《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

552.オレは、カズラくんに、オレとカズラくんにちょうどいい関係を提案したいと思います。

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「何、どういう心境の変化?」
疲れた様子で、ソファにだらーんと体を横たえるカズラくん。

「オレが、自分のことで精一杯だった間。

カズラくんは、自分のことを自分で片付けながら、オレのことまで気にかけていてくれていた。

国際会議で、そのことに気づいたからさ。

この世界に来たカズラくんを一人にはしない、と決めたんだ。」

「プロポーズ?」
とカズラくん。

カズラくん。
いくらお疲れだとはいえ、滅多なことを言わないでくれるかなー?

オレがドリアン王国の国王陛下に寝室に連れ込まれそうだった件は、オレを誰にもとられたくないというクロードの感情に火をつけた。

クロードの感情についた火は、ゴウゴウと燃え盛り、鎮火の兆しがない。

オレがとられそう、とクロードが危機感を覚えたら、オレはカズラくんと一対一で会うことが難しくなる。

そんな状況は、クロードのためにも、オレのためにも、カズラくんのためにもならない。

オレとクロードとカズラくんの始まりは、クロードを間に挟んだ三角関係だった。

オレ達は、試行錯誤しながら、互いに心地よい立ち位置を探しあてた。

オレは、いまの心地よい立ち位置を崩したくはない。

「違うぞ、カズラくん。

カズラくんにも知らないことはあるんだからな?

先輩は、後輩の相談に乗ったり、構ったりするもんなんだよ。」

「ヒサツグは、ぼくの先輩だって言うつもり?

先輩というのは、頼りになる人のことだよね?

ヒサツグのどこが頼りになるか、聞きたいんだけど。」
とカズラくん。

面目ないことに、カズラくんの言うことは正論。

「カズラくんの方が先にこの世界に来ている分、オレよりたくさん、この世界を知っているとは思っているぞ?」

「じゃあ、何で、ぼくに先輩だの後輩だの言い出したわけ?

ヒサツグとぼくを比べたら。

どう考えても、ぼくが先輩だよ。」
とカズラくん。

カズラくんは、意気がっているわけではなく、本気でそう考えている。

カズラくんの前で、オレは情けない姿を散々見せてきたからなー。

「カズラくん、オレは、この世界について知らないことがたくさんあるけれどさ。」

「ヒサツグは、知らないことばかりだよね?

ヒサツグ一人で間違えずにできることなんて、何かあった?」
とカズラくん。

カズラくんは、的確に弱点をついてくるんだよなー。

人をよく見ているんだと思う。

しっかりしている、と一言で言い表すのは簡単だけど。

カズラくんは、しっかりしないとダメな環境だったから、しっかりするようになった気がするんだよな。

人を見て、どう対応するかを、カズラくんは、全部一人で決めてしまえる。

オレだけでなく、周りを頼らないカズラくん。

周りを頼れない環境にいたのかもしれない。

もしくは。

周りに頼るという選択肢がカズラくんにある、と知らなかったかもしれない。

自分一人で対処することに疑問を持たないカズラくんだけど、人を使うことはできるから。

「うーん、今のところ、ないかな。」

「ヒサツグが、自分自身について分かっているならいいよ。

続けて。」
とカズラくん。

カズラくんとの会話が、考課のための面談のような気がするんだけど、気のせいかな。

「オレは、カズラくんを導きたいわけじゃないんだ。

オレは、カズラくんに、この世界での知識を教えたり、生き方を示唆したりなんてしない。」

カズラくんも、オレも、オレにそんなことを望まない。

「ヒサツグは、ぼくに何をさせたいわけ?

先輩だの後輩だの、役割を割り振ってまで、ぼくにさせたいことがあるんだよね?」
とカズラくん。

「カズラくんが誰かに相談したいとき。

カズラくんが胸中を打ち明けられる話し相手を欲したとき。

ただいまを言いたいとき。

大っぴらにできない怒りやモヤモヤ、悲しみ、喜びを吐き出したいとき。

カズラくんが、オレのところに来たくなったらさ。

オレは、おいでおいで、とカズラくんの話を聞いたり、慰めたり、一緒に怒ったり、対策を考えたりするんだ。」

「先輩ってそんなんだった?」
とカズラくん。

「部活や、会社だと違うんだろうけどさ。」

「そんなゆるゆるなことを言っている先輩の言うことをきく後輩はいないよ。」
とカズラくん。

「カズラくんは、オレの言うことをきかなくてもいいからさ。

オレは、ゆるゆるなことを言う先輩でちょうどいいと思うんだよな。」

「ヒサツグがゆるゆるだから、気が抜けたんだけど。」
とカズラくんは、ソファの上に横たわったまま、顔だけ、オレの方へ向けた。

「オレとカズラくんは、そういう先輩後輩がちょうどいいと思うんだよな。

どうかな?」

カズラくんと話してみた感触は、悪くないんだけどなー。

カズラくんは、オレの顔を見ながら、楽しそうに笑った。

「いいですよ、ヒサツグ先輩。」
とカズラくん。
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