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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

343.一本釣りしてしまいました。どこぞのスパイさんを。いらないけど、釣り上げたからには、ただでリリースするわけにはいかないんです。

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二人羽織のようにクロードが、オレの背中に張り付いている。

クロードが信頼していた使用人は、仕事も任せられる使用人だったからなー。

精神的にも、仕事の上でも、手痛い損失。

阿吽の呼吸で任せられる信頼関係を一から作っていくのは、一進一退。

今のクロードには、穏やかな人間関係が必要なんだと思う。

侵略待ったなしの現実を突きつけられているケレメイン大公国。

国主のクロードは、穏やかな関係の中で、傷を癒やすための時間を確保するより、心から信頼できる人が一握りしかいない現状からの脱却を選んだ。

戦うクロードの傷が広がらないように、クロードに新しい傷が増えないように動くのが、オレの役目。

身内がクロードを疲れさせたり、傷つけたりすることを、オレは容認しない。

クロードに対しては、過保護なくらいでいい。

できるから、やらせる、という仕組みは、クロードにはいらない。

今、オレが、クロードより先に逝くことになったら、クロードが心配になって、化けて出る自信がある。

成仏できる気がしない。

クロードの目の前の石ころをオレが蹴り飛ばすのは、当たり前だと、クロードの周囲に認識させるぞ。

「クロードと選手交代したぞ。
オレは、あんたと話をする。」

「大公妃は、仕事に関係ないんで、引っ込んでいてもらえませんか?」
と今日の担当者。

よし、面談だな。

「あんたの仕事に対する熱意を聞こうかな?」

「そんなの、いちいち言う必要ありますか?」
と今日の担当者。

査定にまつわる面談で、突っかかってくるって、アリかな?

バイトリーダーしていたときに、新人の面接に立ち会ったんだけど、そんなこと言うバイトはいなかったぞ。

やる気はあるけど、疲れる仕事はしたくないんでふらないでください、は、あったかな。

職場の上役に聞かれている意識がないのかな?

「あんたが仕事をするにあたって、重視していることは何かな?」

「仕事のことについて、とやかく言われたくないんですけど。」
と今日の担当者。

「何のために仕事をしているのかな?」

「必要だったからですが、何か?」
と今日の担当者。

「誰のために仕事をしているのかな?」

「自分のためですが?もういいですか?
こんな問答に時間かける意味、ありますか?

クロード様に仕事をしてもらわないと、時間が勿体ない。」
と今日の担当者。

「あんたは仕事をしてどんな成果を出したいと考えているのかな?」

ケレメイン大公国をよくしたい、とかさ。

そういう前向きな意見の一つくらい、聞きたいなー。

「くだらないものは投げ捨てて、早く帰りたいです。」
と今日の担当者。

オイ!

「どのへんがくだらないのかな?」

「私は、向いていないんですよ。尻の話とか。」
と今日の担当者。

オレも自分の尻について語ろうとは思わないかなー。

「あんたは、どんな仕事が向いているのかな?」

「男色家の話し相手じゃない仕事ですが。」
と今日の担当者。

話し相手じゃなく、クロードの秘書を募集したんだけどな?

「あんたの特技は何かな?」

『なんで、うちで働いているの?』
と言いたいけれど、オレは聞き役に徹した。

「特技とか、どうでもいいですよ。

サーバル王国の王女様が来たときに、私の出番が来たと思ったら、次の日から、王女様は姿を見せてくれませんでした。

嫁は入れ替わらないと聞いて、びっくりですよ。

王女様の何が不満なんですか?

健気な王女様ですよ。

男の尻を追いかけている男の顔じゃなく、王女様の顔を見にきたんです。

まさか、ここへきて、王女様がフラレるとか、どんでん返しが過ぎます。

王女様に会いに来たので、王女様に会えないケレメイン大公国には用がありません。」
と今日の担当者。

開き直り過ぎないかな?

「大公妃におさまった王女様に取り入る予定だったということかなー?
あんたは、どこの国のスパイさん?」

「いい加減、男の尻トークには飽きたんで、帰りたくなりまして。
ここにいても、することないので。

速やかに、国へ帰してください。
ケレメイン大公国の敵にはなりませんから。」
と今日の担当者。

「大変、正直だけど、スパイさんは、もっと正直にお話してもらわなくちゃ、まだ帰せないなー。」

「サーバル王国の王女様に会うために、ケレメイン大公国に来て、いきがかりで、クロード様の下にいただけです。」
と今日の担当者、もといスパイさん。

キャッチアンドリリースができるなら、したいけどなー。

スパイだと認める怪しげな人をリリースするのはなー。

ミーレ長官を呼ぼう。
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