《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

文字の大きさ
上 下
588 / 667
第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

588.クロードの胸の内に秘めていた気持ちを聞きましょう。やっと、泣き言を口に出せるような環境になりました。

しおりを挟む
女神様の姿が消えた。

オレに授けられた女神様の加護も。

オレは、すっかり目が覚めてしまった。

仮眠できそうにないなー。

オレは、隣に眠るクロードの寝顔を見ながら、ベッドに横になる。

クロードは、英雄として魔王と対峙したときに一人で決断してからずっと、諦めなかった。

魔王になった元神子様だった女性から託された願いを、クロードは、自身の望みにした。

女神様は、もう神子様を召喚しない。

クロードの住む世界に、魔王は生まれなくなった。

クロードは、やっと望みを叶え終えた。

「よく頑張ったな。」

オレに打ち明けるまで、ずっと、クロードは、一人で抱えてきた。

理解者を作ることが困難な上に、大きすぎるくらい、大きな望みを、一人で。

オレが、クロードの顔を見ていると。

クロードが、オレを抱きしめてきた。

ぎゅっと。

うん?

どうしたのかな?

また、何か、不安になったのかな?

「クロード。
クロードが思っていること、感じていることでさ。

オレに話せそうなことはあるかな?」

「ヒサツグ。私は。」
とクロード。

クロードは、ぎゅっと、ぎゅっと、オレを抱きしめてくる。

オレとクロードは、全裸で向かい合っている。

クロードが何かに不安を感じているんだろうな、ということは分かった。

女神様が来たときに、起きたものの、寝たふりを続けていたクロード。

女神様も、クロードの狸寝入りに気づいていたと思う。

女神様もオレも、わざわざクロードを起こさなかった。

クロードは、女神様に直接会いたいと思っていないことをオレは知っていたから。

女神様も、クロードを見てきて、気づいていたと思う。

クロードの望みを叶えたくらいだから。

口にしなくても、おそらくは。

オレは、クロードにぎゅっと抱きしめられながら、抱きしめ返す。

「ヒサツグ。

私は、魔王に父上と母上を連れて行かれたくなかった。」
とクロード。

そりゃ、そうだよなー。

「ご両親との無理矢理なお別れなんて、したくなかったよな。」

クロードのご両親とクロードの関係は、良好だったから、なおさら。

「ヒサツグ。

私は、英雄に選ばれたくなどなかった。

私には、英雄に選ばれたがっている友人がいた。」
とクロード。

クロードは、友人であるマウンテン王国の国王陛下が、英雄に選ばれたがっている、ということを知っていたんだな。

「神子様と力を合わせて行う魔王を討伐も、したくはなかった。」
とクロード。

「魔王を討伐したら、名実ともに、クロードが英雄になるもんな。」

友人である国王陛下との仲がこじれないか、心配になるよな。

実際、こじれきったままだ。

「私は、英雄になりたいと思ったこともなければ、友人の邪魔をしたいと思ったこともなかった。」
とクロード。

クロードは、ないものを欲しがるよりも、今あるものを大事にしたい性格だと思う。

「クロードには、クロードの歩みたい人生があったんだよな?」

クロードは、オレをぎゅっとする。

「ヒサツグ。

私は、私の生まれてきた場所で、与えられた恩恵を活かして生きていくと思っていた。」
とクロード。

公爵家当主の嫡男だもんなー。

「父上、母上、友人、家人。

私は、私が恵まれた環境にいることを理解していた。

私の生まれに対し、与えられた環境に満足していた。

何一つ、不満はなかった。

私は、私の生まれてきた場所で生きていくことに疑問を覚えたことはなかった。」
とクロード。

クロードは、欲張らないんだよなー。

「クロードと会って話せば、クロードの過ごした時間がどれだけ良質なものだったかが伝わってくるからなー。

クロードの過ごしてきた、良質な時間は、クロードとクロードの周りの人で共に作り上げてきた時間だからさ。

クロードとクロードの周りにいた人が、いい関係を築いていたと分かるぞ。」

魔王による消失がなければ。

穏やかに過ごしていたんだろうな。

「私は、私の過ごしてきた環境を変えたくなかった。何も失いたくはなかった。」
とクロード。

「マウンテン王国、ケレメイン公爵家の王都邸に、オレを連れてきたクロードがさ。

家に帰れないほどの国の仕事を詰め込まれて、国王陛下に振り回されても。

その忙しい状態を続けていた理由は、国王陛下がクロードの友人だから、だったんだよな?」

クロードは、オレをぎゅっとしながら、そうだ、と言った。

「父上と母上が魔王による消失にあわれて、二度とお会いできなくなってしまった後。

国王陛下も、私と同じ境遇になられた。

国王陛下には、今は女王に即位された姉君がいらっしゃったが、姉君は、国政に積極的ではなかった。」
とクロード。

「オレとお茶会した当時、クロードの婚約者候補だったときかされたけど、そのときも国政に積極的、という風ではなかったな。」

今は、女王陛下だもんなー。

変わればかわるよな。

「英雄に選ばれる前の私は、私と同じ境遇になられた国王陛下と力をあわせて、国の復興を目指そうと決めた。」 
とクロード。

「立派だぞ、クロード。」

誰も褒めて来なかっただろうけれど、クロードのしてきたことをオレは褒める。

オレは、クロードの味方だから。

「仕事に邁進するかたわら、寂しさも辛さも悲しみも、友人である国王陛下と理解し合える未来を、私は勝手に思い描いていた。」
とクロード。

クロードは自虐気味だ。

いやいや、クロードは悪くないからな?

「クロードは、友人である国王陛下を信用して、信頼していたからこそ。

仕事を通じて、国王陛下を助けたいと思っていたんだな?」

「しかし。結局は、私の独りよがりだった。」
とクロードは、ぎゅっとオレを抱きしめる。

「私は、友人との関係性は、いつまでも何も変わらない。

そう思っていた私は。

友人が変わっていくことに気づいても。

変わっていく友人に対して、対応を変えることができなかった。

一時的なものだと、私自身の感覚を誤魔化しさえした。」
とクロード。

「友人の態度が変わったからと、クロードも態度を変えたら、友人との関係が、完全にダメになってしまうかも、と考えるよな。」

なんといっても、権力者の友人だしなー。

「ヒサツグは、潰れそうな私を守ろうと、私の代わりに立ち向かった。

ヒサツグは、私の家族で、私の英雄になった。」
とクロード。

クロードの腕の力が、ふっと緩んだ。

クロードの胸板を見ていたオレは、クロードの顔を見上げる。

「ありがとう。ありがとう、ヒサツグ。」
とクロード。

クロードの目尻には、涙が溜まっている。

「オレがクロードに元気になって欲しかったからなー。」

クロードは、オレのつむじに顔をうずめた。

オレは、クロードの背に腕を回して、ゆっくりと撫でる。

「やっと、泣ける状況になったもんな。

たくさん、たくさん泣いていいぞ。

今までよく頑張ったな。」
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

どうしてこうなった?(ショートから短編枠にしたもの)

エウラ
BL
3歳で魔物に襲われて両親を亡くし、孤児院育ちの黒髪黒目で童顔のノヴァは前世の記憶持ちの異世界転生者だ。現在27歳のCランク冒険者。 魔物に襲われたときに前世の記憶が甦ったが、本人は特にチートもなく平々凡々に過ごしていた。そんなある日、年下22歳の若きSランク冒険者のアビスと一線を越える出来事があり、そこで自分でも知らなかった今世の過去を知ることになり、事態は色々動き出す。 若干ストーカー気味なわんこ系年下冒険者に溺愛される自己評価の低い無自覚美人の話。 *以前ショート専用の枠で書いてましたが話数増えて収拾がつかなくなったので短編枠を作って移動しました。 お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。 なお、プロローグ以降、途中まではショートの投稿分をまるっと載せるのでそちらと重複します。ご注意下さい。出来次第投稿する予定です。 こちらはR18には*印付けます。(でも忘れたらすみません)

どうも、卵から生まれた魔人です。

べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。 太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

君なんか求めてない。

ビーバー父さん
BL
異世界ものです。 異世界に召喚されて見知らぬ獣人の国にいた、佐野山来夏。 何かチートがありそうで無かった来夏の前に、本当の召喚者が現われた。 ユア・シノハラはまだ高校生の男の子だった。 人が救世主として召喚したユアと、精霊たちが召喚したライカの物語。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

──だから、なんでそうなんだっ!

涼暮つき
BL
「面倒くさいから認めちゃえば?」 「アホか」 俺は普通に生きていきたいんだよ。 おまえみたいなやつは大嫌いだ。 でも、本当は羨ましいと思ったんだ。 ありのままの自分で生きてるおまえを──。 身近にありそうな日常系メンズラブ。 *以前外部URLで公開していたものを 掲載し直しました。 ※表紙は雨月リンさんに描いていただきました。  作者さまからお預かりしている大切な作品です。  画像の無断転載など固く禁じます。

処理中です...