《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第8章 29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵に溺愛されています。

229.己の自尊心と、愛する人の健康。両者が天秤にかけられているなら、どうしますか?

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十日ぶりに会うクロードは、十連勤明けの人だった。

家に帰れず、十連勤のヨレヨレながら、オレと話そうという意識はあるクロード。

オレが話すと決めた、と好々爺のお医者さんから聞いて、無理をおして、睡眠時間を削って、オレが待つ寝室に来たクロード。

「クロード、過労で倒れる気か?
何でもかんでも、抱え込もうとするな。
クロードには、オレがいるだろう?
クロードとオレは、同じ荷物を背負うと決めた。
オレから、荷物を取り上げて、オレを情けない男にするな。
オレをクロードの荷物にするな。
オレは、自分の足で立てるんだから。」

オレは、十日ぶりに寝室に入ってきたクロードを抱きしめた。

クロードは、仮眠はとっていても、ベッドで熟睡していないから、疲れが蓄積している。

クロード!

オレのクロード!

「お仕事、頑張ってくれてありがとう。心配かけて、ごめんな。心配させていることに気づかなくて、ごめんな。」

いつものクロードなら、オレが抱きつくと、ぎゅうぎゅう抱き締めてくるが、今日は、その力も出ないようだ。

腕が、オレに回されずに、だらんとしている。

クロードが、オレのつむじの匂いを嗅がないなんて。

クロードが、重症だ。

誰だ!
クロードをこんなに酷使したやつは!

クロードを過労へと追い詰めたのは、オレとクロード自身だ。

オレが、自分のプライドばかり気にしていたから、だな。

「ヒサツグ、時間はあまり取れない。」
とクロード。

オレは、寝室のベッドにクロードと並んで腰を掛けた。

オレは、クロードに体を寄せて、話をした。

オレと神子様のカズラ君は、自力で、こちらと日本を行き来できる方法があるのではないか、と考え、実験しようとしていることを。

しん、と静まり返る寝室。

元々、オレしか喋っていなかったから、オレが喋り終わると静かになった。

クロードは、オレが続きを話すのを待っている。

オレは、罪を告白する気分を味わいながら、続きを口にした。

「オレは、ケレメイン大公国に帰ってきたら、その実験に着手する計画を立てていた。
神子様のカズラ君という共同研究者も得て、成功する確率が上がるんじゃないか、と、予想していた。
実験のことを考えて、気もそぞろになっていた。」

このへんは、話しても問題ない。

クロードが、特に反応を見せていない。

ああ、話しにくい。

正直言うと、クロードに話したくない。

今も。
黙っていられるなら、永遠に黙っていたい。

でも、こんな、ヨレヨレのクロードを見たら。

オレは、オレのプライドより、クロードが大事だ。

オレのクロードに無理をさせるのが、オレ、だなんて、そんな現実はいらない。

クロードが、苦しまないように、打ち明けないと。

ここからは、オレのプライドの話をしないといけない。

うう、オレの自尊心が、暴れている。

「オレは、その実験をクロードに隠れて、してしまいたかった。」
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