473 / 667
第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。
473.『次はミーレ長官の番。待たせてごめん、ミーレ長官。オレは、ミーレ長官の力になれないかな?』
しおりを挟む
オレは、ミーレ長官がオレを信頼して、オレの言葉に聞く耳を持ってくれていた幸運に感謝している。
ミーレ長官に言葉が届かなければ、オレに打つ手はなかった。
「ミーレ長官。
オレは、異世界に来るにあたり、特別な何かを付与されたりしなかった。
オレは、日本にいたときのオレのまま、身一つで、この世界にきた。
異世界に来たオレは、異世界で使えるような特別な知識も特殊な技能も、何も持ち合わせていなかった。
オレが築き上げてきた、29年間の人間関係も信用も、何もなかった。
友人も家族も、同僚も、上司も、近所の人も、知っている人は1人もいない。
異世界転移した衝撃のせいか、理由は分からないけれど、異世界に来たときの記憶は曖昧だった。
何もかも分からない場所で、無知のまま、日銭を稼いでいたある日、日本にいたことを思い出した。
日本に帰りたい、でも、何もかも分からない世界で、まず死なないようにしないと。
異世界に来たと気づいたとき、衝撃を受けたけれど、衝撃に打ちのめされている余裕はなかった。
毎日、生きていかないといけなかったから。」
「ヒサツグ様のご苦労は、並々ならぬものだと察せられます。」
とミーレ長官。
ほら、ミーレ長官は、賢くて、誠実で、思いやりがある。
オレが、ミーレ長官と離れたくないのは、優秀さもあるけれど、ミーレ長官の人となりが好きだから。
「異世界に来たオレの苦労を真正面から受け止めて、苦労されたのですね、と認めてくれたのは、ミーレ長官が初めてなんだ。」
ミーレ長官は、驚いていた。
「驚きすぎて、声が出ないミーレ長官を初めて見た。」
「ヒサツグ様は、想像を絶するご苦労をされていました。」
とミーレ長官。
「頑張りも、苦労も、当たり前のこととして、消費され続けたら、疲れるんだ。逃げ場もなければ、なおさら。」
「ヒサツグ様が、クロード様との仲を深められても、日本に帰ることを望み続けた理由を理解しました。
ヒサツグ様は、この世界で生きること自体が、苦しかったのですか?」
とミーレ長官。
「クロードと帰る帰らないという話でぶつかり合うまでは。
クロードは、オレがこの世界で生きていくことが、少しでも楽になるように、と考えて動いてくれているから、助けられている。」
「クロード様は、ヒサツグ様のよいように、とよくおっしゃるようになりました。」
とミーレ長官。
「うん。
この世界に来たときからずっと、クロードに助けられてきたんだと、オレが気づけたことも大きい。」
「クロード様が、ご自身で嫁を探し出したということでしたね。」
とミーレ長官。
「クロードに気球に乗せられたときは、誘拐だと反発していたけれど、この世界の暮らしを知っていく中で、オレはクロードに救われたんだと気づいた。」
「クロード様とは、良い出会いでしたか?」
とミーレ長官。
「オレが頑なで警戒心バリバリで、クロードは、実力行使したくせに、何も説明しなかった。
今思い出しても、出会いは、最悪だったな。」
ミーレ長官は、吹き出した。
「クロードがオレを見つけて強引にオレをケレメイン公爵家の王都邸に連れてきてくれていなかったら、どうなっていたか。
オレは、考えられるようになった。
クロードと出会わなければ。
オレは、この世界でその日暮らしをしながら、安定した仕事を探し続けていたと思う。
体を壊すまで、ずっと。
安定した仕事を見つけられないまま、働けなくなった日。
家賃が払えず、家を追い出され、路頭に迷っていただろうな。」
「ヒサツグ様は、現状を受け入れられたのですか?」
とミーレ長官。
「うん。オレは、クロードが支えてくれた。
クロードは、オレを支えることを隠さない。
クロードは、オレと生きるために、できることを見つけて、率先してやっている。
その姿を見続けて、やっと。
オレは、安心できたんだ。
オレのこの世界の存在価値は、クロードを支えて守るためだけじゃなく、クロードに愛されて、クロードと幸せに生きていくことにある、と信じられた。」
「おめでとうございます。」
とミーレ長官。
ミーレ長官は、自分が大変でも、オレの境遇が良くなったことを喜んでくれる。
「ありがとう。
自分に手が回らなかったオレは、側で静かに支えてくれていた人の誠意に甘えて寄りかかったまま、何も返してこなかった。
遅くなって、ごめん。
次は、ミーレ長官の番だ。」
「私の番ですか?」
とミーレ長官は、柔らかく笑う。
「オレの場合は、女神様やマウンテン王国の国王陛下やドリアン王国やサーバル王国。
ミーレ長官は、お母さんやお母さんの周りの人達。
オレとミーレ長官は、周りに振り回され続けて、今、ここにいる。
オレは、やっとこさ、振り回されるだけの状態から抜け出した。
自分の意志で動けるようになったオレは、ミーレ長官にも振り回される流れから抜け出してもらい、これからもオレと一緒にいてもらおうと企んでいる。」
「企んでいるんですか?ヒサツグ様、企みが口から漏れています。」
とミーレ長官。
オレは、ふふん、と胸を張る。
「ミーレ長官は、オレの部下だから、オレの考えを知っていてほしい。
ミーレ長官。
誰かに振り回される人生から、自分で開拓する人生に変えて、これからも、オレについてきてくれ。」
「ヒサツグ様。結婚を申し込まれている気分です。」
とミーレ長官。
ミーレ長官から、期待した答えが返ってこないなー。
もう一押しするぞ!
「オレは、ミーレ長官の力になれないかな?」
ミーレ長官に言葉が届かなければ、オレに打つ手はなかった。
「ミーレ長官。
オレは、異世界に来るにあたり、特別な何かを付与されたりしなかった。
オレは、日本にいたときのオレのまま、身一つで、この世界にきた。
異世界に来たオレは、異世界で使えるような特別な知識も特殊な技能も、何も持ち合わせていなかった。
オレが築き上げてきた、29年間の人間関係も信用も、何もなかった。
友人も家族も、同僚も、上司も、近所の人も、知っている人は1人もいない。
異世界転移した衝撃のせいか、理由は分からないけれど、異世界に来たときの記憶は曖昧だった。
何もかも分からない場所で、無知のまま、日銭を稼いでいたある日、日本にいたことを思い出した。
日本に帰りたい、でも、何もかも分からない世界で、まず死なないようにしないと。
異世界に来たと気づいたとき、衝撃を受けたけれど、衝撃に打ちのめされている余裕はなかった。
毎日、生きていかないといけなかったから。」
「ヒサツグ様のご苦労は、並々ならぬものだと察せられます。」
とミーレ長官。
ほら、ミーレ長官は、賢くて、誠実で、思いやりがある。
オレが、ミーレ長官と離れたくないのは、優秀さもあるけれど、ミーレ長官の人となりが好きだから。
「異世界に来たオレの苦労を真正面から受け止めて、苦労されたのですね、と認めてくれたのは、ミーレ長官が初めてなんだ。」
ミーレ長官は、驚いていた。
「驚きすぎて、声が出ないミーレ長官を初めて見た。」
「ヒサツグ様は、想像を絶するご苦労をされていました。」
とミーレ長官。
「頑張りも、苦労も、当たり前のこととして、消費され続けたら、疲れるんだ。逃げ場もなければ、なおさら。」
「ヒサツグ様が、クロード様との仲を深められても、日本に帰ることを望み続けた理由を理解しました。
ヒサツグ様は、この世界で生きること自体が、苦しかったのですか?」
とミーレ長官。
「クロードと帰る帰らないという話でぶつかり合うまでは。
クロードは、オレがこの世界で生きていくことが、少しでも楽になるように、と考えて動いてくれているから、助けられている。」
「クロード様は、ヒサツグ様のよいように、とよくおっしゃるようになりました。」
とミーレ長官。
「うん。
この世界に来たときからずっと、クロードに助けられてきたんだと、オレが気づけたことも大きい。」
「クロード様が、ご自身で嫁を探し出したということでしたね。」
とミーレ長官。
「クロードに気球に乗せられたときは、誘拐だと反発していたけれど、この世界の暮らしを知っていく中で、オレはクロードに救われたんだと気づいた。」
「クロード様とは、良い出会いでしたか?」
とミーレ長官。
「オレが頑なで警戒心バリバリで、クロードは、実力行使したくせに、何も説明しなかった。
今思い出しても、出会いは、最悪だったな。」
ミーレ長官は、吹き出した。
「クロードがオレを見つけて強引にオレをケレメイン公爵家の王都邸に連れてきてくれていなかったら、どうなっていたか。
オレは、考えられるようになった。
クロードと出会わなければ。
オレは、この世界でその日暮らしをしながら、安定した仕事を探し続けていたと思う。
体を壊すまで、ずっと。
安定した仕事を見つけられないまま、働けなくなった日。
家賃が払えず、家を追い出され、路頭に迷っていただろうな。」
「ヒサツグ様は、現状を受け入れられたのですか?」
とミーレ長官。
「うん。オレは、クロードが支えてくれた。
クロードは、オレを支えることを隠さない。
クロードは、オレと生きるために、できることを見つけて、率先してやっている。
その姿を見続けて、やっと。
オレは、安心できたんだ。
オレのこの世界の存在価値は、クロードを支えて守るためだけじゃなく、クロードに愛されて、クロードと幸せに生きていくことにある、と信じられた。」
「おめでとうございます。」
とミーレ長官。
ミーレ長官は、自分が大変でも、オレの境遇が良くなったことを喜んでくれる。
「ありがとう。
自分に手が回らなかったオレは、側で静かに支えてくれていた人の誠意に甘えて寄りかかったまま、何も返してこなかった。
遅くなって、ごめん。
次は、ミーレ長官の番だ。」
「私の番ですか?」
とミーレ長官は、柔らかく笑う。
「オレの場合は、女神様やマウンテン王国の国王陛下やドリアン王国やサーバル王国。
ミーレ長官は、お母さんやお母さんの周りの人達。
オレとミーレ長官は、周りに振り回され続けて、今、ここにいる。
オレは、やっとこさ、振り回されるだけの状態から抜け出した。
自分の意志で動けるようになったオレは、ミーレ長官にも振り回される流れから抜け出してもらい、これからもオレと一緒にいてもらおうと企んでいる。」
「企んでいるんですか?ヒサツグ様、企みが口から漏れています。」
とミーレ長官。
オレは、ふふん、と胸を張る。
「ミーレ長官は、オレの部下だから、オレの考えを知っていてほしい。
ミーレ長官。
誰かに振り回される人生から、自分で開拓する人生に変えて、これからも、オレについてきてくれ。」
「ヒサツグ様。結婚を申し込まれている気分です。」
とミーレ長官。
ミーレ長官から、期待した答えが返ってこないなー。
もう一押しするぞ!
「オレは、ミーレ長官の力になれないかな?」
51
お気に入りに追加
1,680
あなたにおすすめの小説

どうしてこうなった?(ショートから短編枠にしたもの)
エウラ
BL
3歳で魔物に襲われて両親を亡くし、孤児院育ちの黒髪黒目で童顔のノヴァは前世の記憶持ちの異世界転生者だ。現在27歳のCランク冒険者。
魔物に襲われたときに前世の記憶が甦ったが、本人は特にチートもなく平々凡々に過ごしていた。そんなある日、年下22歳の若きSランク冒険者のアビスと一線を越える出来事があり、そこで自分でも知らなかった今世の過去を知ることになり、事態は色々動き出す。
若干ストーカー気味なわんこ系年下冒険者に溺愛される自己評価の低い無自覚美人の話。
*以前ショート専用の枠で書いてましたが話数増えて収拾がつかなくなったので短編枠を作って移動しました。
お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。
なお、プロローグ以降、途中まではショートの投稿分をまるっと載せるのでそちらと重複します。ご注意下さい。出来次第投稿する予定です。
こちらはR18には*印付けます。(でも忘れたらすみません)


嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです

どうも、卵から生まれた魔人です。
べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。
太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!


嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる