炭鉱長屋

むとう けい(武藤 径)

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 基子がお茶を飲みだしたころ、不意に年配の女性が話しかけてきた。

「奥さん、可愛らしいお嬢さんはお孫さん?」
「ええそうです。札幌から娘が孫と一緒に帰ってきましてね」
「いいわねぇお嬢ちゃん、おばあちゃんと一緒でいいね」
 目を細めた女性は基子と同じくらいの年齢に見えた。「お嬢ちゃんおいくつなの?」
「七才」
 愛は後からきたクリームソーダ―のアイスをすくって食べていた。
「そう、おばあちゃんと。いいわね」
「うん」
「ご兄弟はいるの?」
「もうすぐ生まれる」
「まぁ、それは楽しみ。こうして、おばあちゃんと一緒にご飯をいただけて、本当に羨ましいわ」
 愛はあまりに羨ましがる女性にどぎまぎして、基子とクリームソーダをかわるがわる見つめた。
「急に、ごめんなさいね、急に。ーーおばちゃんに子供がいなかったものだから、つい、羨ましくて声をかけちゃったの」
 どうやら女性は一人で食事にきていたようだ。それに、どこか人恋しく、寂しげだった。基子と一通り世間話をしてから、邪魔をしたと詫びながら食堂を後にした。
「おばあちゃん、あの人、どうしたの?」
「おばあちゃんにも、事情はわからない。けれど、長いこと一人で暮らしているって言っていたから、もしかしたら、ずいぶん前にご主人を亡くされたんじゃないかと思うわ」
 基子は感慨深げに言った。日本の女性たちは先の戦争を乗り越えた。寿命についても女性の方が比較的長生きだ。また、夕張においては炭鉱事故も度々起きていた。夫や息子が巻き込まれるケースも少なくなかったのだ。この時代、孤独な女性は多かったのかもしれない。

 町から帰ってきた愛は、駄菓子屋さんで買ってもらったシャボン玉を吹いて遊んだ。薄い虹色の球体が煙突の高さまで昇り、風に吹かれてパチンと消えてゆくさまを眺めていた。

「愛、そろそろ浴衣に着替えたら?」
 康子に呼ばれて、玄関わきにある和室に入る。お母さんに服を脱がされ、シャツとパンツだけの姿になると、基子は愛に浴衣を着せつけた。
「愛ちゃんは痩せているからね」
 基子は新聞を折り曲げて兵児帯の台紙に使う。お腹に芯の部分が当たるように帯を結んだ。
「さぁできた」
「ほら、愛、聞こえる? 太鼓が鳴っている」
 康子は“どっこいしょ”と言いながら立ち上がった。



 
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