《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

449.女神様とも話し合いをします。クロードを恋い慕う気持ちを抑えて、クロードの伴侶を探して呼び寄せた女神様の気持ちと向き合います。

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オレは、友達としてじゃなく、ケレメイン大公国の大公妃殿下と、マウンテン王国の代表との話し合いをした。

オレの隣で興味深そうに話を聞いていた女神様は、話が終わるまで、サーバル王国の王女様シガラキノ様に接したように、振る舞うことはなかった。

女神様は、クロードを追い詰めたマウンテン王国に、思うことがあるのかな。

オレと女神様は、話し合いを終えて、部屋を出た。

次は、ケレメイン大公国のメンバーで話し合いだ。

でも。

その前に。

女神様と、腹を割って話をしよう。

女神様と二人っきりになれる時間は、これからは、そうそうない。

女神様と向き合いたい気持ち。

オレにあるかと言われたら?

オレにはなかった。

この世界に連れてこられたのに、気に食わないから、オレを殺す側に加担する女神様とは、気持ちが相容れなかった。

今も、女神様がオレにしてきたことに、色々思うことしかない。

けれど。

気づいてしまったから、気づかなかった頃には、戻れない。

女神様が、どれほど、クロードが好きか、クロードを大事にしていているか。

クロードのためになるなら、と、自分自身の気持を押し殺すことを選んだ女神様。

執務室で、女神様がクロードを独り占めしようとするから、オレが飛び込んで、クロードを取り合った記憶は、まだ薄れていない。

恋愛って、勢いだよなー。

あのときのオレは、ヒーローだった。

今のオレは、何だろうな。

まだ、何者にもなれていない気がする。

何者かになる一歩は、まず、女神様との話し合い。

「女神様、オレを女神様の世界に、クロードの伴侶として、呼んでくれてありがとう。」

オレは、隣を歩いている女神様の方を見る。

女神様は、驚いた顔をした後、楽しそうにハミングした。

「ふふふ。妾に、礼を言いたくなった?」
と女神様。

今、やっと、オレの心は、女神様にお礼を言える境地へと、たどり着いた。

オレは、女神様に向けていた顔を前に戻した。

「オレは、クロードと出会えて良かった、と思っている。

日本でクロードと会わない人生と、この世界でクロードと生きる人生。

どちらかを選ぶ機会があったらさ。

オレは、何度でも、クロードとの出会いを選択する。

クロードに出会ってしまったから、クロードのいない人生なんて、もう、オレの人生じゃないんだよな。」

女神様は、いつもの、ふふふ、ではなく、言葉で返してきた。

「妾は、英雄が愛おしい。」
と女神様。

うん、知っているぞ。

オレは、愛している。

「女神様は、クロードのことが大好きだから、クロードを見ていて分かったんだよな?

クロードを助けられるのは、女神様じゃない、ということを。

女神様自身で、クロードの助けになるのは難しい。

だから。

クロードの伴侶として、日本にいたオレを呼び寄せたんだよな。」

女神様もオレも、前を向いて、並んで話している。

顔が見えない方がいい話題もあるからさ。

「妾は、妾の英雄を苦しめるものから、妾の英雄を救い出すものを呼んだ。

妾の英雄は、苦しんでいても、妾の差し出す手を取ろうとはしなかった。」

女神様の声は、寂しそうだった。

オレは、クロードが、女神様の救いの手を拒絶した理由に思い至った。

クロードは、倒すべき魔王の正体を知っていた。

魔王が、異世界から女神様と約束して連れてこられた元神子様だと、魔王自身から聞かされていた。

クロードは、魔王の秘密を明かした、元神子様の魔王に好意を抱いた。

でも。

魔王と共に生きる選択肢は、クロードに用意されていなかった。

クロードにできることは、英雄として、魔王を討つことだけ。

女神様の差し出した手をクロードがとるのは、心情的に難しかったと思う。

女神様は、クロードが大好きだから、クロードが女神様の救いの手を取る気がないと気づいた。

クロードに、女神様を拒絶する気持ちがある限り、女神様の救いの手は、クロードに届かない。

女神様が、どんなにクロードを思って、クロードに救いの手を伸ばしても、クロードは、女神様の手をとろうとしない。

女神様しか救いの手を差し出さないのに、たった一つの救いの手を取ろうとしないクロード。

英雄クロードの環境は、クロードのためにならないものだった。

女神様は、クロードが、壊れずにいるためには、どうしたらいいか、と悩んだと思う。

女神様は、クロードが迷わず、握れる救いの手を用意した。

この世界になんのしがらみもなければ、この世界に対するどんな気持ちも持っていない。

まっさらな状態の異世界人のオレ。

クロードが、オレをクロードのものだと認識できる状態で、オレは、女神様の世界に連れてこられた。

女神様は、クロードに愛されない理由を知らないと思う。

「クロードがオレしか信用していないくらいに、オレのことを頼りにしていて、オレに心を許している状態を、女神様は見ていたんだよな?

女神様は、クロードを見ていたときに、オレの様子も見ていたよな?

クロードに愛されているオレは、クロードの気持ちに気づかず、日本に帰ることばかり考えていた。

女神様は、そんなオレに腹を立てていたんだよな?」

オレは、女神様の気持ちの核心に触れてみた。

「ふふふ。」
と女神様。

「クロードを大好きな女神様が、クロードのために呼び寄せたオレ。

クロードのために、と、動いていてはいても、クロードと同じだけの思いを、オレはクロードに返していなかった。

女神様は、クロードを大好きな気持ちを我慢して、クロードの伴侶を呼んだ。

女神様は、我慢した気持ちを、オレの振る舞いによって、踏みにじられたように感じたんだよな?」

「ふふふ。」
と女神様。

オレの気持ちも都合もまるっと無視している上に、女神様の都合で、身勝手極まりないといえば、その通りなんだけど、そのままならない感情が、恋なんだよなー。

「女神様が見たオレは、クロードに好かれるばかりで、クロードを好きだ好きだと言って安心させるどころか、クロードから離れようとして、クロードを不安にさせていた。」

「ふふふ。」
と女神様。

オレの推測は、外れていなかった。

だったら、女神様にかける言葉は決まっている。

「女神様は、クロードの支えになりたかったんだよな?

でも、クロードが、女神様を望んでいないと知っているから、身をひいたんだよな。

女神様。
よく頑張ったな。

クロードを助けたいのに、行き詰まっていて、大変だったよな?

クロードのために、オレを呼んでくれてありがとう。」
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