《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

473.『次はミーレ長官の番。待たせてごめん、ミーレ長官。オレは、ミーレ長官の力になれないかな?』

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オレは、ミーレ長官がオレを信頼して、オレの言葉に聞く耳を持ってくれていた幸運に感謝している。

ミーレ長官に言葉が届かなければ、オレに打つ手はなかった。

「ミーレ長官。

オレは、異世界に来るにあたり、特別な何かを付与されたりしなかった。

オレは、日本にいたときのオレのまま、身一つで、この世界にきた。

異世界に来たオレは、異世界で使えるような特別な知識も特殊な技能も、何も持ち合わせていなかった。

オレが築き上げてきた、29年間の人間関係も信用も、何もなかった。

友人も家族も、同僚も、上司も、近所の人も、知っている人は1人もいない。

異世界転移した衝撃のせいか、理由は分からないけれど、異世界に来たときの記憶は曖昧だった。

何もかも分からない場所で、無知のまま、日銭を稼いでいたある日、日本にいたことを思い出した。

日本に帰りたい、でも、何もかも分からない世界で、まず死なないようにしないと。

異世界に来たと気づいたとき、衝撃を受けたけれど、衝撃に打ちのめされている余裕はなかった。

毎日、生きていかないといけなかったから。」

「ヒサツグ様のご苦労は、並々ならぬものだと察せられます。」
とミーレ長官。

ほら、ミーレ長官は、賢くて、誠実で、思いやりがある。

オレが、ミーレ長官と離れたくないのは、優秀さもあるけれど、ミーレ長官の人となりが好きだから。

「異世界に来たオレの苦労を真正面から受け止めて、苦労されたのですね、と認めてくれたのは、ミーレ長官が初めてなんだ。」

ミーレ長官は、驚いていた。

「驚きすぎて、声が出ないミーレ長官を初めて見た。」

「ヒサツグ様は、想像を絶するご苦労をされていました。」
とミーレ長官。

「頑張りも、苦労も、当たり前のこととして、消費され続けたら、疲れるんだ。逃げ場もなければ、なおさら。」

「ヒサツグ様が、クロード様との仲を深められても、日本に帰ることを望み続けた理由を理解しました。

ヒサツグ様は、この世界で生きること自体が、苦しかったのですか?」
とミーレ長官。

「クロードと帰る帰らないという話でぶつかり合うまでは。

クロードは、オレがこの世界で生きていくことが、少しでも楽になるように、と考えて動いてくれているから、助けられている。」

「クロード様は、ヒサツグ様のよいように、とよくおっしゃるようになりました。」
とミーレ長官。

「うん。

この世界に来たときからずっと、クロードに助けられてきたんだと、オレが気づけたことも大きい。」

「クロード様が、ご自身で嫁を探し出したということでしたね。」
とミーレ長官。

「クロードに気球に乗せられたときは、誘拐だと反発していたけれど、この世界の暮らしを知っていく中で、オレはクロードに救われたんだと気づいた。」

「クロード様とは、良い出会いでしたか?」
とミーレ長官。

「オレが頑なで警戒心バリバリで、クロードは、実力行使したくせに、何も説明しなかった。
今思い出しても、出会いは、最悪だったな。」

ミーレ長官は、吹き出した。

「クロードがオレを見つけて強引にオレをケレメイン公爵家の王都邸に連れてきてくれていなかったら、どうなっていたか。

オレは、考えられるようになった。

クロードと出会わなければ。

オレは、この世界でその日暮らしをしながら、安定した仕事を探し続けていたと思う。

体を壊すまで、ずっと。

安定した仕事を見つけられないまま、働けなくなった日。

家賃が払えず、家を追い出され、路頭に迷っていただろうな。」

「ヒサツグ様は、現状を受け入れられたのですか?」
とミーレ長官。

「うん。オレは、クロードが支えてくれた。
クロードは、オレを支えることを隠さない。
クロードは、オレと生きるために、できることを見つけて、率先してやっている。

その姿を見続けて、やっと。

オレは、安心できたんだ。

オレのこの世界の存在価値は、クロードを支えて守るためだけじゃなく、クロードに愛されて、クロードと幸せに生きていくことにある、と信じられた。」

「おめでとうございます。」
とミーレ長官。

ミーレ長官は、自分が大変でも、オレの境遇が良くなったことを喜んでくれる。

「ありがとう。
自分に手が回らなかったオレは、側で静かに支えてくれていた人の誠意に甘えて寄りかかったまま、何も返してこなかった。

遅くなって、ごめん。

次は、ミーレ長官の番だ。」

「私の番ですか?」
とミーレ長官は、柔らかく笑う。

「オレの場合は、女神様やマウンテン王国の国王陛下やドリアン王国やサーバル王国。
ミーレ長官は、お母さんやお母さんの周りの人達。

オレとミーレ長官は、周りに振り回され続けて、今、ここにいる。

オレは、やっとこさ、振り回されるだけの状態から抜け出した。

自分の意志で動けるようになったオレは、ミーレ長官にも振り回される流れから抜け出してもらい、これからもオレと一緒にいてもらおうと企んでいる。」

「企んでいるんですか?ヒサツグ様、企みが口から漏れています。」
とミーレ長官。

オレは、ふふん、と胸を張る。

「ミーレ長官は、オレの部下だから、オレの考えを知っていてほしい。

ミーレ長官。
誰かに振り回される人生から、自分で開拓する人生に変えて、これからも、オレについてきてくれ。」

「ヒサツグ様。結婚を申し込まれている気分です。」
とミーレ長官。

ミーレ長官から、期待した答えが返ってこないなー。

もう一押しするぞ!

「オレは、ミーレ長官の力になれないかな?」
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