとさっきの三十階に戻れるぞ」
「まあ、本当に?」
「便利ですねえ」
次からは、下から上らずともいいと考えると、大変楽ですね。
特にあの十八階。二つの組に占有されているようなものではありませんか。あそこを通り抜けるのは、あまりやりたくありません。
無事三十階から戻って来ましたので、まずは協会に行って地図やその他を売る事になりました。
「まずはカルさんの呪いの確認なんじゃないんですか?」
「勘弁してくれ。まだ日は高いだろ? それに、迷宮区の外で試したいんだ」
ああ、確実に解呪されたという保証は、ありませんものね。では、まずは協会に向かいましょう。
相変わらず、協会の入り口には長蛇の列が出来ています。用事ごとに入り口が別れていますから、面倒はないんですけど。
買い取りは、個別のカウンターで行います。
「すみません、迷宮の地図を買い取ってほしいんですけど」
「地図ですか? 申し訳ございません、現在二十一階以上の地図以外は買い取りを行っていないんです」
「ええ、ですから、その二十一階以上のものですよ」
「え?」
「え?」
固まる職員の方に、こちらも似たような反応をしてしまいました。背後では、カルさんが笑っている気配がします。
数拍置いて、職員の方が大声を上げました。
「ええええええええええええええええ!?」
凄い大きな声ですね。驚きました。それに、職員の方の声で、協会内にいた人達の視線が、こちらに向かっています。
「まずいな……これじゃ目立っちまう」
「あまり、よくないわね」
「おい、嬢ちゃん。ものがものだ。協会長まで話を上げてくれねえか?」
大声を張り上げた職員の方は、驚いた顔のままこくこくと頷いて、震えながら席を立って奥へと走っていきました。
ああ、あんなに足をもつれさせて。転ばないでくださいね。
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