《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

文字の大きさ
上 下
636 / 667
第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

636.愛こんにゃく家の家族に女神様が張り付かないような釘は既にさしています。ミーレ長官夫妻とも話をします。仕事は?家庭は?

しおりを挟む
ミラーを確認する限り、愛こんにゃく家の家族は、有象無象のお誘いを巧みに撃退しており、オレが愛こんにゃく家だけでなく、愛こんにゃく家の家族の状況も把握しようとしていることは、最低でも盗み聞きできたようだ。

愛こんにゃく家の家族が今日の祝言にいないのは、こんにゃく事業の社長をしている女神様が代表として参加しているから、と、久しぶりに家族水入らずで過ごしてもらうため。

こんにゃく事業の社長に女神様をつけることで、女神様には公私の区別をつけさせて、愛こんにゃく家の家族と四六時中一緒にならないようにしてある。

『女神様、よく聞け。

女神様が気に入ったものがあって。

気に入ったものを大事にしたい気持ちがあるなら。

女神様も協力して、気に入ったものが気に入った状態でいられる環境を整えてやらないと、もう楽しめないぞ。』
と女神様を説得した。

愛こんにゃく家の家族を気に入った女神様は、愛こんにゃく家の家族と適切な距離を取ることに成功している。

愛こんにゃく家の家族は、ケレメイン大公国の国民になったから、女神様がいくら気に入ってたとしても、魔王による消滅を使って女神様の領域へは持っていけないんだけれど、予防線を張るのは大事。

持っていけないから、入り浸ろうとなっては、愛こんにゃく家の家族に家族だけの時間や、それぞれの時間が作れない。

マウンテン王国からケレメイン大公国に来て、知り合いゼロから生活基盤作りを始めるのに、家族の時間が確保できない、となると。

愛こんにゃく家の家族が壊れるかもしれない。

オレ、愛こんにゃく家の家族が壊れるのは嫌なんだよな。

オレと愛こんにゃく家は、話しながらミーレ長官夫妻の元へ向かう。

オレが、ミーレ長官夫妻に声をかけると。

ミーレ長官夫妻は、オレに軽く頭を下げた。

「ミーレ長官は、ケレメイン大公国の建国前から働いているけれど、今の仕事で困ったことはないかな?」

「仕事は、やりやすくなりました。」
とミーレ長官。

「そうか、奥様は仕事をしていて困ったことはないかな?

困ったことだけじゃなく、手に負えないかもしれないこと、どうしたらいいか分からないことでもいいぞ。」

ミーレ長官の奥様は、オレの問いかけに戸惑っている。

「ミーレ長官の奥様が働き始めたのは、二年前。

何もかもが、初めてで分からない一年目を過ぎて、自分でできそうだけど判断していいのかとか、裁量の範囲について悩むことも増えていないかな?」

「ございます。」
とミーレ長官の奥様。

即答するミーレ長官の奥様。

国王陛下の結婚なんて、政略結婚ありきだから、跡継ぎができない結婚はしない。

男同士のオレとクロードが夫婦として、国を興し、国のトップにいることは前例がない。

何にもお手本がないから、ケレメイン大公家の家内のことも手探りなんだよなー。

ミーレ長官の奥様は、女主人がいる前提で決まっている、決まりごとを、これはいるのか、あれは変えないといけないけれど、どのくらい変えたらいいのか、と検討を重ねながら負担のない形に変えていく作業を進めてくれている。

オレと相談しながら。

ミーレ長官の奥様自身にも、当主の伴侶として家内を取り仕切った経験はない。

ミーレ長官の奥様が見聞きしてきたり、ご令嬢だったときの経験から見えてきたものを取捨選択してら。

オレとクロードの代がやりやすくなるのは勿論、カズラくんへ引き継ぎするときに困らないようにと考えながら進めている。

ミーレ長官の奥様は、カズラくんが次代なんだと察している。

ミーレ長官の奥様は、時々カズラくんに話題をふって、カズラくんの返事を聞いてはどういう意図から、その返事になったかをカズラくんとオレの両方に確認するようになった。

ミーレ長官夫妻がいてくれることは、オレにもクロードにも、カズラくんにもありがたい。

「ミーレ長官の奥様の仕事も、オレやミーレ長官の仕事も、愛こんにゃく家の仕事も。

完璧な成果になる正解な答えが決まっている仕事じゃないからさ。

仕事をしながら壁にぶつかったり、迷ったり、間違えてやり直したりしながら、最良のやり方を探していけば。

五年後くらいには、仕事の効率化を考えるようになっているかもなー。」

オレは、ミーレ長官の奥様に、後日、相談の時間をもうける約束をした。

お礼を言うミーレ長官の奥様に苦しゅうない、をしてから。

「仕事の方は順調。さて、家庭はどうかな?」

ミーレ長官夫妻に家庭について聞いてみた。

「仕事を終えてから気を抜く場所があるというのは、存外いいものです。」
とミーレ長官。

「長らく、私と息子の二人が家の外にいることは、緊張感を伴うものでした。

かと言って、家にいても、警戒を忘れることはありませんでしたわ。」
とミーレ長官の奥様。

「よく生き延びようと頑張って偉かったな。」

「ありがとうぞんじます。

ヒサツグ様により、安全な居場所を作るため、日夜三人で力を合わせていた時間は終わりました。

家が寛げる場所になったときに初めて、息子に子どもでいることを許さないでいたことについて考えられるようになりました。」
とミーレ長官の奥様。

「もう走れないときには、いったん休憩して、歩き出すところからでいいんじゃないかな?」

苦しい同士で、苦しみながら走り続けるよりもさ。

ミーレ長官夫妻にも息子さんには、長く元気にオレと働いていてほしいとオレは願っている。

ミーレ長官夫妻は、息子さんの育て方を変えなくてはいけないとオレに告げられ、オレの権力により息子さんと物理的な距離をとることになった。

息子さんがいなくて、夫妻の息子さんとの向き合い方がどう変化したか?

この祝言の機会に確認しておこうとオレは思った。

オレがいる場所に、人の目がないところはない。

人の目があるけれど、何を話しているかの誤魔化しがきくこの場は、踏み込んだ話し合いをするにはぴったりだ。

子育てもなー。

ミーレ長官夫妻と息子さんが置かれた環境は一般的なものではなかった。

マウンテン王国の前の女王陛下だったミーレ長官のお母さんと叔父だった先々代国王陛下、お二人の父親の家族関係の歪をもろにかぶったせいで。

相談できるほど親身になってくれる友人や親族とは、まとめて疎遠になってしまい、ミーレ長官夫妻は、二人だけで息子を育てた。

ミーレ長官夫妻は、前例がない環境で、子育ての参考にするものもなく、自分達の経験したこともない、先の明るくない未来に用心しながら、手探りで息子さんを養育していた。

ミーレ長官夫妻を見ていたら、息子さんを大事にする気持ちは確かにあった。

教えを請える人も、子育てに手を貸してくれる人もおらず、参考になるものが何もないミーレ長官夫妻は、自身がどう育てられたかを振り返りながら、息子さんを教育していたと思う。

ミーレ長官の息子さんが、大人びた態度だったのは、そうあるように育てられ、そうあることしか知らなかったから。

ミーレ長官夫妻も、息子さんも、息子さんと同じくらいの年齢の子どもとの接点がなかった。

接点があったとしても、息子さんとは取り巻く環境が違いすぎて、参考にならなかったとは思う。

息子さんが、大人の中にあって、子どもでありながら大人であろうとし続けていたことが、息子さんにかけていた負荷を知って、息子さんの環境を変えられたのは、良かったと思っている。

ミーレ長官夫妻は、息子さんが一緒にいない環境で、マウンテン王国の王家や貴族以外の家族について、知る時間が出来た。

息子さんを守りながら自分達も生きていかないという覚悟で、ガチガチになっていた肩の力が抜く時間が、ミーレ長官夫妻には必要だったのかもしれないな、とミーレ長官夫妻を前にして思う。

ミーレ長官夫妻は、息子さんの成長に戸惑っていたけれど、ミーレ長官一家を縛り付けていた鎖から解き放たれた顔をしている。

傷つけ合う前に、離せて良かったかな。

ミーレ長官夫妻も息子さんも、家族を捨てる気はない。

もう一度とはいわず、何度でも、家族としてのやり直しを模索していけばいい。

ミーレ長官一家は、皆、同じ世界に生きていて、まだ誰も失ってはいないから。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

どうしてこうなった?(ショートから短編枠にしたもの)

エウラ
BL
3歳で魔物に襲われて両親を亡くし、孤児院育ちの黒髪黒目で童顔のノヴァは前世の記憶持ちの異世界転生者だ。現在27歳のCランク冒険者。 魔物に襲われたときに前世の記憶が甦ったが、本人は特にチートもなく平々凡々に過ごしていた。そんなある日、年下22歳の若きSランク冒険者のアビスと一線を越える出来事があり、そこで自分でも知らなかった今世の過去を知ることになり、事態は色々動き出す。 若干ストーカー気味なわんこ系年下冒険者に溺愛される自己評価の低い無自覚美人の話。 *以前ショート専用の枠で書いてましたが話数増えて収拾がつかなくなったので短編枠を作って移動しました。 お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。 なお、プロローグ以降、途中まではショートの投稿分をまるっと載せるのでそちらと重複します。ご注意下さい。出来次第投稿する予定です。 こちらはR18には*印付けます。(でも忘れたらすみません)

どうも、卵から生まれた魔人です。

べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。 太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...