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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。
621.結婚式の恨みは、一生ついてまわるんだよ、と未婚で二十歳のカズラくんが力説しているのは、なぜですか?
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「カズラくんには、お父さんとお母さんと過ごした時間を彷彿とさせる、見たくない光景だったよな。
冷静に見ていてくれて、ありがとう。
オレは、今、カズラくんに指摘されるまで気づけなかった。」
一拍おいて、カズラくんにお礼を伝えると、いいよ、とカズラくん。
「今のケレメイン大公国は、結婚式のときよりも平和になったからね。
中断した結婚式をやり直す代わりに、祝言をあげるには、いい時期だよ。」
とカズラくん。
続く食事会の席で。
カズラくんに、怒涛の結婚式に思うことはなかったか、よく思い出すようにと言い含められたオレは、結婚式についてのオレの感情を見つめ直すことにした。
「男性で未婚のカズラくんが、結婚式について詳しいのは、カズラくんに思い描く結婚式があるからかな?」
二十歳くらいの男女が理想とする結婚式は、どんなものかな?
わくわくした気持ちで聞いてみたら。
「結婚式に夢を見ていたのは、ぼくじゃないよ。」
とカズラくん。
「カズラくんじゃないなら。
カズラくんの恋人だった人の夢かな?」
一年よりも短いお付き合いで結婚式の理想を語っていたなら、結婚を前提にお付き合いしていたのかなー?
それとも。
カズラくんがお付き合いしたことがある男女の中に、結婚式に詳しい人がいたのかなー。
オレは、軽い気持ちで聞いたのだけど。
カズラくんから返ってきた答えに、オレは、おおう、となった。
「母だよ。」
とカズラくん。
「お母さんは、一人息子の結婚式に夢を抱く人だったのかな?」
オレは、カズラくんに尋ねながらも、カズラくんから聞いたお母さん像と合わないなー、とは思っていた。
「ぼくの結婚式じゃないよ。
母自身の結婚式だよ。」
とカズラくん。
「カズラくんのお母さんは、自身の結婚式にかけた思いをカズラくんに語り尽くしたのかな?」
両親どちらからも、結婚式語りをされた記憶がないオレは、不思議に思った。
息子に、自身の結婚式を母親が語ることは、よくあることなのかなー?
「母は、結婚式を挙げられなかったのが悔しくて、父に言えない恨み言をぼくに言い続けた。
どれだけ恨み言を吐いても、母の心は晴れなかったけどね。」
とカズラくん。
「結婚式を挙げられなかった?
挙げなかったんじゃなくて、挙げられなかったのかな?」
息子に語るくらい、結婚式に思い入れがあったのに挙げなかった?
「父は、結婚式のような証拠が残る行事は、一切しなかったよ。」
とカズラくん。
「お父さんは、愛人としての立ち位置からお母さんを動かす気がなかったから、最初から結婚式をする気がなかったんだなー。」
「結婚式なら、父は正妻と挙げていたからね。
二回も挙げる必要性を感じなければ、父は挙げないよ。」
とカズラくん。
「カズラくんのお父さんは、愛人は愛人、正妻は正妻と分ける人だったんだな。」
「父に頼めば、望むままに結婚式くらいできると思っていた母は、結婚式を拒否されても諦められなかった。
結婚式に代わるものとして、記念日や記念行事に固執した結果。
特定の日に予定を入れたら、正妻にバレるリスクが高まると考えるようになった父は、行事や記念日を祝うことはしないと決めたみたいだよ。」
とカズラくん。
愛人とお囲い主の関係としてはおかしくないのな。
「カズラくんのお母さんは、お父さんと別れて、結婚式を挙げたり、記念日を一緒に祝える人を探してもよかった気がするけれど、お父さんが良かったんだな。」
「一生働かなくてもいい裕福な暮らしが肌に合っていたみたいだよ。
足りない分を自分が働いて足すとは考えなかったようだから。」
とカズラくん。
「カズラくんのお母さんとお父さんの間で、何か起きたのかな?」
「ぼくの七五三をしたい母は、しないと決めている父に、アピールし続けたんだよ。
ぼくが小学校に入学するまで粘ったけど、入学式にも、当然父は来ないからね。
母は、ぼくの小学校の入学式以降のぼくの学校行事には出なくなった。」
とカズラくん。
「カズラくんのお母さんは、七五三をしたいのにできなかったから、お父さんへのあてつけに、カズラくんの学校行事に母親として参加するのを止めたのかな?」
行事に参加しないお父さんにあてつけても、お父さんに実害はない。
全部、息子のカズラくんが被弾しているんじゃないかな?
「七五三は、母も着飾るけれど、小学校の入学式以降は、ね。
どんな行事も、母親にスポットライトが当たることはないよね。」
とカズラくん。
「お母さんは、綺麗に着飾って、行事の主役になりたかったんだな。」
「ぼくが生まれてからの二十年という月日では、結婚式への恨みは薄れなかったんだよ。」
とカズラくん。
お母さんの場合、結婚式の恨みなのかなー?
「お父さんへの恨みじゃないんだな?」
結婚式云々よりも、本当はお父さんに思うところがあるんじゃないか、と疑ってしまうぞ?
「母が父を恨んだら、父は母を迷わず捨てるよ。
父は、自分を恨むような愛人を養わない。
だから、母は、父にマイナス感情を向けない。」
とカズラくん。
オレとクロードは、瞠目した。
オレとクロードが目を向けてこなかった部分への指摘。
オレとクロードの結婚式の準備から仕上がり、当日の様子までをつぶさに見ていたカズラくんが、結婚式のやり直しを考えていないか、と祝言を勧めてきた理由がようやっと分かった。
カズラくんは、結婚式になぜ不満が残るのか、にフォーカスして話をしていた。
結婚式の不満は、すなわち、結婚式を挙げる相手に言えないでいた不満や、結婚式を挙げるにあたりあった周りとの色々に対する不満が表出するんだな。
カズラくんが熱心に、オレにクロードと結婚式について思い返して話し合えと勧めてくれた理由が分かった。
結婚式から時間が経てば経つほど、表出した不満の解決までに時間がかかると分かっていたからなんだろうな。
表に出てきた不満を誤魔化しながらやり過ごそうとしても、二人の関係性にくすぶる火種を抱え続けることになる。
カズラくんは、カズラくんのお父さんとお母さんを見ながら、機微を理解していったんだろうな。
冷静に見ていてくれて、ありがとう。
オレは、今、カズラくんに指摘されるまで気づけなかった。」
一拍おいて、カズラくんにお礼を伝えると、いいよ、とカズラくん。
「今のケレメイン大公国は、結婚式のときよりも平和になったからね。
中断した結婚式をやり直す代わりに、祝言をあげるには、いい時期だよ。」
とカズラくん。
続く食事会の席で。
カズラくんに、怒涛の結婚式に思うことはなかったか、よく思い出すようにと言い含められたオレは、結婚式についてのオレの感情を見つめ直すことにした。
「男性で未婚のカズラくんが、結婚式について詳しいのは、カズラくんに思い描く結婚式があるからかな?」
二十歳くらいの男女が理想とする結婚式は、どんなものかな?
わくわくした気持ちで聞いてみたら。
「結婚式に夢を見ていたのは、ぼくじゃないよ。」
とカズラくん。
「カズラくんじゃないなら。
カズラくんの恋人だった人の夢かな?」
一年よりも短いお付き合いで結婚式の理想を語っていたなら、結婚を前提にお付き合いしていたのかなー?
それとも。
カズラくんがお付き合いしたことがある男女の中に、結婚式に詳しい人がいたのかなー。
オレは、軽い気持ちで聞いたのだけど。
カズラくんから返ってきた答えに、オレは、おおう、となった。
「母だよ。」
とカズラくん。
「お母さんは、一人息子の結婚式に夢を抱く人だったのかな?」
オレは、カズラくんに尋ねながらも、カズラくんから聞いたお母さん像と合わないなー、とは思っていた。
「ぼくの結婚式じゃないよ。
母自身の結婚式だよ。」
とカズラくん。
「カズラくんのお母さんは、自身の結婚式にかけた思いをカズラくんに語り尽くしたのかな?」
両親どちらからも、結婚式語りをされた記憶がないオレは、不思議に思った。
息子に、自身の結婚式を母親が語ることは、よくあることなのかなー?
「母は、結婚式を挙げられなかったのが悔しくて、父に言えない恨み言をぼくに言い続けた。
どれだけ恨み言を吐いても、母の心は晴れなかったけどね。」
とカズラくん。
「結婚式を挙げられなかった?
挙げなかったんじゃなくて、挙げられなかったのかな?」
息子に語るくらい、結婚式に思い入れがあったのに挙げなかった?
「父は、結婚式のような証拠が残る行事は、一切しなかったよ。」
とカズラくん。
「お父さんは、愛人としての立ち位置からお母さんを動かす気がなかったから、最初から結婚式をする気がなかったんだなー。」
「結婚式なら、父は正妻と挙げていたからね。
二回も挙げる必要性を感じなければ、父は挙げないよ。」
とカズラくん。
「カズラくんのお父さんは、愛人は愛人、正妻は正妻と分ける人だったんだな。」
「父に頼めば、望むままに結婚式くらいできると思っていた母は、結婚式を拒否されても諦められなかった。
結婚式に代わるものとして、記念日や記念行事に固執した結果。
特定の日に予定を入れたら、正妻にバレるリスクが高まると考えるようになった父は、行事や記念日を祝うことはしないと決めたみたいだよ。」
とカズラくん。
愛人とお囲い主の関係としてはおかしくないのな。
「カズラくんのお母さんは、お父さんと別れて、結婚式を挙げたり、記念日を一緒に祝える人を探してもよかった気がするけれど、お父さんが良かったんだな。」
「一生働かなくてもいい裕福な暮らしが肌に合っていたみたいだよ。
足りない分を自分が働いて足すとは考えなかったようだから。」
とカズラくん。
「カズラくんのお母さんとお父さんの間で、何か起きたのかな?」
「ぼくの七五三をしたい母は、しないと決めている父に、アピールし続けたんだよ。
ぼくが小学校に入学するまで粘ったけど、入学式にも、当然父は来ないからね。
母は、ぼくの小学校の入学式以降のぼくの学校行事には出なくなった。」
とカズラくん。
「カズラくんのお母さんは、七五三をしたいのにできなかったから、お父さんへのあてつけに、カズラくんの学校行事に母親として参加するのを止めたのかな?」
行事に参加しないお父さんにあてつけても、お父さんに実害はない。
全部、息子のカズラくんが被弾しているんじゃないかな?
「七五三は、母も着飾るけれど、小学校の入学式以降は、ね。
どんな行事も、母親にスポットライトが当たることはないよね。」
とカズラくん。
「お母さんは、綺麗に着飾って、行事の主役になりたかったんだな。」
「ぼくが生まれてからの二十年という月日では、結婚式への恨みは薄れなかったんだよ。」
とカズラくん。
お母さんの場合、結婚式の恨みなのかなー?
「お父さんへの恨みじゃないんだな?」
結婚式云々よりも、本当はお父さんに思うところがあるんじゃないか、と疑ってしまうぞ?
「母が父を恨んだら、父は母を迷わず捨てるよ。
父は、自分を恨むような愛人を養わない。
だから、母は、父にマイナス感情を向けない。」
とカズラくん。
オレとクロードは、瞠目した。
オレとクロードが目を向けてこなかった部分への指摘。
オレとクロードの結婚式の準備から仕上がり、当日の様子までをつぶさに見ていたカズラくんが、結婚式のやり直しを考えていないか、と祝言を勧めてきた理由がようやっと分かった。
カズラくんは、結婚式になぜ不満が残るのか、にフォーカスして話をしていた。
結婚式の不満は、すなわち、結婚式を挙げる相手に言えないでいた不満や、結婚式を挙げるにあたりあった周りとの色々に対する不満が表出するんだな。
カズラくんが熱心に、オレにクロードと結婚式について思い返して話し合えと勧めてくれた理由が分かった。
結婚式から時間が経てば経つほど、表出した不満の解決までに時間がかかると分かっていたからなんだろうな。
表に出てきた不満を誤魔化しながらやり過ごそうとしても、二人の関係性にくすぶる火種を抱え続けることになる。
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