《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

472.ミーレ長官は、母上は何を思って私を道化に仕立てたのでしょうと呟きました。ミーレ長官のお父さんは、ミーレ長官の身代わりじゃありません。

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オレは、ミーレ長官が衝撃に耐えているのを見ながら、誤魔化さずに告げる。

「ある。

ミーレ長官は、知らなかった。

ミーレ長官以外のマウンテン王国の王侯貴族は、女王陛下の次代が、女王陛下の弟にあたる先代国王陛下だと認識していたことも、確認済みだぞ。」

「まさか。それでは、私は、なぜ王太子に。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官のお母さんが女王陛下でいることも、ミーレ長官が王太子でいることも、期間限定だと、お母さんはミーレ長官に説明したかな?」

「いいえ。初耳です。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官が、知らないことを、ミーレ長官以外は知らなかった。

このことが、ミーレ長官をさらに苦労させることになったと思う。

ミーレ長官が知らないことを知っているのは、ミーレ長官を王太子にして、説明しなかったお母さんだけ。

お母さんは、ミーレ長官に説明していない上に、説明していないと周りに伝えていなかった。」

「女王陛下が、私を騙して身分を偽らせたなど、あっていいはずありません。」
とミーレ長官。

オレは、こころもち、ゆっくりめに話す。

「ミーレ長官のお母さんが何を思って、ミーレ長官に打ち明けなかったかを聞くことはできない。

今からは、ミーレ長官のお母さんの気持ちを横にどけて、ミーレ長官自身の感情で考えてくれ。

ミーレ長官は、毒杯を勧められた理由が分からなかったから、毒杯を拒否したのかな?

毒杯を勧められたとき、毒杯を勧められる事態を引き起こしたとは思っていなかった。

違うかな?」

「違いません。
女王陛下が客死されたタイミングで、狡猾な叔父上に王位を簒奪され、正統な後継者が邪魔になるから、国内貴族を味方につけて、王太子の私を亡き者にしようとしているのだと、ずっと考えていました。」
とミーレ長官。

「お母さんが女王陛下の期間限定で王太子になっていたミーレ長官は、お母さんの客死事件後、王太子ではなくなっていた。

ミーレ長官が、お母さんの客死事件の真相を知ろうとサーバル王国に旅立ったときには、さ。」

「マウンテン王国の王太子ではないのに、王太子を詐称し、サーバル王国で王太子としてのもてなしを要求していたことになります。

そのことで、マウンテン王国は、サーバル王国との交渉において不利に立たされたでしょう。」
とミーレ長官。

「オレの話を信用してくれて良かった。」

ほっとした。

「ヒサツグ様は、偽りを伝えることはありません。」
とミーレ長官は、薄っすら微笑む。

「ありがとう。」

信頼が嬉しい。

ミーレ長官に褒められたこと、あったかな?

初めてじゃないかな?

「ヒサツグ様は、口をつぐむか、真実を述べるか、偽らざるをえない部分には触れないかのどれかを選択されてきました。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官の観察力!」

「用心深くないと、生きていけません。」
とミーレ長官。

痛み入るお言葉が出てきた。

「ミーレ長官が、王太子としてサーバル王国に行く件より前に、期間限定の女王陛下と、王にならない王太子の振る舞いは、顰蹙を買っていたかもしれない。

何か、思い当たることはあるかな?」

「あります。私は、女王陛下の次の王になると信じて疑っていませんでした。

叔父上、先代国王陛下と、従兄弟にあたる今代の国王陛下には、女王陛下と次代の王となる私には、臣下として仕えるように、という態度を取り、言葉にもして、叱責しています。

従兄弟は、何度、伝えても私に対する態度を改めないので、根気強く、指摘していました。

そのときは、従兄弟のためになる指摘だから、正しいことをしていると考えていました。

従兄弟に指摘できるのは、王太子の私しかいないという義務感がありました。」
とミーレ長官。

「反発される素地を作ってしまっていたな。」

ミーレ長官は、悲しげだった。

「私の指摘は、誰にも必要ないものでしたね。

王太子だったときの私の言動の全ては、的外れで、さぞ滑稽だったことでしょう。

母上は、何を思って、我が子を道化に仕立て上げたのでしょう?」
とミーレ長官は、呟く。

「ミーレ長官が王太子としてサーバル王国に行った件が、毒杯を勧める決定打になっていないかな?」

「これ以上もなく、決定打です。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官のお母さんのサーバル王国行きそのものが、お母さんの強行とかじゃないといいとオレは思う。

女王陛下になったミーレ長官のお母さんと、王太子になったミーレ長官の行動に、反発と不信感を募らせていた貴族が少なくなくて、先代国王陛下によるとりなしでは、貴族を抑えきることができなくなった。

それが、ミーレ長官が、毒杯を勧められた理由かな、とオレは考えている。

仮初の王太子の身分を振りかざして、サーバル王国へ乗り込んだこと。

ミーレ長官がサーバル王国へ乗り込んだことにより、女王陛下の客死が取引材料として使われるだけの証拠をサーバル王国側に残してきたこと。

マウンテン王国にとって、痛手だもんな。」

「痛手ですね。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官のお父さんは、お父さんの予想に反して、王太子の身分を返上しないまま、サーバル王国へ行って帰ってきたミーレ長官を死なせたくなかったんじゃないかな。」

「そうだったのでしょうか。」
とミーレ長官。

「サーバル王国から帰国したミーレ長官に毒杯が渡される前。

ミーレ長官に毒杯が渡されることは、ミーレ長官のお父さんに知らされていなかったんじゃないかな。

ミーレ長官のお母さんがしたことが、本人ではなく、息子に毒杯が渡されるような深刻な事態だと知らされたから。

ミーレ長官のお父さんは、覚悟を決めたんじゃないかな。

息子の家族と生きていくと決めた息子の新しい人生の先行きを暗くしないために。

お父さんは、命を賭して、できることをしてくれたんじゃないかな。」

「私と母上のしたことは軽い失態ではありません。

私と妻と息子が生き永られたのは、亡き父上のお陰でしょう。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官のお父さんは、生前、先代国王陛下と取引して、以下のことを頼んでいると思う。

先代国王陛下の生存中は、ミーレ長官とミーレ長官の妻子に危険が及ばなように、先代国王陛下自身が動くこと。

先代国王陛下自身が、ミーレ長官に働きかけたり、手配したりしたから、ミーレ長官は妻子と共にマウンテン王国で生きてこれたんじゃないかな?」

「ミーレ姓を名乗るようになってから、叔父上とよく話すようになりました。

父上は、無知だった私の身代わりです。」
とミーレ長官。

「ミーレ長官の身代わりじゃない。
お父さんは、父親として、誇りと命を賭けて、全身全霊で、息子家族の命を守った。」

「ヒサツグ様。」
とミーレ長官は、唇を震わせていた。
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