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リリーのアンネゲルト様観察日記

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七月某日
 とうとう帝国を出発する日が来ました。お父様からもお祖父様からも研究だけは続けるよう、口を酸っぱくして言われてますが、私に限って研究をおろそかにするはずがありませんのに。お二人とも、心配のしすぎですよ。

 船の中では、これから仕えるべき相手であるアンネゲルト様にご挨拶しました。皇帝陛下の姪姫でいらっしゃる方ですから、どんな方かと興味津々でありましたが、取り立ててどうという事のない方のようです。魔力も感じ取れませんでしたし。
 でも私がリリエンタール男爵家の者だと聞いても、他の貴婦人の方々のように眉を顰めたりはなさいませんでした。もしかしたら、わたしの研究に興味をもってくださるかも知れません。楽しみですね。

七月某日
 オッタースシュタットには初めてきました。北の港町だというのは知っていましたが、船から下りて領主館へ向かう道筋はとても活気に溢れるものでした。
 ここの領主様はヘルツシュプルング侯爵という方です。釣りが大層お好きな侯爵様は、アンネゲルト様との会食の際にもその事を話題になさったんだとか。アンネゲルト様はにこやかに教えてくださいました。
 侯爵はお話がお上手らしく、釣りにご興味のないアンネゲルト様でも、つい楽しく話に引き釣り込まれてしまった、と仰っていました。何にしても楽しめたのなら、良い事だと思います。

 そういえば、釣りや漁に関する魔導研究もあったと思いましたが、はて? どんなものだったかしら。

七月某日
 ここオッタースシュタットの領主館にはとても素晴らしい書庫がありました! 帝都もかくやという蔵書の質と量です。
 私がこの書庫に籠もっている間、アンネゲルト様はザンドラと一緒に街に出ていたそうです。私も一緒にどうか、と誘われた時は耳を疑いました。私を街に誘った人なんて、今まで一人もいませんよ。
 でもアンネゲルト様は普段と違う格好で、一人より二人、二人より三人の方が楽しいと思うの、と仰っていました。
 でも残念ながら、私には書庫で本を読むという目的が出来てしまいましたから、正直にお話してお断りせざるを得ませんでした。
 お気を悪くなさるかしら、と心配をしたのですが、アンネゲルト様は笑ってかまわないと仰ってくださいました。それどころか、本を堪能してね、とまで仰ってくださったんです。
 アンネゲルト様はお顔は整っていらっしゃるとは思いますが、他にどうという事のない方だとばかり思っていました。でもとてもお優しい方だったんですね。
 おかげで私は書庫の本を堪能する事が出来ました。本当に素晴らしい蔵書です。聞くと何代か前のご当主様が集められた本なんだとか。その時のご当主はきっと本がお好きだったんでしょうね。
 魔導に関する貴重な本をいくつも見る事が出来て、本当に感激致しました。いくつかは帝都へ問い合わせをしようと思います。手元に置いておきたいですものね。

 アンネゲルト様がお戻りになられて、ティルラ様と一緒にザンドラの報告を聞きました。酔っ払いなどと、本当に迷惑な存在ですね。いっそ二度と酒を飲めない体質にして差し上げようかしら。
 私がそう申したら、ティルラ様が妙な表情をなさったんですけど、どうしてでしょうね?
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