《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第8章 29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵に溺愛されています。

245.クロードの真心に完敗です。『私は、ヒサツグと一緒にヒサツグの一生を振り返れるようになる。』

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オレとクロードは、寝室に引き上げてきた。

「クロード、オレとカズラ君の話が気になった?何か、気づくことがあったのかな?」

オレから、水を向ける。

「ヒサツグは、元の世界の話をしていた。ヒサツグが元の世界での話をするのは初めてだ。」
とクロード。

「そうだな。誰も知らないと思っていたから、こちらの人には、日本でのことを話さなかった。

日本に帰る前のカズラ君とは、今日みたいな関係になっていなかったから、日本での思い出を話すことはなかったな。

オレだけの話だから。」

オレは、苦い気持ちを飲み下した。

カズラ君は、オレの友達や家族ではない。

カズラ君とオレでは、分かち合うには、遠すぎる。

今、オレの日常を分かち合ってきた人達は、一人も、オレの周りにいない。

オレの日常のたわいない話を分かち合いたい人達と会う日。
オレには二度と巡ってこない。

誰かのせいじゃない。

オレが決断を下すんだ。

誰も悪くない。

オレが、クロードと生きる未来を選んだんだ。

故郷を捨てたくない気持ちが、全く抑えられない。

クロードは、ずっと返事を待っていて。

オレの返事は決まっているのに。

口にしたら、故郷との縁が永遠に切れてしまうと思うと。

恐ろしくなる。

口に出すのを遅らせたくなる。

オレが、黙ってしまうと、クロードが話し始めた。

「私は、ヒサツグについて、もっと知りたい。
ヒサツグが、何を考え、何を好み、何を苦手とするか、だけでなく。

ヒサツグが私に会うまでのことを知りたい。
元の世界で、ヒサツグが、過ごしてきた時間、ヒサツグが生まれてからの29年。

何をしてきた、どんなことが好きだった、特技は何だった。

何でもいいから、ヒサツグは、思いつく限りを私に話してほしい。

私は、ヒサツグと一緒に、ヒサツグの一生を振り返れるようになる。」
とクロード。

「クロードが、オレの一生をオレと一緒に振り返れるようになる?」

どうやって?

「私は、ヒサツグの人生をヒサツグと同じ視点で語るようになる。

ヒサツグが泣いた思い出や、褒められた思い出、勝利した思い出。

その全てを、ヒサツグが、あのときは、と言えば、私が、こうだった、と返す。」
とクロード。

「クロード。」
オレは、喉が詰まってきた。

「ヒサツグが、ヒサツグの人生を左右する決断をするにあたり、私は、私のために、私のわがままを押し通す。」
とクロード。

うん。
それは、重々承知だぞ。

「私は、ヒサツグが、生きていく上で享受するはずだったものを受け取らないように、と、ヒサツグに迫っている自覚がある。」
とクロード。

クロードは、理解したのか。

「私は、ヒサツグに対する行いを自覚しても、改める予定はない。」
とクロード。

だよなー。

「私は、私と一緒に生きるヒサツグと、ヒサツグの故郷について話せるようになる。
ヒサツグの家族も友人も、同僚の名前も覚える。
ヒサツグと一緒に、ヒサツグと仲の良かった誰かについて話せるようになる。」
とクロード。

「クロード。めちゃくちゃたくさんいたら、どうするんだ?」

「幸い、私は、人の顔や名前を覚えるのは苦ではない。」
とクロード。

クロードらしいな。

「だから、ヒサツグ。どこにも行くな。元の世界に戻るな。片時も、私から離れずに、一生、私と生きてほしい。」
とクロード。

クロード。

負けた。

オレの完敗だよ。

クロードの真心は、オレの口を動かした。

「約束する。クロード。オレは、日本に帰らない。一生、クロードの側にいる。」

「ありがとう。ヒサツグ。」
そう言って、オレを優しく抱き締めるクロードは泣いていた。

クロードの涙は、クロードと同じくらい、温かかった。

「オレも、クロードについて知りたい。クロードのご両親との思い出も、何もかも、全部。」
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