《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

675.オレが大公妃になってから、オレと仕事をするようになった人達と、オレとオレの味方のヒサツグ派の間には越えられない溝がありますので?

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オレと秘書とヤグルマさんが近づいてきているのを認めた中立派とシガラキノ王女殿下を大公妃に派は、にこやかな笑顔を作って、オレに向けた。

「(そこは、ヒサツグ様に頭を下げたまま待つところだろう。)」
という秘書の苛立たしげな心の声を聞いたような気がするのは、空耳かな?

頭を下げる気配がないので、オレから話をふる。

「祝言に参加した感想は、何かあるかな?」

グラスを揺らしながら話しだしたのは、中立派の文官。

「祝言とは、異世界の結婚式のような風習だそうですね。」

「昔のな。」

短く答えて、次の発言を待つ。

「そういえば。ヒサツグ様は、結婚式の後にお披露目ができていませんでしたね。」

昔の、というオレの返事を掘り下げて、会話を続ける気は、中立派の文官にはなかったらしい。

「そういえば、本日は、結婚式の式の後のお披露目ができなかったことを残念に思われたクロード様が、ヒサツグ様に見せ場を用意された会でしたかなあ?」

サーバル王国のシガラキノ王女殿下を大公妃に派の仕事を請け負っていた職人が、口を開いた。

祝言を結婚式のお披露目の代わりとはうたわなかった。

でも、そういう風に見られていたんだな。

今後も、お披露目したかったのに、できなかったヒサツグの晴れ舞台を用意してもらったんですねー、良かったですねー、と言いそうだな。

あまりにもオレに失礼だから、釘を差しておきたい。

でも、今じゃない。

今は、腹の内のものを吐き出させる時間だ。

「やれ、めでたい日となりまして、お慶び申し上げます。」

グラスを掲げながら祝いの言葉を述べているのは、サーバル王国のシガラキノ王女殿下の個人資産から援助されていた農家の人。

オレとグラスに入っているお酒とグラスを値踏みしている農家の人は、ケレメイン公爵領民ね一部の農家のまとめ役をかってでて、シガラキノ王女の個人資産による優先的な買い付けを受け入れた人だ。

農作物の販売については、サーバル王国の協力者となった人達への販売に特化したために、魔王による消失後すぐから困窮しないどころか、裕福になっている。

オレが、この農家の人に接触してやり取りするようになった理由は、サーバル王国の協力者となった人達と面識があり、連絡手段を持っていたから。

サーバル王国の甘い汁を吸いながら何食わぬ顔している人達の情報をオレは知りたかった。

この農家の人が、オレとのやり取りを拒まなかったのは、好機を見極める目と強い上昇志向を持っていたから。

国への忠誠心や、ケレメイン家への尊敬、オレへの興味からではない。

この農家の人は、農家という顔のまま、農作物を育てるのとは違うことをやりたがっている。

サーバル王国は、この農家の人の上昇志向を嗅ぎ取って、他の農家の人を管理するのに使っていた。

放置しておくには危険だから、監視する。

オレが、直接接触するのは、上昇志向が高じた農家の人が、他の農家さんを利用してさらなる高みを目指したりすることがないようにするため。

この農家の人は、上昇志向が強すぎるのと、魔王による消失前まで階級社会の上の階層の人達との交流がなかったために、階層が上の人との交流の仕方に慣れていない。

オレを下に見ていることを隠しきれていないから、上の階層の人達の仲間にはなれず、後任の適任者が現れるまでは、まとめ役を任され続けるだろう。

そういう人からのお祝いの言葉がどこか空々しいと感じるのは、言葉に心がこもっていないからだよなー。

「お披露目なんぞ、そもそも、ヒサツグ様には必要のないものでしたでしょうに。

クロード様の溺愛ぶりはとどまることを知りませんなあ。

クロード様に愛されているヒサツグ様は、お羨ましい限り。」

サーバル王国のシガラキノ王女殿下を大公妃に派の職人は、シガラキノ王女殿下が大公妃になっていないうちから、大公妃御用達の看板を作り、吹聴していた。

クロードに愛されていてヒサツグ様は無敵ですね、と言いたいんだろうなー。

職人がシガラキノ王女殿下のために作ったものは、全て、シガラキノ王女殿下がサーバル王国へと持ち帰った。

職人が大公妃シガラキノ様のために、と作って喧伝したものは一つも、ケレメイン大公国には残っていない。

クロードとの新婚夫婦用を想定して作られていたものばかりだったから、持ち帰ったシガラキノ様がサーバル王国で使っているかは不明だけどな。

職人が手がけたものは、シガラキノ様の好みを反映していた。

クロードから侵略だと糾弾され、女神様から認められなかったために、大公妃にならなかったと認識されたシガラキノ様の好みの品々を一般客へ売り出しても、買い手がつかない。

ケレメイン大公国では曰くありの代物になる。

シガラキノ様が持ち帰らなかったら、職人の手がけたものは、二束三文でもケレメイン大公国では売れなかったと思う。

サーバル王国のシガラキノ王女殿下を大公妃に派の職人として喧伝したりされたりして、名前を売った職人は、シガラキノ様の仕事を優先するあまりに、仕事を選びすぎて、シガラキノ様以外の一般客が職人の顧客リストから消えてしまった。

魔王による消失後から羽振りがよかった職人は、シガラキノ様が大公妃にならなかったために、命と技術以外と最低限の生活以外を失っている。

オレが取引を持ちかけなかったら、職人は行き詰まっていた。

職人の技術は確かだから、取引しようとオレは考えたんだけどさ。

生活のためにオレの仕事を引き受けたことは、職人のプライドを傷つけることだったらしい。

オレに取引を持ちかけられて生活に困らなくなった職人は。

生活に困らなくなったことを助かったとは考えなかった。

生きていくのにきゅうきゅうしなくて良くなった職人は、オレに職人としての輝かしい人生をつぶされて悔しいという思いがふつふつと込み上げてきたらしい。

オレが、恨みは水に流してやるぞ、という気持ちでいても、逆恨みされている。

気持ちいい関係を築けているとは言えないんだよなー。
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