《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第8章 29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵に溺愛されています。

232.秘密を打ち明けた相手が同調ではなく、秘密を知ったことで、優位に立とうとしてきます。どうしましょうか?

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オレは、正面から、クロードにぶつかることにした。

今のクロードに、誤魔化しは通用しない。

誤魔化し、と、逃げ、は、クロードの態度を硬化させる悪手だ。

「オレは、クロードに反対されるために、打ち明けたんじゃない。オレは日本に帰りたい。」

「帰さない。」
とクロード。

クロードが、コンクリートの壁みたいだ。

固くて冷たくて、真っ直ぐ地面に刺さっている。

交渉の余地がない。

オレは、クロードに交渉を拒否されている。

「クロード、オレは。」

「ヒサツグ、私の嫁を私は手放さない。」
とクロード。

「クロードは、オレを手放すんじゃない。オレは、日本に里帰りするだけ。クロードのいる場所に帰ってくる。」

だから、クロード、オレに反対するな。

「認めない。」
と、間髪入れないクロードの返事。

「認めろ!オレの願いは、一つだけだ!」

「元の世界には、ヒサツグが大事にしてきたものが、たくさんある。」
とクロード。

その通りだぞ。

それなのに。

「クロード、分かっているなら、なんで、ダメだと言うんだ!」

オレは、切り離されたくない。

捨てたくない。

オレの過去をなかったことにしたくないんだ。

全部。

オレの29年の集大成。

オレの人生。

オレが、日本で生きてきた記録。

オレの頑張りの証。

あれもこれも、オレが掴み取ってきた。

オレの将来のために。

オレ自身の力で。

友達も、仕事も、持ち物も。

それを全部、オレから取り上げるな。

そこには、オレの思いや努力が詰まっているんだ。

オレの歴史なんだ。

オレ自身で、オレの歴史を諦めないで済む可能性があるなら、オレは、足掻きたい。

涙をのむ前に、出来ることは、全部試したい。

そう思って、何が悪い。

オレの思いを知ったのに、一顧だにしないで、オレの願いを切り捨てるな!


クロードは、淡々と聞いてくる。
「ヒサツグ。こちらに、ヒサツグの大事なものは、何がある?」

え?

こちら?

今、オレがいる場所で。

そんなの、決まっている。

そんなの、一つしかない。

世界にたった一人の、オレの愛しい人。

「オレが、大事なのは、クロードに決まっている。」

クロードは、オレの回答を疑問に思う様子はなかった。

想定済みだったらしい。

なんだ?

可愛いなー。

オレに、大事にされていると確かめたかったのか?

クロードを大事にしているに決まっているだろう?

クロードは、オレの回答を予期していたが、オレの回答内容に不満があったようだ。

「ヒサツグ、他には?」
とクロード。

「他には、とな?」
オレは、想定外の返しにきょとんとしてしまった。

今のは、クロードが好きだよ、大好きだよ、という流れじゃないのか。

「私以外には?」
とクロードが、重ねて聞いてくる。

こちらで大事にしているもの?
クロード以外に?

「特にない。というより、思い当たらないかなー。」

オレは、何も考えずに即答した。

『クロード以外に、オレが大事にしているものが、こちらにあるか?』

この質問が、オレの今後を占う重要な質問だなんて、その時のオレは、微塵も考えなかった。

クロードにとっては、とても意味がある質問だったのに。

オレは、クロードの意図を汲み取れなかった。

オレは、ありのままの気持ち、嘘偽りのない気持ちを答えた。

クロードが、そういう答えが返ってくるのは、想定通り、という顔をしていることに、オレは、何も思わなかった。

オレは、オレの視点に凝り固まり過ぎていたのだ。
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