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第8章 29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵に溺愛されています。
248.《本編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵、改め、英雄大公に溺愛されています。
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オレが、クロードと月を見るようになったのは、きっかけがある。
ある夜。
オレは、夜空に浮かぶ月を見て、日本で見る月と変わらない、と思った。
その夜から、オレは、夜中に、一人で、月を眺めることが多くなっていった。
月だけ見ていれば、日本にいると錯覚してしまいそうになる。
その夜。
クロードが、オレの肩に手を乗せて、尋ねた。
「ヒサツグは、月を見るのが、好きか?」
「月が好きなんじゃなくて、日本で見る月と同じに見えるから、夜だけ、日本にいる気分になれる。」
「私は、ヒサツグを故郷に帰さない。」
とクロードは、肩に置いた手に力をこめた。
オレが、月に誘拐されるとでも思ったかな?
「分かっている、クロード。
日本には帰らない。
家族とも友人とも二度と会わない。
オレが、自分自身で決めた。
頭では、理解している。
クロードを愛している。
クロードと生きていく覚悟もある。
幸せだ。
今の人生に不足はない。
オレは、クロードと出会えなかった人生をもう一度、と言われても、あり得ないと断る。
でも、日本を恋しく思う気持ちは、なくならない。
こちらでは、苦しいことも悲しいことも、楽しいこともあった。
わけもわからず、こちらにいたから、日本においてきた何もかもが、途中だったんだ。
会って見届けたいこともあった。
何より。
せめて、別れを告げたかった。
二度と会えないのなら。
オレの29年の歴史が詰まった場所と、オレを育んでくれた人に。
誰にも何も言わないまま。
誰にも知られないまま。
決して交わらない場所で。
オレは、生きて死んでいくんだ、と考えると。
寂しくて、恋しい。
ごめん、クロード。
オレの心だから、オレ自身で、折り合いをつけていくしかない。
オレは、水面に映る月に手を伸ばすほど、我を忘れることはしない。
ただ、一人で、月を眺めさせてくれ。」
クロードは、肩に置いた手から力を抜いて外すと、オレの横に並んだ。
「ヒサツグ。
水面に映る月に手を伸ばすと良い。
手を伸ばすことの何が悪い?
私に、聞き分けの良い姿を保てなくても良い。
私は、ヒサツグの旦那だ。
私は、ヒサツグを私の横に繋ぎ止めている。
ヒサツグが水面に手を伸ばすなら、ヒサツグの袖が濡れないように、私はヒサツグの袖を持つ。
ヒサツグの袖が濡れてしまったら、ヒサツグの袖を絞り、乾かすのは、旦那の私だ。
ヒサツグの涙が、水面の月を揺らすなら、その涙が乾く前に、私がヒサツグの元にかけつける。
ヒサツグは一人で、心の揺れを抱えないで、私にも抱えさせてほしい。
私とヒサツグは、夫婦だ。
二人で生きていく。
ヒサツグ、故郷の月の話を私にしてくれ。
何十年後に、二人で、懐かしめるように。」
とクロード。
「クロード、月が綺麗だな。」
クロードは、オレの顔を覗き込む。
「月に、照らされたヒサツグの瞳が綺麗だ。月に呼ばれないように、捕まえないと。」
とクロード。
「月がオレを呼ぶなら、クロードも一緒に来るよな?オレは、一人では、行かないぞ?」
「私は、ヒサツグが月に行きたいと望まない限り、月にヒサツグを連れていかない。」
とクロード。
「クロードは、オレの行きたいところにオレを連れていくんだな?」
オレは、両手をバンザイして、クロードの肩の高さに合わせた。
クロードが、オレをお姫様抱っこする。
オレとクロードは、月に照らされながら、キスを重ねた。
「クロード、オレが今、一番行きたいところに連れていけ。」
「ヒサツグの望むままに。」
とクロード。
オレは、クロードのお姫様抱っこで、寝室のベッドに運ばれた。
その夜は、長く、情熱的な夜になった。
その次の夜から、オレとクロードは、並んで、夜空に浮かぶ月を眺めるようになった。
オレの言う台詞は、決まっている。
「クロード、月が綺麗だな。」
その後も、お決まりの流れだ。
日本の家族や友人に、メッセージが届けられるなら、こんな内容にしようと思う。
オレ、ヒサツグ・ミズトは、29歳で、異世界人になっていた。
日本に帰りたいという思いはあるぞ?
でも、
英雄公爵、改め、英雄大公となった旦那に溺愛されているから、旦那と離れがたくて、帰るのは止めた。
オレも、英雄大公を愛しているから。
英雄大公と結婚もしたぞ。
英雄大公の名前は、クロード・ケレメイン。
クロードは、オレの最愛の伴侶になり、オレとクロードは家族になった。
オレの苦労も幸せも、クロードと一緒だ。
オレは、異世界で幸せに暮らしている。
今まで、ありがとう。
異世界から、29年分の感謝をこめて。
ヒサツグ・ミズト
《本編 完結》
ある夜。
オレは、夜空に浮かぶ月を見て、日本で見る月と変わらない、と思った。
その夜から、オレは、夜中に、一人で、月を眺めることが多くなっていった。
月だけ見ていれば、日本にいると錯覚してしまいそうになる。
その夜。
クロードが、オレの肩に手を乗せて、尋ねた。
「ヒサツグは、月を見るのが、好きか?」
「月が好きなんじゃなくて、日本で見る月と同じに見えるから、夜だけ、日本にいる気分になれる。」
「私は、ヒサツグを故郷に帰さない。」
とクロードは、肩に置いた手に力をこめた。
オレが、月に誘拐されるとでも思ったかな?
「分かっている、クロード。
日本には帰らない。
家族とも友人とも二度と会わない。
オレが、自分自身で決めた。
頭では、理解している。
クロードを愛している。
クロードと生きていく覚悟もある。
幸せだ。
今の人生に不足はない。
オレは、クロードと出会えなかった人生をもう一度、と言われても、あり得ないと断る。
でも、日本を恋しく思う気持ちは、なくならない。
こちらでは、苦しいことも悲しいことも、楽しいこともあった。
わけもわからず、こちらにいたから、日本においてきた何もかもが、途中だったんだ。
会って見届けたいこともあった。
何より。
せめて、別れを告げたかった。
二度と会えないのなら。
オレの29年の歴史が詰まった場所と、オレを育んでくれた人に。
誰にも何も言わないまま。
誰にも知られないまま。
決して交わらない場所で。
オレは、生きて死んでいくんだ、と考えると。
寂しくて、恋しい。
ごめん、クロード。
オレの心だから、オレ自身で、折り合いをつけていくしかない。
オレは、水面に映る月に手を伸ばすほど、我を忘れることはしない。
ただ、一人で、月を眺めさせてくれ。」
クロードは、肩に置いた手から力を抜いて外すと、オレの横に並んだ。
「ヒサツグ。
水面に映る月に手を伸ばすと良い。
手を伸ばすことの何が悪い?
私に、聞き分けの良い姿を保てなくても良い。
私は、ヒサツグの旦那だ。
私は、ヒサツグを私の横に繋ぎ止めている。
ヒサツグが水面に手を伸ばすなら、ヒサツグの袖が濡れないように、私はヒサツグの袖を持つ。
ヒサツグの袖が濡れてしまったら、ヒサツグの袖を絞り、乾かすのは、旦那の私だ。
ヒサツグの涙が、水面の月を揺らすなら、その涙が乾く前に、私がヒサツグの元にかけつける。
ヒサツグは一人で、心の揺れを抱えないで、私にも抱えさせてほしい。
私とヒサツグは、夫婦だ。
二人で生きていく。
ヒサツグ、故郷の月の話を私にしてくれ。
何十年後に、二人で、懐かしめるように。」
とクロード。
「クロード、月が綺麗だな。」
クロードは、オレの顔を覗き込む。
「月に、照らされたヒサツグの瞳が綺麗だ。月に呼ばれないように、捕まえないと。」
とクロード。
「月がオレを呼ぶなら、クロードも一緒に来るよな?オレは、一人では、行かないぞ?」
「私は、ヒサツグが月に行きたいと望まない限り、月にヒサツグを連れていかない。」
とクロード。
「クロードは、オレの行きたいところにオレを連れていくんだな?」
オレは、両手をバンザイして、クロードの肩の高さに合わせた。
クロードが、オレをお姫様抱っこする。
オレとクロードは、月に照らされながら、キスを重ねた。
「クロード、オレが今、一番行きたいところに連れていけ。」
「ヒサツグの望むままに。」
とクロード。
オレは、クロードのお姫様抱っこで、寝室のベッドに運ばれた。
その夜は、長く、情熱的な夜になった。
その次の夜から、オレとクロードは、並んで、夜空に浮かぶ月を眺めるようになった。
オレの言う台詞は、決まっている。
「クロード、月が綺麗だな。」
その後も、お決まりの流れだ。
日本の家族や友人に、メッセージが届けられるなら、こんな内容にしようと思う。
オレ、ヒサツグ・ミズトは、29歳で、異世界人になっていた。
日本に帰りたいという思いはあるぞ?
でも、
英雄公爵、改め、英雄大公となった旦那に溺愛されているから、旦那と離れがたくて、帰るのは止めた。
オレも、英雄大公を愛しているから。
英雄大公と結婚もしたぞ。
英雄大公の名前は、クロード・ケレメイン。
クロードは、オレの最愛の伴侶になり、オレとクロードは家族になった。
オレの苦労も幸せも、クロードと一緒だ。
オレは、異世界で幸せに暮らしている。
今まで、ありがとう。
異世界から、29年分の感謝をこめて。
ヒサツグ・ミズト
《本編 完結》
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