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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。
596.ミーレ長官に、ミーレ長官が裏切りを働いた胸の内を確認してみました。
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「ミーレ長官。
不条理な環境で生きてきたミーレ長官が責任を問える相手は、もうこの世にいない。
ミーレ長官が恨む相手と、ミーレ長官が迷惑をかけた相手は、別人だ。」
オレは、ミーレ長官に話すのを止めない。
今、オレがミーレ長官を諦めたら。
ミーレ長官は、このまま、どうにもならないままで、腐ってしまう。
「ミーレ長官が生きてきた環境を気の毒だと思うことはあっても、さ。
ミーレ長官のしたことによって、傷つけられた体や心に対して、ミーレ長官はいつまで鈍感でいるつもりかな?
ミーレ長官は、恨み言をぶつける相手が生きていないから直接言えない、という事情なんか、オレは汲んでやらないぞ。
オレは、ミーレ長官に助けられたことが多かったから感謝してきた。
でも、今回の裏切りで、オレは、嫌なことばかりだったんだからな!」
「嫌なことばかり、ですか。」
とミーレ長官は、得も言われぬ顔で繰り返した。
「オレにとって、嫌なことばかりだったぞ。
苦労を共にしてきた仲間だと思っていたミーレ長官に裏切られたことも。
危ない目にあったことも。
どこにいても、気を張り続けていなくてはならなかったことも。
全部、嫌だった。」
「私は、常にそうでしたよ。」
とミーレ長官。
「なあ、ミーレ長官。
ミーレ長官は、オレにミーレ長官よりも幸せになってほしくないと思っていたのかな?」
オレの問いかけに、ミーレ長官の奥様は、ぎょっとしている。
ミーレ長官が自覚してやっていたことか、無自覚でしていたことかまでは分からない。
でもな。
ミーレ長官は、さ。
オレがミーレ長官より苦労して不幸だったときは、協力的でいて、オレが幸せになろうとしたときからは、オレが不幸になるように導きたかったのかな、と思えるんだよな。
最初の、ミーレ長官と出会った頃のオレとクロードは、ミーレ長官から見て、ミーレ長官がいなければ、敗色濃厚な2人組だったと思う。
それは、それとして。
「ミーレ長官が、オレ達の味方になって色々立ち回ってくれたお陰で、オレ達の今があるのは、確かだ。」
オレとクロードが、ケレメイン大公国で、ケレメイン大公夫妻でござい、と胸を張って言えるのは、ミーレ長官の協力があったから。
ミーレ長官の協力がなければ、ここまでうまくことが運ばなかったと思う。
ミーレ長官夫妻に、マウンテン王国の貴族であったことは、過去のことなんだから、ケレメイン大公国では、過去にしがみつかないで生きろ、と大口をたたいたオレだけど。
「マウンテン王家の血筋として生きてきたミーレ長官の、マウンテン王家としての人生に、オレとクロードは助けられた。
これについては、ミーレ長官に感謝している。」
ミーレ長官は、オレからの感謝について、特に感情を揺らさなかった。
「それは、当然でしょう。
ヒサツグ様は、何ももっておらず、無鉄砲で。
クロード様は、世間知らずで。
ろくに知識もないのに、夢と理想だけで、危なかっしく破滅に走る2人でしかありませんでしたよ。
私がいなければ。」
とミーレ長官。
ミーレ長官の台詞を聞いたミーレ長官の奥様の顔色が悪くなった。
でも、ミーレ長官の奥様は、オレの意図を汲んで黙っている。
今は、ミーレ長官に吐き出させるタイミングだから。
「オレは、ミーレ長官がいてくれて心強かった。
ミーレ長官は、これからもオレを支えてくれると思っていた。
なあ、ミーレ長官。
新天地でのミーレ長官の取り巻く環境は、前より良くなった分、ミーレ長官の不安を増大させたかな?」
ミーレ長官は、不幸な環境に慣れ親しみ過ぎて、幸せになりそうな環境に飛び込むのが、怖かったんじゃないかな。
ミーレ長官は、オレに苦労していてほしかった。
ミーレ長官よりも不幸そうなオレに、ミーレ長官よりも幸せになってほしくなかった。
「ミーレ長官は、ミーレ長官が幸せになるのが怖いんじゃないかな?」
オレの言葉に、ミーレ長官の奥様は驚愕している。
ミーレ長官の奥様は、幸せになることに積極的なタイプだから。
「ミーレ長官は、幸せだと感じていた時間を信じていた人達に不条理に潰されたから。」
ミーレ長官は、幸せになりそうになって、自分でブレーキを踏んだんだと思う。
「幸せになった先にある転落が怖くて。
幸せになった後に不幸になるから、幸せになるのが怖かったんじゃないかな?
幸せになるのが怖いミーレ長官は、ミーレ長官より不幸そうなオレを見つけて安心していなかったかな?
オレが幸せになっていこうとするのを感じたときに。
ミーレ長官は、オレへのスタンスを変えたんだよな?
幸せになるのが怖いミーレ長官は、一人で不幸でいるのは、もっと怖かったから。」
オレに謝罪を止められている、ミーレ長官の奥様は、謝罪を止められていなければ、すぐにでも謝り倒していたに違いないほど、青ざめている。
それでも、ミーレ長官の奥様は、何も言わず、ミーレ長官より前にも出ずに、ミーレ長官を見守っている。
ややあって。
ミーレ長官は、口を開いた。
「私の胸の内を言葉に表すと。そうなりますかね。」
とミーレ長官。
不条理な環境で生きてきたミーレ長官が責任を問える相手は、もうこの世にいない。
ミーレ長官が恨む相手と、ミーレ長官が迷惑をかけた相手は、別人だ。」
オレは、ミーレ長官に話すのを止めない。
今、オレがミーレ長官を諦めたら。
ミーレ長官は、このまま、どうにもならないままで、腐ってしまう。
「ミーレ長官が生きてきた環境を気の毒だと思うことはあっても、さ。
ミーレ長官のしたことによって、傷つけられた体や心に対して、ミーレ長官はいつまで鈍感でいるつもりかな?
ミーレ長官は、恨み言をぶつける相手が生きていないから直接言えない、という事情なんか、オレは汲んでやらないぞ。
オレは、ミーレ長官に助けられたことが多かったから感謝してきた。
でも、今回の裏切りで、オレは、嫌なことばかりだったんだからな!」
「嫌なことばかり、ですか。」
とミーレ長官は、得も言われぬ顔で繰り返した。
「オレにとって、嫌なことばかりだったぞ。
苦労を共にしてきた仲間だと思っていたミーレ長官に裏切られたことも。
危ない目にあったことも。
どこにいても、気を張り続けていなくてはならなかったことも。
全部、嫌だった。」
「私は、常にそうでしたよ。」
とミーレ長官。
「なあ、ミーレ長官。
ミーレ長官は、オレにミーレ長官よりも幸せになってほしくないと思っていたのかな?」
オレの問いかけに、ミーレ長官の奥様は、ぎょっとしている。
ミーレ長官が自覚してやっていたことか、無自覚でしていたことかまでは分からない。
でもな。
ミーレ長官は、さ。
オレがミーレ長官より苦労して不幸だったときは、協力的でいて、オレが幸せになろうとしたときからは、オレが不幸になるように導きたかったのかな、と思えるんだよな。
最初の、ミーレ長官と出会った頃のオレとクロードは、ミーレ長官から見て、ミーレ長官がいなければ、敗色濃厚な2人組だったと思う。
それは、それとして。
「ミーレ長官が、オレ達の味方になって色々立ち回ってくれたお陰で、オレ達の今があるのは、確かだ。」
オレとクロードが、ケレメイン大公国で、ケレメイン大公夫妻でござい、と胸を張って言えるのは、ミーレ長官の協力があったから。
ミーレ長官の協力がなければ、ここまでうまくことが運ばなかったと思う。
ミーレ長官夫妻に、マウンテン王国の貴族であったことは、過去のことなんだから、ケレメイン大公国では、過去にしがみつかないで生きろ、と大口をたたいたオレだけど。
「マウンテン王家の血筋として生きてきたミーレ長官の、マウンテン王家としての人生に、オレとクロードは助けられた。
これについては、ミーレ長官に感謝している。」
ミーレ長官は、オレからの感謝について、特に感情を揺らさなかった。
「それは、当然でしょう。
ヒサツグ様は、何ももっておらず、無鉄砲で。
クロード様は、世間知らずで。
ろくに知識もないのに、夢と理想だけで、危なかっしく破滅に走る2人でしかありませんでしたよ。
私がいなければ。」
とミーレ長官。
ミーレ長官の台詞を聞いたミーレ長官の奥様の顔色が悪くなった。
でも、ミーレ長官の奥様は、オレの意図を汲んで黙っている。
今は、ミーレ長官に吐き出させるタイミングだから。
「オレは、ミーレ長官がいてくれて心強かった。
ミーレ長官は、これからもオレを支えてくれると思っていた。
なあ、ミーレ長官。
新天地でのミーレ長官の取り巻く環境は、前より良くなった分、ミーレ長官の不安を増大させたかな?」
ミーレ長官は、不幸な環境に慣れ親しみ過ぎて、幸せになりそうな環境に飛び込むのが、怖かったんじゃないかな。
ミーレ長官は、オレに苦労していてほしかった。
ミーレ長官よりも不幸そうなオレに、ミーレ長官よりも幸せになってほしくなかった。
「ミーレ長官は、ミーレ長官が幸せになるのが怖いんじゃないかな?」
オレの言葉に、ミーレ長官の奥様は驚愕している。
ミーレ長官の奥様は、幸せになることに積極的なタイプだから。
「ミーレ長官は、幸せだと感じていた時間を信じていた人達に不条理に潰されたから。」
ミーレ長官は、幸せになりそうになって、自分でブレーキを踏んだんだと思う。
「幸せになった先にある転落が怖くて。
幸せになった後に不幸になるから、幸せになるのが怖かったんじゃないかな?
幸せになるのが怖いミーレ長官は、ミーレ長官より不幸そうなオレを見つけて安心していなかったかな?
オレが幸せになっていこうとするのを感じたときに。
ミーレ長官は、オレへのスタンスを変えたんだよな?
幸せになるのが怖いミーレ長官は、一人で不幸でいるのは、もっと怖かったから。」
オレに謝罪を止められている、ミーレ長官の奥様は、謝罪を止められていなければ、すぐにでも謝り倒していたに違いないほど、青ざめている。
それでも、ミーレ長官の奥様は、何も言わず、ミーレ長官より前にも出ずに、ミーレ長官を見守っている。
ややあって。
ミーレ長官は、口を開いた。
「私の胸の内を言葉に表すと。そうなりますかね。」
とミーレ長官。
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