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1巻
1-2
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国境からエンソールド王国王都ギネヴァンまでは、結構な距離がある。王都ギネヴァンはエンソールド王国の北東に位置するのだ。
「いよいよエンソールドに入りましたね。私、柄にもなく胸の高鳴りが止まりません」
「うう……とうとう異国に来てしまいました……」
馬車の中では、対照的な意見が出ていた。ノネの泣き言はいつもの事なので放っておくとして、シーニの言葉にはベシアトーゼも頷く。
港に近いギネヴァンは、常に潮の香りに包まれた都なのだとか。海へ流れ込む大きな川には船が何艘も浮かび、それらを眺めているだけで一日が終わると、母はよく笑っていた。その母の故郷に今向かっている運命の不思議に、ベシアトーゼは思いをはせる。
国境を越えて山道を進み、やがて平地に入ると景色は一変した。北の国であるはずのエンソールドは、山道こそ冬を感じさせたが、平地に下りてからはまだ秋ではないのかと思う程の気温だ。
そういえば、以前聞いた事がある。東の海は温かく、また西にある山々が冷たい西風を遮るので、エンソールドは雪が深くないのだとか。
一方で、本格的な冬に入ると乾燥した風が吹く為、寒さはそれなりだとも聞いている。
――この国で、冬を越す事になるかもしれないのね……
衣装箱には冬用の衣装も入ってはいるが、エンソールドとは仕立てが違う。長くいるなら、こちらで改めて仕立てる必要があるだろう。
面倒な事だ。領主館にいれば、普段着は領内の仕立屋で簡単に手に入るものを。ベシアトーゼはまだ社交界デビューをしていないので、ドレスを大量に作る必要がなかったのだ。
遅れていたとはいえ今年の冬にはデビューする予定だったけれど、今回の件でまた遅れるだろう。そう思うと、あの何とか侯爵の馬鹿息子に対する怒りが再燃した。
エンソールド王国王都ギネヴァンは、国土の東北東に位置する。良港として知られるギネヴァン港があるおかげか、この国は海軍が強いという噂だ。
そのギネヴァンに到着したのは、国境を越えてからさらに半月が経った頃である。ヘウルエル伯爵領から出発し、約一月かかっていた。これが遅いのか早いのか、ベシアトーゼにはわからない。
しかし、とにかく疲労が溜まっている事は確かだった。エンソールドに入って以降、宿泊は主に修道院を利用していたが、一泊した翌日には再び馬車に揺られる日々が続いたせいか、疲労が蓄積するばかりだったのだ。
しばらく部屋でゆっくりと休みたい。領主館にいた頃は、毎日館から出て何をするかばかり考えていたというのに。
揃って疲れた顔を見せるベシアトーゼ達を乗せた馬車は、無事ギネヴァンにあるロンカロス伯爵邸に到着した。
ベシアトーゼが来る事は早馬で報せてあるので、邸の準備は整っているはずだ。馬車から降りた彼女の目の前には、勢揃いする使用人達と、彼等の向こうに待つ男女の姿があった。
出で立ちからして、男性はこの家の当主で叔父のセベインだろう。とすると、彼の隣に立っている女性は叔父の妻で、ベシアトーゼの義理の叔母にあたる女性か。それにしては、随分と若かった。おそらくベシアトーゼとあまり変わらない。
貴族の結婚はまず家ありきだから、年齢差のある夫婦は多いと聞く。叔父夫婦もそうなのかもしれない。
叔父は父ゲアドに比べると幾分横幅があるが、骨格がしっかりしているタイプの人物で、太っている印象はない。母セマと同じ濃い色の金髪を貴族らしく後ろになでつけていた。
隣の女性は背中の中程までの栗色の髪を下ろし、後ろでゆるく結っている。ドレスの型はエンソールド風で、タイエントのものと比べると色鮮やかな花柄が目を引く。
まずは挨拶を、と思い足を進めると、それより早く叔父夫婦がこちらに駆け寄ってきて、がっしりとベシアトーゼの肩を掴んだ。
「あの――」
「ルカーナ! お前、今までどこに行っていたんだ!?」
「心配したのよ、ルカーナさん! 怪我などはなくて!?」
「はい?」
それ、誰? と口に出さなかった事を褒めてもらいたい。呆然とするベシアトーゼの様子に、叔父夫婦もようやく何かがおかしいと気付いたようだ。
「どうしたんだ? ルカーナ……大体お前、何故そんな異国の衣装を着ているんだ?」
「それに髪型も……我が国では、そんな風に結わないのに……」
戸惑う叔父夫婦に、ベシアトーゼの背後から声がかかる。
「発言をお許しいただけますか?」
シーニだ。叔父夫婦は今になって彼女の存在に気付いたらしく、背後を見やっている。
「お前は?」
「はい。タイエント王国ヘウルエル伯爵家に仕えております、シーニと申します。こちらにいらっしゃるのは、当家のお嬢様でベシアトーゼ様です。ご当主の姉君、セマ様の忘れ形見でいらっしゃいます」
叔父の問いにすらすらと答えたシーニの言葉を聞いて、叔父夫婦は驚愕した。
「そ、そういえば、早馬が来たのだったな……」
「という事は、こちらはルカーナさんではなく別人だと? そんな、まさか……」
今度は叔父夫婦が呆然とする番のようだ。
無事邸の中に案内されたベシアトーゼは、挨拶もそこそこに叔父夫婦から謝罪される事となった。
「本当に申し訳ない!! 君があまりにも我が娘に似ていたもので、つい……」
「いえ、お気になさらず……」
どうやら、「ルカーナ」というのは叔父、ロンカロス伯爵セベインの娘の名前らしい。聞けば年齢もちょうどベシアトーゼと同じだという。
そっとロンカロス伯爵夫人が差し出した細密画に目を落とすと、自分が描かれていた。いつの間にこんなものをこちらに送ったのか。だが、よく見ると見覚えのないドレスを着ているし、髪型も普段とは違い背に下ろしている。おかしいと思ったすぐ後、これがルカーナなのだと理解する。なるほど、これでは叔父達が見間違えても不思議はない。
細密画のルカーナは、髪の色も目の色もベシアトーゼと同じだった。強いて違う部分をあげるとすれば、目元の印象だろうか。
ベシアトーゼは気の強さが目元に表れているとよく言われるが、ルカーナはおっとりとした目つきをしている。きっとおとなしい、淑女らしい淑女なのだろう。ベリル辺りが知ったら、彼女を見習えと泣きながら言いかねない。
「それで、そのルカーナ様は、今どちらに?」
初めて会う母方の従姉妹だ。しかもここまで似ているとあっては、興味をそそられるのも当然というもの。
だが、その無邪気な問いに、目の前に座る叔父夫婦は傍目にもわかる程、憔悴した様子を見せている。一体、どうしたというのか。
しばらく逡巡していたセベイン叔父だが、やがて意を決したように口を開いた。
「ベシアトーゼ、君が大変な事に巻き込まれて我が家に来た事は承知の上で、図々しい頼みをきいてもらいたい」
「……どういう事ですか?」
セベイン叔父のあまりの真剣さに、さすがのベシアトーゼも訝しむ。セベイン叔父は一度目をぎゅっと瞑った後、ベシアトーゼを真っ直ぐに見つめた。
「君に、ルカーナとして王宮に上がってほしいのだ」
叔父のこの言葉に、ベシアトーゼははしたなくもぽかんと口を開けてしまった。
「無茶な頼みだという事は、わかっている。だが、このままでは我が家は破滅だ」
そう言って頭を抱える叔父を、そっと労る叔母。どうも、現在このロンカロス伯爵家は窮地に立たされているようだ。しかも、娘のルカーナ絡みで。
呆けている場合ではない。母の実家の一大事となれば、自分にとっても無関係ではなかった。王宮に上がるというのが気になるが、まずは話を聞くべきではないか。
「あの……詳しい話を聞いてもよろしいですか?」
ベシアトーゼが水を向けると、セベイン叔父は即座に語り始めた。余程溜め込んでいたのだろう。
叔父の話によれば、ルカーナはベシアトーゼ同様、ずっとロンカロス伯爵領で暮らしていたそうだ。ルカーナの産みの母は出産で命を落としていて、彼女はずっと乳母と教育係に育てられていたという。
――……何だろう、この共通項の多さ。見た目が似ていると、生い立ちまで似るものなの?
もっとも、ベシアトーゼの母は出産で命を落としたのではなく、出産から六年後に流行病で亡くなったのだが。
ちなみに、現在のロンカロス伯爵夫人は後添いで、叔父と彼女との間には娘と息子が生まれているらしい。
当初はルカーナも十五歳になる前に王都へ来て家族で暮らす予定だったけれど、静かな伯爵領で育った彼女には、王都の賑わいは合わず、領地に帰りたがったそうだ。
しかも継母である現伯爵夫人との仲もぎくしゃくしていた為、結局彼女の希望を受け入れ、伯爵領で生活する事になったという。
「だが、ルカーナは我が家の長女だ。いつまでも田舎に引っ込んでいられる訳はない」
ロンカロス伯爵家は、王宮でも重要な地位をいただいている家なのだとか。そして問題なのは、現在エンソールド王宮は二つの派閥に分かれて争っているという事だ。
――あの何とか侯爵の件だけじゃなく、ここでも派閥? まったく、いい迷惑だわ。
素直な感想は当然口にせず、ベシアトーゼはセベイン叔父の話の続きを聞いた。
宮廷を二分する派閥は、次期王位継承に関わっている。エンソールド国王は小国から娶った王妃を数年前に亡くしており、その前王妃との間には王女が三人しかいなかった。エンソールドでは、女児が王位を継ぐ事はない。
そんな中、二年前に隣国ダーロ王国から王女が輿入れし、二大国が手を結んだのだ。現王妃は若く、これからいくらでも世継ぎとなる王子を儲ける可能性があった。それもまた、この結婚が祝福された所以である。
だが、この結婚を祝福しない者達もいた。現国王の弟であるサトゥリグード大公ヨアドを次期国王に推す一派だ。
現王妃に男児が生まれなければ、王弟ヨアドが次代の王である。また、ダーロとの結びつきを良しとしない一派がこれに加わり、王妃派、大公派と分かれて争っているのだとか。
そして、ロンカロス伯爵家は王妃派なのだ。
「その事もあり、長女のルカーナを王妃陛下の侍女にどうかと打診をいただいたのだ。当然了承して、伯爵領からあの子を呼び寄せ、必要な教育を受けさせたというのに……」
喧噪を厭うルカーナは、王宮に上がる事に乗り気ではなかったという。それでも家の為にと、日々けなげに教えを受けていたそうなのだが。
「ほんの十日前に、突然駆け落ちしてしまったのだ」
「ええ!? 駆け落ち!?」
いきなりの展開に、ベシアトーゼは黙っていられず声を張り上げた。だってそうだろう、王都の賑わいを苦手とする程の深窓の令嬢が、どうして駆け落ちなどという大胆な事をするのか。
すぐさま側に控えていたシーニに小声で窘められ、ベシアトーゼはばつが悪い思いをしながら「失礼」と謝罪した。
それを見計らったかのように、セベイン叔父が咳払いをする。
「君が驚くのも無理はない。私達も驚いたものだ。置き手紙にはあの子の小間使いの字で、身分違いの相手と恋に落ち、彼と添い遂げる為に家を出る、と……」
セベイン叔父の言葉に、ベシアトーゼは引っかかりを覚えた。小間使いが主の手紙を代筆する事自体はよくある事だが、駆け落ちの置き手紙、まして実の父親に当てたものまで代筆させるだろうか。
それに、普通の貴族令嬢が、身分違いの男と恋に落ちるという筋書きも信じがたい。
セベイン叔父の説明によれば、彼女は王妃に仕える侍女として王宮へ上がる事が決まっていた娘だ。当然、伯爵家としてもその日まで一つの間違いもないように目を光らせていたはず。田舎暮らしが長く世慣れていなかったルカーナが、その監視をかいくぐって相手との逢瀬を繰り返せただろうか。
そもそも、そんな中でいきなり恋人を作れるのかどうかも疑問だ。一つ一つは些細な事だが、違和感を覚える。
「叔父様、いくつか伺ってもよろしいですか?」
「あ、ああ。何かね?」
ベシアトーゼに質問されるとは思っていなかったのか、セベイン叔父は少し驚いた様子だが、快く承諾してくれた。
「まず、ルカーナ様の性格についてです。先程の細密画を見る限り、ルカーナ様はおとなしい方のように感じるのですけど」
「ああ、そうだね。おとなしい……というか、主張をしない子だ。自分の娘にこんな事を言うのはどうかと思うが、言いつけに背く子ではない」
おそらく、周囲の言葉に逆らう気力のない娘、という意味だ。だとすれば、やはり彼女の駆け落ちはどこかおかしい。
「では次に。ルカーナ様が失踪されて、もしそっくりな私がここに来なければ、ロンカロス伯爵家はどうなっていましたか?」
「……我が伯爵家は二度と宮廷に上がる事は出来ないだろう」
それはつまり、伯爵家の破滅を意味する。だからセベイン叔父は「ルカーナとして王宮に上がってほしい」と言ったのだ。王妃の侍女に決まっていた娘が行方をくらましたとあっては、話は伯爵家だけの問題ではない。
事によっては「王妃の侍女になるのが嫌だから、娘が家出をしたのだ」などと言いふらす者も出るだろう。そんな噂が広まれば王妃の評判は落ちるし、ダーロとの同盟にもひびが入る。貴族の世界において、噂は時に恐ろしい凶器になる。
ベシアトーゼは少し考えて、質問を続けた。
「ルカーナ様の消息は、探しているのですよね?」
「もちろんだ。ただ、事が事だけに表立って動けず、捜索ははかばかしくない」
駆け落ちであれ何であれ、令嬢が行方不明という話が流れれば、伯爵家は当然の事、ルカーナ本人の未来も閉ざされる。醜聞まみれの令嬢の行く末など、察するに余りあるというものだ。
やはり、ルカーナの駆け落ち騒動の裏には、ロンカロス伯爵家と王妃を陥れたい誰かがいるのではないか。
――駆け落ち相手なんていなくて、ルカーナ様は攫われたのではないかしら。
いくつか気になる点もあるが、それよりルカーナの安否と、伯爵家の行く末が問題だ。ルカーナの身に関しては、ベシアトーゼにはどうにも出来ない。セベイン叔父が人をやって探している結果を待つ以外にないだろう。
しかし、伯爵家の行く末には、少しは関わる事が出来る。もしこれが仕組まれたことならば、犯人の誤算はここにルカーナそっくりのベシアトーゼがいる事だ。
これも全て、神の思し召しかもしれない。ベシアトーゼは少しの間きつく目を閉じると、意を決してセベイン叔父を見つめた。
「叔父様、決めました。私、先程のお話を引き受けます」
「おお! やってくれるのか!」
「ええ、他ならぬ亡き母の実家の為ですもの」
ここでロンカロス伯爵家を見捨てる事など、母の名にかけて出来ない。それに、気弱なルカーナが力ずくで攫われたのならば、犯人にも思うところがあるのだ。
ベシアトーゼは、邸に到着する前の疲れが嘘のように、やる気にみなぎっていた。
ルカーナが侍女として王宮に上がる日は、実は明日の予定だったそうだ。とはいえ、急にベシアトーゼがルカーナと入れ替われる訳はないので、体調を崩して王宮に上がるのが遅れると連絡をしてもらっている。
その猶予は、わずか十日あまり。この間に、ルカーナのドレスをベシアトーゼのサイズに直し、ベシアトーゼ本人はエンソールドで淑女が必要とする教養を身につけなくてはならない。
幸い、タイエントとエンソールドの文化はそこまで差異がないので、これまで培ってきた教養が役に立つ。
それでもわずかな違いはあるし、何より王族や王宮の事を一から学ばなくてはならない為、それなりに大変だった。
ベシアトーゼは刺繍をするより座学の方が好きな質なので、詰め込み授業でも音を上げることはない。問題は、礼儀作法だった。
「す、少し休憩を……」
「いいえ、まだまだですよ、ベシアトーゼ様!」
ぐったりするベシアトーゼを叱咤激励するのは、セベイン叔父の妻であり、義理の叔母であるジェーナだ。彼女は隣国ダーロから嫁いできた女性で、叔父とはやや年齢差がある。後添いだから、そんなものなのかもしれないが。
それはともかく、礼儀作法の教師役を務める彼女は大変厳しかった。これには、野山を駆け巡っていた事で体力に自信があるベシアトーゼも参っている。
「お辞儀の角度が違います! 手はこう! 腰はここまで落とさなくてはいけません!」
「は、はい!」
正直、タイエントにいた頃ですらここまで気合を入れて礼儀作法を学んだ事はない。だが、これも王宮に上がる為の試練と思い、ベシアトーゼは耐え抜いた。
準備の中には、王宮へ連れて行く小間使いの選抜もある。叔父からは事情をよくわかっている者をつけると言われたが、ベシアトーゼはある理由でそれを断った。今は、その件についてシーニから苦情を受けている。
「トーゼ様! 何故ノネだけ連れていかれるんですか!?」
タイエントから連れてきた供のうち、ノネだけを連れていくと言った途端、この騒ぎだ。
「仕方がないでしょう。侍女が王宮に連れていけるのは、小間使い一人だけと決まっているのだから」
「それはわかっています。でも、何故ノネなんですか!?」
シーニは聞き分ける気がないらしい。だが、彼女が何を言っても、ベシアトーゼにはノネを連れていかなくてはならない理由があった。
「ノネは危険察知能力が高いでしょう? 王宮の生活には、どうしても必要なのよ」
「それでしたら! 私の方が攻撃力は上です!」
「シーニ……あなた、王宮へ何しに行くつもり?」
「それはもちろん、トーゼ様に徒なす者達を殲滅します!」
満面の笑みで言う内容ではなかった。シーニは悪い子ではないのだが、いささかベシアトーゼに心酔しすぎるきらいがある。
とはいえ、忠誠心の強さは美徳なので、いたずらに抑え込むのもどうか。そのベシアトーゼの躊躇が今のシーニを作ったという事には、本人達は気付いていなかった。
それはともかく、今は目の前のシーニを説得しなくてはならない。ベシアトーゼは気合を入れた。
「シーニ、あなたには王宮の外から私達を支えてほしいのよ」
「外から、支える……ですか?」
ベシアトーゼの言葉は予想外だったのか、先程までの威勢はどこへやら、シーニはぽかんとしている。
これはチャンスだ、とベシアトーゼは畳みかけた。
「そう。王宮の中に入ったら、簡単には外に出られないでしょう。あなたには連絡役をしてほしいの。それと、必要に応じて王宮外で調べた事を、中にいる私に伝えてほしいのよ」
そこで一度言葉を切ったベシアトーゼは周囲を窺い、人気がないかを確かめる。さすがに伯爵家の客人、それも遠縁に当たる娘の部屋を盗み聞きする使用人はいないようだ。
それでも、ベシアトーゼはシーニと顔を突き合わせて声を落とした。
「よく聞きなさい、シーニ。私は、ルカーナ様の駆け落ち騒動には裏があると思っているの。考えてご覧なさい。領地から出ずに育った深窓の令嬢が、身分違いの男と駆け落ちなんてすると思う? しかも、王宮に上がる事が決まっているというのに」
「トーゼ様ならやると思います」
「私の事はいいの! 今話しているのは普通のお嬢様よ、普通の。……とにかく、駆け落ち騒動には、王宮を騒がせている派閥争いが絡んでると睨んでいるの。私は、ルカーナ様は駆け落ちではなく攫われたのではないかと思っているのよ。王妃派のロンカロス家を破滅させる為だけに、娘のルカーナ様を拐かしたんだわ!」
卑劣な真似を。そう呟いたベシアトーゼの手を、シーニがぎゅっと握る。
「わかりました、トーゼ様。トーゼ様は、王宮内で犯人を捜すおつもりなんですね?」
「そうよ。でも、これは叔父様達には絶対内緒なの。わかるわね?」
「はい、伯爵様がお聞きになったら、きっと反対なさるでしょう」
シーニの言う通り、セベイン叔父は黙ってはいまい。彼は貴族らしい貴族であり、かつ、家の難事を乗り切る為に姪である自分を利用する事に罪悪感を感じている。そんな叔父が、危ない真似を許すとは思えなかった。
大体、普通の淑女は間違っても犯人捜しなどしないものだ。それを王宮でやろうというのだから、ベリルが知ったら卒倒ものだろう。
だが、ベシアトーゼには今回の事について思うところがあった。
そもそも、くだらない権力争いがしたければ、自分達だけでやればいいのだ。まだ社交界にも出ていないような娘を拐かすなど、それが貴族の、王族のやる事か。そんな腐った人間達が将来の王とその周囲を固める国など、ろくなものではない。
政治が綺麗事だけで済まない事は、ベシアトーゼもわかっている。どうしても汚れた部分が出てしまう事もあるだろう。だからといって、罪もない令嬢を攫っていい道理はない。
拐かされたと表沙汰になれば、貴族の娘であるルカーナはまともな人生を歩めなくなる。修道院に入れられるか、領地で後ろ指を指されながら生きるくらいしか道がなくなるのだ。
それに、最悪のケースも考えておくべきだろう。ベシアトーゼは、身代金目当てで誘拐された貴族の娘が、亡骸で見つかったという話を聞いた覚えがある。令嬢は、誘拐されたその日に殺されたのだとか。
人を生かしておくのは、管理の面からも苦労がつきまとう。手間を惜しむ犯人の場合、生きているように見せかけて、その実さっさと殺している事も多いのだそうだ。
生きていても死んでいても、実家の者以外に見つけられてしまったらルカーナの名誉は傷つけられる。それはそのまま、ロンカロス伯爵家の傷にもなるのだ。
改めて、ベシアトーゼは犯人に怒りを覚えた。
「見てらっしゃい。絶対に尻尾をふん捕まえて、吠え面をかかせてやる!」
ぐっと拳を握ったベシアトーゼを見て、シーニは手を叩いて喜び、部屋の隅に控えていたノネは恐怖で涙ぐんでいる。
犯人を決して許さない。たとえ王族であろうとも、必ずその罪を白日の下にさらしてやるのだ。
王都ギネヴァンの大通りを行く馬車の中で、ベシアトーゼは憂鬱な表情を隠さなかった。その原因はこれから行く王宮でもないし、自分のものではないドレスを着ているからでもない。
全ては、目の前で泣き続けているノネが元凶だ。
「いい加減、泣きやみなさい、ノネ。縁起でもない。これから新しい生活が始まるのよ」
「で、でもお、トーゼ様あ……」
「それ!」
ベシアトーゼは手に持った扇をビシッとノネに突きつけた。
「今の私は『ルカーナ』だと、何度も言ったじゃないの。違う名前で呼びたくなければ、『お嬢様』と呼びなさい」
「はい、お嬢様……でも、これから行くところは王宮なんですよね? 怖い事が一杯あるんじゃないかって、不安で不安で……」
そう言ってまたべそをかくノネを見て、この人選は間違っていたのではないかと、ベシアトーゼまで不安になる。
だが、こう見えて、この娘は意外に強い。怖がりつつも、しっかりと周囲を観察して異変を見抜く。
いや、恐がりだからこそしっかりと観察するのだ。ノネにとっての「怖いもの」が早く見つかれば、その分、対処の時間が取れるからだろう。
ベシアトーゼには今一つよくわからない感覚だが、ノネの扱い方は心得ているので問題はなかった。
馬車はギネヴァンの大通りを走り抜け、王宮であるヴィンティート宮へと向かっている。ヴィンティート宮はギネヴァンの西寄りにあり、広大な庭園を擁する美しい宮殿として知られているそうだ。
と言っても、ベシアトーゼにとっては聞いただけの話であり、見た事はない。本物のルカーナも、王都にはあまり来ないので見た事がないのだとか。
彼女が領地から出ずに生活していたからこそ、今回の入れ替わりが成り立つ。本物のルカーナを知る人間が、王都ギネヴァンには殆どいなかった。
かといって、領地には多くいるのかといえばそんな事もない。ベシアトーゼとは違って領地の館からほぼ出ずに育ったルカーナの顔を知っているものは、側についていた使用人くらいという話だ。
ならば、似た者でなくともいいのではとも思うけれど、せっかくここまでそっくりなベシアトーゼがいるのだ。念には念を入れて入れ替わりを演じるべきだろう。
「見えて参りました。あれがヴィンティート宮です」
御者の声が車内に響く。はしたなくない程度に窓から外を覗くと、立派な門と、その向こうに美しい巨大な建物が見えてきた。
あれが、ヴィンティート宮。ベシアトーゼにとって、大きな建物といえば自分の生まれ育った伯爵領の領主館くらいだ。しかし、目の前のヴィンティート宮は、その領主館が軽く五つは収まりそうな広大さである。高さはそれ程ないのだが、横の広がりが凄い。
セベイン叔父には、王宮内では迷子になる事を一番心配するように、と言われている。長く出仕している叔父ですら、普段行かない区画については知らないらしく、そのような場所に行く場合は、必ず案内役を立てるのだという。
――さすがは王宮……我が国の王宮も、こんな大きさなのかしら。
社交界デビューをしていないベシアトーゼは、まだタイエントの王宮どころか、王都にすら行った事がない。だというのに、先に他国の王都、王宮に入る事になるとは。
「いよいよエンソールドに入りましたね。私、柄にもなく胸の高鳴りが止まりません」
「うう……とうとう異国に来てしまいました……」
馬車の中では、対照的な意見が出ていた。ノネの泣き言はいつもの事なので放っておくとして、シーニの言葉にはベシアトーゼも頷く。
港に近いギネヴァンは、常に潮の香りに包まれた都なのだとか。海へ流れ込む大きな川には船が何艘も浮かび、それらを眺めているだけで一日が終わると、母はよく笑っていた。その母の故郷に今向かっている運命の不思議に、ベシアトーゼは思いをはせる。
国境を越えて山道を進み、やがて平地に入ると景色は一変した。北の国であるはずのエンソールドは、山道こそ冬を感じさせたが、平地に下りてからはまだ秋ではないのかと思う程の気温だ。
そういえば、以前聞いた事がある。東の海は温かく、また西にある山々が冷たい西風を遮るので、エンソールドは雪が深くないのだとか。
一方で、本格的な冬に入ると乾燥した風が吹く為、寒さはそれなりだとも聞いている。
――この国で、冬を越す事になるかもしれないのね……
衣装箱には冬用の衣装も入ってはいるが、エンソールドとは仕立てが違う。長くいるなら、こちらで改めて仕立てる必要があるだろう。
面倒な事だ。領主館にいれば、普段着は領内の仕立屋で簡単に手に入るものを。ベシアトーゼはまだ社交界デビューをしていないので、ドレスを大量に作る必要がなかったのだ。
遅れていたとはいえ今年の冬にはデビューする予定だったけれど、今回の件でまた遅れるだろう。そう思うと、あの何とか侯爵の馬鹿息子に対する怒りが再燃した。
エンソールド王国王都ギネヴァンは、国土の東北東に位置する。良港として知られるギネヴァン港があるおかげか、この国は海軍が強いという噂だ。
そのギネヴァンに到着したのは、国境を越えてからさらに半月が経った頃である。ヘウルエル伯爵領から出発し、約一月かかっていた。これが遅いのか早いのか、ベシアトーゼにはわからない。
しかし、とにかく疲労が溜まっている事は確かだった。エンソールドに入って以降、宿泊は主に修道院を利用していたが、一泊した翌日には再び馬車に揺られる日々が続いたせいか、疲労が蓄積するばかりだったのだ。
しばらく部屋でゆっくりと休みたい。領主館にいた頃は、毎日館から出て何をするかばかり考えていたというのに。
揃って疲れた顔を見せるベシアトーゼ達を乗せた馬車は、無事ギネヴァンにあるロンカロス伯爵邸に到着した。
ベシアトーゼが来る事は早馬で報せてあるので、邸の準備は整っているはずだ。馬車から降りた彼女の目の前には、勢揃いする使用人達と、彼等の向こうに待つ男女の姿があった。
出で立ちからして、男性はこの家の当主で叔父のセベインだろう。とすると、彼の隣に立っている女性は叔父の妻で、ベシアトーゼの義理の叔母にあたる女性か。それにしては、随分と若かった。おそらくベシアトーゼとあまり変わらない。
貴族の結婚はまず家ありきだから、年齢差のある夫婦は多いと聞く。叔父夫婦もそうなのかもしれない。
叔父は父ゲアドに比べると幾分横幅があるが、骨格がしっかりしているタイプの人物で、太っている印象はない。母セマと同じ濃い色の金髪を貴族らしく後ろになでつけていた。
隣の女性は背中の中程までの栗色の髪を下ろし、後ろでゆるく結っている。ドレスの型はエンソールド風で、タイエントのものと比べると色鮮やかな花柄が目を引く。
まずは挨拶を、と思い足を進めると、それより早く叔父夫婦がこちらに駆け寄ってきて、がっしりとベシアトーゼの肩を掴んだ。
「あの――」
「ルカーナ! お前、今までどこに行っていたんだ!?」
「心配したのよ、ルカーナさん! 怪我などはなくて!?」
「はい?」
それ、誰? と口に出さなかった事を褒めてもらいたい。呆然とするベシアトーゼの様子に、叔父夫婦もようやく何かがおかしいと気付いたようだ。
「どうしたんだ? ルカーナ……大体お前、何故そんな異国の衣装を着ているんだ?」
「それに髪型も……我が国では、そんな風に結わないのに……」
戸惑う叔父夫婦に、ベシアトーゼの背後から声がかかる。
「発言をお許しいただけますか?」
シーニだ。叔父夫婦は今になって彼女の存在に気付いたらしく、背後を見やっている。
「お前は?」
「はい。タイエント王国ヘウルエル伯爵家に仕えております、シーニと申します。こちらにいらっしゃるのは、当家のお嬢様でベシアトーゼ様です。ご当主の姉君、セマ様の忘れ形見でいらっしゃいます」
叔父の問いにすらすらと答えたシーニの言葉を聞いて、叔父夫婦は驚愕した。
「そ、そういえば、早馬が来たのだったな……」
「という事は、こちらはルカーナさんではなく別人だと? そんな、まさか……」
今度は叔父夫婦が呆然とする番のようだ。
無事邸の中に案内されたベシアトーゼは、挨拶もそこそこに叔父夫婦から謝罪される事となった。
「本当に申し訳ない!! 君があまりにも我が娘に似ていたもので、つい……」
「いえ、お気になさらず……」
どうやら、「ルカーナ」というのは叔父、ロンカロス伯爵セベインの娘の名前らしい。聞けば年齢もちょうどベシアトーゼと同じだという。
そっとロンカロス伯爵夫人が差し出した細密画に目を落とすと、自分が描かれていた。いつの間にこんなものをこちらに送ったのか。だが、よく見ると見覚えのないドレスを着ているし、髪型も普段とは違い背に下ろしている。おかしいと思ったすぐ後、これがルカーナなのだと理解する。なるほど、これでは叔父達が見間違えても不思議はない。
細密画のルカーナは、髪の色も目の色もベシアトーゼと同じだった。強いて違う部分をあげるとすれば、目元の印象だろうか。
ベシアトーゼは気の強さが目元に表れているとよく言われるが、ルカーナはおっとりとした目つきをしている。きっとおとなしい、淑女らしい淑女なのだろう。ベリル辺りが知ったら、彼女を見習えと泣きながら言いかねない。
「それで、そのルカーナ様は、今どちらに?」
初めて会う母方の従姉妹だ。しかもここまで似ているとあっては、興味をそそられるのも当然というもの。
だが、その無邪気な問いに、目の前に座る叔父夫婦は傍目にもわかる程、憔悴した様子を見せている。一体、どうしたというのか。
しばらく逡巡していたセベイン叔父だが、やがて意を決したように口を開いた。
「ベシアトーゼ、君が大変な事に巻き込まれて我が家に来た事は承知の上で、図々しい頼みをきいてもらいたい」
「……どういう事ですか?」
セベイン叔父のあまりの真剣さに、さすがのベシアトーゼも訝しむ。セベイン叔父は一度目をぎゅっと瞑った後、ベシアトーゼを真っ直ぐに見つめた。
「君に、ルカーナとして王宮に上がってほしいのだ」
叔父のこの言葉に、ベシアトーゼははしたなくもぽかんと口を開けてしまった。
「無茶な頼みだという事は、わかっている。だが、このままでは我が家は破滅だ」
そう言って頭を抱える叔父を、そっと労る叔母。どうも、現在このロンカロス伯爵家は窮地に立たされているようだ。しかも、娘のルカーナ絡みで。
呆けている場合ではない。母の実家の一大事となれば、自分にとっても無関係ではなかった。王宮に上がるというのが気になるが、まずは話を聞くべきではないか。
「あの……詳しい話を聞いてもよろしいですか?」
ベシアトーゼが水を向けると、セベイン叔父は即座に語り始めた。余程溜め込んでいたのだろう。
叔父の話によれば、ルカーナはベシアトーゼ同様、ずっとロンカロス伯爵領で暮らしていたそうだ。ルカーナの産みの母は出産で命を落としていて、彼女はずっと乳母と教育係に育てられていたという。
――……何だろう、この共通項の多さ。見た目が似ていると、生い立ちまで似るものなの?
もっとも、ベシアトーゼの母は出産で命を落としたのではなく、出産から六年後に流行病で亡くなったのだが。
ちなみに、現在のロンカロス伯爵夫人は後添いで、叔父と彼女との間には娘と息子が生まれているらしい。
当初はルカーナも十五歳になる前に王都へ来て家族で暮らす予定だったけれど、静かな伯爵領で育った彼女には、王都の賑わいは合わず、領地に帰りたがったそうだ。
しかも継母である現伯爵夫人との仲もぎくしゃくしていた為、結局彼女の希望を受け入れ、伯爵領で生活する事になったという。
「だが、ルカーナは我が家の長女だ。いつまでも田舎に引っ込んでいられる訳はない」
ロンカロス伯爵家は、王宮でも重要な地位をいただいている家なのだとか。そして問題なのは、現在エンソールド王宮は二つの派閥に分かれて争っているという事だ。
――あの何とか侯爵の件だけじゃなく、ここでも派閥? まったく、いい迷惑だわ。
素直な感想は当然口にせず、ベシアトーゼはセベイン叔父の話の続きを聞いた。
宮廷を二分する派閥は、次期王位継承に関わっている。エンソールド国王は小国から娶った王妃を数年前に亡くしており、その前王妃との間には王女が三人しかいなかった。エンソールドでは、女児が王位を継ぐ事はない。
そんな中、二年前に隣国ダーロ王国から王女が輿入れし、二大国が手を結んだのだ。現王妃は若く、これからいくらでも世継ぎとなる王子を儲ける可能性があった。それもまた、この結婚が祝福された所以である。
だが、この結婚を祝福しない者達もいた。現国王の弟であるサトゥリグード大公ヨアドを次期国王に推す一派だ。
現王妃に男児が生まれなければ、王弟ヨアドが次代の王である。また、ダーロとの結びつきを良しとしない一派がこれに加わり、王妃派、大公派と分かれて争っているのだとか。
そして、ロンカロス伯爵家は王妃派なのだ。
「その事もあり、長女のルカーナを王妃陛下の侍女にどうかと打診をいただいたのだ。当然了承して、伯爵領からあの子を呼び寄せ、必要な教育を受けさせたというのに……」
喧噪を厭うルカーナは、王宮に上がる事に乗り気ではなかったという。それでも家の為にと、日々けなげに教えを受けていたそうなのだが。
「ほんの十日前に、突然駆け落ちしてしまったのだ」
「ええ!? 駆け落ち!?」
いきなりの展開に、ベシアトーゼは黙っていられず声を張り上げた。だってそうだろう、王都の賑わいを苦手とする程の深窓の令嬢が、どうして駆け落ちなどという大胆な事をするのか。
すぐさま側に控えていたシーニに小声で窘められ、ベシアトーゼはばつが悪い思いをしながら「失礼」と謝罪した。
それを見計らったかのように、セベイン叔父が咳払いをする。
「君が驚くのも無理はない。私達も驚いたものだ。置き手紙にはあの子の小間使いの字で、身分違いの相手と恋に落ち、彼と添い遂げる為に家を出る、と……」
セベイン叔父の言葉に、ベシアトーゼは引っかかりを覚えた。小間使いが主の手紙を代筆する事自体はよくある事だが、駆け落ちの置き手紙、まして実の父親に当てたものまで代筆させるだろうか。
それに、普通の貴族令嬢が、身分違いの男と恋に落ちるという筋書きも信じがたい。
セベイン叔父の説明によれば、彼女は王妃に仕える侍女として王宮へ上がる事が決まっていた娘だ。当然、伯爵家としてもその日まで一つの間違いもないように目を光らせていたはず。田舎暮らしが長く世慣れていなかったルカーナが、その監視をかいくぐって相手との逢瀬を繰り返せただろうか。
そもそも、そんな中でいきなり恋人を作れるのかどうかも疑問だ。一つ一つは些細な事だが、違和感を覚える。
「叔父様、いくつか伺ってもよろしいですか?」
「あ、ああ。何かね?」
ベシアトーゼに質問されるとは思っていなかったのか、セベイン叔父は少し驚いた様子だが、快く承諾してくれた。
「まず、ルカーナ様の性格についてです。先程の細密画を見る限り、ルカーナ様はおとなしい方のように感じるのですけど」
「ああ、そうだね。おとなしい……というか、主張をしない子だ。自分の娘にこんな事を言うのはどうかと思うが、言いつけに背く子ではない」
おそらく、周囲の言葉に逆らう気力のない娘、という意味だ。だとすれば、やはり彼女の駆け落ちはどこかおかしい。
「では次に。ルカーナ様が失踪されて、もしそっくりな私がここに来なければ、ロンカロス伯爵家はどうなっていましたか?」
「……我が伯爵家は二度と宮廷に上がる事は出来ないだろう」
それはつまり、伯爵家の破滅を意味する。だからセベイン叔父は「ルカーナとして王宮に上がってほしい」と言ったのだ。王妃の侍女に決まっていた娘が行方をくらましたとあっては、話は伯爵家だけの問題ではない。
事によっては「王妃の侍女になるのが嫌だから、娘が家出をしたのだ」などと言いふらす者も出るだろう。そんな噂が広まれば王妃の評判は落ちるし、ダーロとの同盟にもひびが入る。貴族の世界において、噂は時に恐ろしい凶器になる。
ベシアトーゼは少し考えて、質問を続けた。
「ルカーナ様の消息は、探しているのですよね?」
「もちろんだ。ただ、事が事だけに表立って動けず、捜索ははかばかしくない」
駆け落ちであれ何であれ、令嬢が行方不明という話が流れれば、伯爵家は当然の事、ルカーナ本人の未来も閉ざされる。醜聞まみれの令嬢の行く末など、察するに余りあるというものだ。
やはり、ルカーナの駆け落ち騒動の裏には、ロンカロス伯爵家と王妃を陥れたい誰かがいるのではないか。
――駆け落ち相手なんていなくて、ルカーナ様は攫われたのではないかしら。
いくつか気になる点もあるが、それよりルカーナの安否と、伯爵家の行く末が問題だ。ルカーナの身に関しては、ベシアトーゼにはどうにも出来ない。セベイン叔父が人をやって探している結果を待つ以外にないだろう。
しかし、伯爵家の行く末には、少しは関わる事が出来る。もしこれが仕組まれたことならば、犯人の誤算はここにルカーナそっくりのベシアトーゼがいる事だ。
これも全て、神の思し召しかもしれない。ベシアトーゼは少しの間きつく目を閉じると、意を決してセベイン叔父を見つめた。
「叔父様、決めました。私、先程のお話を引き受けます」
「おお! やってくれるのか!」
「ええ、他ならぬ亡き母の実家の為ですもの」
ここでロンカロス伯爵家を見捨てる事など、母の名にかけて出来ない。それに、気弱なルカーナが力ずくで攫われたのならば、犯人にも思うところがあるのだ。
ベシアトーゼは、邸に到着する前の疲れが嘘のように、やる気にみなぎっていた。
ルカーナが侍女として王宮に上がる日は、実は明日の予定だったそうだ。とはいえ、急にベシアトーゼがルカーナと入れ替われる訳はないので、体調を崩して王宮に上がるのが遅れると連絡をしてもらっている。
その猶予は、わずか十日あまり。この間に、ルカーナのドレスをベシアトーゼのサイズに直し、ベシアトーゼ本人はエンソールドで淑女が必要とする教養を身につけなくてはならない。
幸い、タイエントとエンソールドの文化はそこまで差異がないので、これまで培ってきた教養が役に立つ。
それでもわずかな違いはあるし、何より王族や王宮の事を一から学ばなくてはならない為、それなりに大変だった。
ベシアトーゼは刺繍をするより座学の方が好きな質なので、詰め込み授業でも音を上げることはない。問題は、礼儀作法だった。
「す、少し休憩を……」
「いいえ、まだまだですよ、ベシアトーゼ様!」
ぐったりするベシアトーゼを叱咤激励するのは、セベイン叔父の妻であり、義理の叔母であるジェーナだ。彼女は隣国ダーロから嫁いできた女性で、叔父とはやや年齢差がある。後添いだから、そんなものなのかもしれないが。
それはともかく、礼儀作法の教師役を務める彼女は大変厳しかった。これには、野山を駆け巡っていた事で体力に自信があるベシアトーゼも参っている。
「お辞儀の角度が違います! 手はこう! 腰はここまで落とさなくてはいけません!」
「は、はい!」
正直、タイエントにいた頃ですらここまで気合を入れて礼儀作法を学んだ事はない。だが、これも王宮に上がる為の試練と思い、ベシアトーゼは耐え抜いた。
準備の中には、王宮へ連れて行く小間使いの選抜もある。叔父からは事情をよくわかっている者をつけると言われたが、ベシアトーゼはある理由でそれを断った。今は、その件についてシーニから苦情を受けている。
「トーゼ様! 何故ノネだけ連れていかれるんですか!?」
タイエントから連れてきた供のうち、ノネだけを連れていくと言った途端、この騒ぎだ。
「仕方がないでしょう。侍女が王宮に連れていけるのは、小間使い一人だけと決まっているのだから」
「それはわかっています。でも、何故ノネなんですか!?」
シーニは聞き分ける気がないらしい。だが、彼女が何を言っても、ベシアトーゼにはノネを連れていかなくてはならない理由があった。
「ノネは危険察知能力が高いでしょう? 王宮の生活には、どうしても必要なのよ」
「それでしたら! 私の方が攻撃力は上です!」
「シーニ……あなた、王宮へ何しに行くつもり?」
「それはもちろん、トーゼ様に徒なす者達を殲滅します!」
満面の笑みで言う内容ではなかった。シーニは悪い子ではないのだが、いささかベシアトーゼに心酔しすぎるきらいがある。
とはいえ、忠誠心の強さは美徳なので、いたずらに抑え込むのもどうか。そのベシアトーゼの躊躇が今のシーニを作ったという事には、本人達は気付いていなかった。
それはともかく、今は目の前のシーニを説得しなくてはならない。ベシアトーゼは気合を入れた。
「シーニ、あなたには王宮の外から私達を支えてほしいのよ」
「外から、支える……ですか?」
ベシアトーゼの言葉は予想外だったのか、先程までの威勢はどこへやら、シーニはぽかんとしている。
これはチャンスだ、とベシアトーゼは畳みかけた。
「そう。王宮の中に入ったら、簡単には外に出られないでしょう。あなたには連絡役をしてほしいの。それと、必要に応じて王宮外で調べた事を、中にいる私に伝えてほしいのよ」
そこで一度言葉を切ったベシアトーゼは周囲を窺い、人気がないかを確かめる。さすがに伯爵家の客人、それも遠縁に当たる娘の部屋を盗み聞きする使用人はいないようだ。
それでも、ベシアトーゼはシーニと顔を突き合わせて声を落とした。
「よく聞きなさい、シーニ。私は、ルカーナ様の駆け落ち騒動には裏があると思っているの。考えてご覧なさい。領地から出ずに育った深窓の令嬢が、身分違いの男と駆け落ちなんてすると思う? しかも、王宮に上がる事が決まっているというのに」
「トーゼ様ならやると思います」
「私の事はいいの! 今話しているのは普通のお嬢様よ、普通の。……とにかく、駆け落ち騒動には、王宮を騒がせている派閥争いが絡んでると睨んでいるの。私は、ルカーナ様は駆け落ちではなく攫われたのではないかと思っているのよ。王妃派のロンカロス家を破滅させる為だけに、娘のルカーナ様を拐かしたんだわ!」
卑劣な真似を。そう呟いたベシアトーゼの手を、シーニがぎゅっと握る。
「わかりました、トーゼ様。トーゼ様は、王宮内で犯人を捜すおつもりなんですね?」
「そうよ。でも、これは叔父様達には絶対内緒なの。わかるわね?」
「はい、伯爵様がお聞きになったら、きっと反対なさるでしょう」
シーニの言う通り、セベイン叔父は黙ってはいまい。彼は貴族らしい貴族であり、かつ、家の難事を乗り切る為に姪である自分を利用する事に罪悪感を感じている。そんな叔父が、危ない真似を許すとは思えなかった。
大体、普通の淑女は間違っても犯人捜しなどしないものだ。それを王宮でやろうというのだから、ベリルが知ったら卒倒ものだろう。
だが、ベシアトーゼには今回の事について思うところがあった。
そもそも、くだらない権力争いがしたければ、自分達だけでやればいいのだ。まだ社交界にも出ていないような娘を拐かすなど、それが貴族の、王族のやる事か。そんな腐った人間達が将来の王とその周囲を固める国など、ろくなものではない。
政治が綺麗事だけで済まない事は、ベシアトーゼもわかっている。どうしても汚れた部分が出てしまう事もあるだろう。だからといって、罪もない令嬢を攫っていい道理はない。
拐かされたと表沙汰になれば、貴族の娘であるルカーナはまともな人生を歩めなくなる。修道院に入れられるか、領地で後ろ指を指されながら生きるくらいしか道がなくなるのだ。
それに、最悪のケースも考えておくべきだろう。ベシアトーゼは、身代金目当てで誘拐された貴族の娘が、亡骸で見つかったという話を聞いた覚えがある。令嬢は、誘拐されたその日に殺されたのだとか。
人を生かしておくのは、管理の面からも苦労がつきまとう。手間を惜しむ犯人の場合、生きているように見せかけて、その実さっさと殺している事も多いのだそうだ。
生きていても死んでいても、実家の者以外に見つけられてしまったらルカーナの名誉は傷つけられる。それはそのまま、ロンカロス伯爵家の傷にもなるのだ。
改めて、ベシアトーゼは犯人に怒りを覚えた。
「見てらっしゃい。絶対に尻尾をふん捕まえて、吠え面をかかせてやる!」
ぐっと拳を握ったベシアトーゼを見て、シーニは手を叩いて喜び、部屋の隅に控えていたノネは恐怖で涙ぐんでいる。
犯人を決して許さない。たとえ王族であろうとも、必ずその罪を白日の下にさらしてやるのだ。
王都ギネヴァンの大通りを行く馬車の中で、ベシアトーゼは憂鬱な表情を隠さなかった。その原因はこれから行く王宮でもないし、自分のものではないドレスを着ているからでもない。
全ては、目の前で泣き続けているノネが元凶だ。
「いい加減、泣きやみなさい、ノネ。縁起でもない。これから新しい生活が始まるのよ」
「で、でもお、トーゼ様あ……」
「それ!」
ベシアトーゼは手に持った扇をビシッとノネに突きつけた。
「今の私は『ルカーナ』だと、何度も言ったじゃないの。違う名前で呼びたくなければ、『お嬢様』と呼びなさい」
「はい、お嬢様……でも、これから行くところは王宮なんですよね? 怖い事が一杯あるんじゃないかって、不安で不安で……」
そう言ってまたべそをかくノネを見て、この人選は間違っていたのではないかと、ベシアトーゼまで不安になる。
だが、こう見えて、この娘は意外に強い。怖がりつつも、しっかりと周囲を観察して異変を見抜く。
いや、恐がりだからこそしっかりと観察するのだ。ノネにとっての「怖いもの」が早く見つかれば、その分、対処の時間が取れるからだろう。
ベシアトーゼには今一つよくわからない感覚だが、ノネの扱い方は心得ているので問題はなかった。
馬車はギネヴァンの大通りを走り抜け、王宮であるヴィンティート宮へと向かっている。ヴィンティート宮はギネヴァンの西寄りにあり、広大な庭園を擁する美しい宮殿として知られているそうだ。
と言っても、ベシアトーゼにとっては聞いただけの話であり、見た事はない。本物のルカーナも、王都にはあまり来ないので見た事がないのだとか。
彼女が領地から出ずに生活していたからこそ、今回の入れ替わりが成り立つ。本物のルカーナを知る人間が、王都ギネヴァンには殆どいなかった。
かといって、領地には多くいるのかといえばそんな事もない。ベシアトーゼとは違って領地の館からほぼ出ずに育ったルカーナの顔を知っているものは、側についていた使用人くらいという話だ。
ならば、似た者でなくともいいのではとも思うけれど、せっかくここまでそっくりなベシアトーゼがいるのだ。念には念を入れて入れ替わりを演じるべきだろう。
「見えて参りました。あれがヴィンティート宮です」
御者の声が車内に響く。はしたなくない程度に窓から外を覗くと、立派な門と、その向こうに美しい巨大な建物が見えてきた。
あれが、ヴィンティート宮。ベシアトーゼにとって、大きな建物といえば自分の生まれ育った伯爵領の領主館くらいだ。しかし、目の前のヴィンティート宮は、その領主館が軽く五つは収まりそうな広大さである。高さはそれ程ないのだが、横の広がりが凄い。
セベイン叔父には、王宮内では迷子になる事を一番心配するように、と言われている。長く出仕している叔父ですら、普段行かない区画については知らないらしく、そのような場所に行く場合は、必ず案内役を立てるのだという。
――さすがは王宮……我が国の王宮も、こんな大きさなのかしら。
社交界デビューをしていないベシアトーゼは、まだタイエントの王宮どころか、王都にすら行った事がない。だというのに、先に他国の王都、王宮に入る事になるとは。
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