《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

670.ヤグルマさんとオレは、回遊魚のようにぐるぐるしながら、話をします。

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ミーレ長官の息子さんケヤキくんは、愛こんにゃく家に任せて、ヤグルマさんとオレは、二人で歩く。

ミーレ長官の叔父にあたるマウンテン王国の先々代国王陛下からミーレ長官の身柄を任されて以来、愛こんにゃく家は、ミーレ長官一家を近くで見てきた。

マウンテン王国にいた愛こんにゃく家は、ミーレ長官の息子さんと直接関わることはなくても、ミーレ長官の息子さんも含めたミーレ長官一家を守ってきた。

ミーレ長官の息子さんケヤキくんと愛こんにゃく家は、知らない仲ではない。

ケヤキくんから見て、愛こんにゃく家は。

お父さんお母さんの味方でありながら、オレの味方でもあり、ケヤキくんの味方と言えるか分からないけれど、ケヤキくんに直接苦しい思いはさせなかった人になる。

ミーレ長官の息子さんケヤキくんと愛こんにゃく家が顔を合わせるのは、二年ぶり。

ミーレ長官の息子さんケヤキくんのこれまでの人生には、良くも悪くも、ケヤキくんに無関心な人は寄ってこなかった。

マウンテン王国は、ミーレ長官の息子に生まれたケヤキくんを生かしている限り、その存在を意識しないわけにはいかなかった。

マウンテン王国の先代国王陛下が実姉に譲位して、マウンテン王国には女王陛下がたった。

マウンテン王国からケレメイン大公国に居を移したミーレ長官一家のことを、マウンテン王家と王家に危機を招いたのだと、国として謗ることはもうない。

でも、人の心や記憶は、すぐには薄れない。

オレの用意したぬるま湯が冷める前にぬるま湯から出て、心身が温まっているうちに、ケヤキくんには人間関係を広げてもらう。

うまくいくことの方が少なくても。

ケヤキくんの生まれは、変えられない。

大人になってからの失敗が挽回できなかった場合、マウンテン王国の人に根付いている、ミーレ長官一家に対する不満が、表に出てくるきっかけになりかねない。

「ヤグルマさん。

失敗から学ぶ機会を用意するなら、保護者に頼れる子ども時代の方がいいと思うオレは、ケヤキのことを心配し過ぎているのかもしれない。」

「ヒサツグ様のなされたことは、ヒサツグ様の部下の家庭が歪にならないように差配されたに過ぎません。

ヒサツグ様の部下は、家族でヒサツグ様に長くお仕えするでしょうから、何も問題はありません。」
とヤグルマさん。

「ミーレ長官の息子という看板を背負うケヤキが、色々なものに飲み込まれないように生きていく様子をときどきヤグルマさんから聞きたいな。」

「ご報告をあげましょう。」
とヤグルマさん。

報告、報告なー。

「報告は、報告としてもらうけれど、これからのオレは、ヤグルマさんとの時間を作るぞ。

ヤグルマさんの顔を見て、話をしたいからな。」

「私の顔を見て、ですか?」
と驚くヤグルマさん。

「ヤグルマさんは、オレの中では別格だからな。」

「恐れ入ります。」
と穏やかに話すヤグルマさん。

「クロードとオレが今こうして二人でいるのは、オレとヤグルマさん、クロードとヤグルマさんとの出会いが良かったからだと思う。

オレとクロード、ケレメイン家を支えてくれてありがとう、ヤグルマさん。」

やっと言えたぞ。

オレがヤグルマさんに笑いかけると。

「ヒサツグ様。」
とヤグルマさん。

待った、待った、まだコメントするのは、早いぞ、ヤグルマさん。

「ヤグルマさん、聞いてくれ。」

オレは、ヤグルマさんと並んで部屋の中を歩きながら話している。

「オレとクロードは、魔王による消滅からの復興に力を入れるかたわら、ケレメイン家とケレメイン公爵領において起きたことを調べた。

起こっていてもおかしくなかったのに起こらなかったことや、恙無く執り行われてきたことの中には。

クロードとオレの采配では、足りていなかっただろうなと分かることがいくつかあった。

ヤグルマさんの尽力がなかったら、さ。

オレとクロードは、祝言をあげられるほどの平穏の中にいなかったと思う。」

「クロード様とヒサツグ様の成長が喜ばしい限りです。」
とヤグルマさん。

「オレやクロードと手を取り合う気になったケレメイン公爵領の人達は、ケレメイン大公国の発展に貢献することになる。」

「楽しみですね。」
とヤグルマさん。

ヤグルマさんは、否定的な言い回しをしない。

「ケレメイン大公のクロードと大公妃のオレの下についた人達が頑張りをオレはいつも見てきた。

オレは、オレについてきた労に報いたいと思っている。」

「そのようになさってください。」
とヤグルマさん。

「ヤグルマさん。

オレとクロードがケレメイン公爵家をケレメイン大公家とし、大公と大公妃としてやっていこうとしても。

ケレメイン大公国の、オレとクロードが見えている中だけでの頑張りではたどり着けなかった。

ヤグルマさんの頑張りは、クロードがケレメイン公爵になる前からだよな?

マウンテン王国の王都邸にいるヤグルマさんが、率先して頑張ってくれていなかったら。

ケレメイン家は、先代公爵ご夫妻の魔王による消滅以降に耐えられなかった。」

ヤグルマさんは、否定も肯定もせず、穏やかに微笑んでいる。

「ヤグルマさんは、クロードのご両親の苦労もクロードの苦しみも側で見て、何も潰れないように支え続けてくれていた。」

「ヒサツグ様。私は私のすることをしていたに過ぎません。」
とやんわりと言うヤグルマさん。

「ヤグルマさんはそう言うけれど、オレは、ヤグルマさんがいてくれたことに感謝しかない。

ヤグルマさんがいなかったら、クロードとオレの今はなかった。

オレは、クロードとの今の暮らしを幸せだと思っているからな。」

「ようございました。」
とヤグルマさん。

ヤグルマさんの胸中にめぐる思いが、ようございました、にこもっていた。

オレは、少ししんみりとした空気を変えることにした。

「ヤグルマさんには、オレが女神様の世界に来て最初に信用した人だからなー。

長生きしてもらって、ずっとオレとクロードを見ていてほしい。」

オレとヤグルマさんは、部屋の中を回遊魚のように歩き回っている。

立ち止まらなければ、同じ部屋にいても、会話は断片しか聞こえない。

「ヤグルマさん、疲れを感じることがあれば。

オレはヤグルマさんの疲れをとったり、疲れがたまらない改革を考えて実行するからな。

真っ先にオレに知らせてくれ。

オレは、一緒の空間にいなくても、ヤグルマさんが元気にしているかどうか気になって仕方がないからな。」

「仰せのままに。」
ヤグルマさんは、目尻にしわを作った。
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