《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

第8章 29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵に溺愛されています。

226.やすらはで 寝なましものを さ夜(よ)ふけて 傾(かたぶ)くまでの 月を見しかな

オレは、エステや、食事の合間に、寝室から抜け出そうとしたけど、全て、三人の使用人に阻止された。

オレは、ぴかぴかに磨き上げられて、寝室でクロードを待っている。

クロードは、日中、寝室に戻って来なかった。

今日のオレは、一日、情けなくて、惨めだった。

クロードがいない部屋で、クロードが帰ってくるのを身綺麗にして待つオレ。

身綺麗に、なんて、言葉を取り繕ってみたけれど。

オレは、クロードに抱かれるために、新妻の夜着を着て、ベッドで待っている。

嫌だ。

こんなの、オレじゃない。

クロードが、寝室に来たら、絶対に、クロードに、命令を取り下げさせよう。

オレは、固く決心した。

オレは、夫の部屋に隠された存在になんて、なりたくない。

その日、オレは、寝室で待っていた。

クロードが、入ってくるのを今か今かと、待ち構えていた。

空が白み始めても、オレは、一睡もしないで、待っていた。

その夜、クロードは、寝室に帰ってこなかった。

クロードとオレは、初夜の日から毎日一緒のベッドで寝ていた。

オレは、明るくなっていく空を見ながら、温かさの足りない布団で、まんじりともしない朝を迎えた。


オレがこちらに来て初めて、徹夜して見る朝焼け。

日本で見た空と変わりがないように見える。

オレは、日本でも、片手に数えるほどしか、徹夜の経験がない。

徹夜をすると、徹夜明けのオレは、頭痛で一日中、使い物にならない。

日本にいるとき、徹夜はしないようにしてきた。

どんなに切羽詰まっていても、睡眠時間は確保してきた。

だから、徹夜なんて、十年ぶりだ。

オレは、痛む頭で、朝焼けを見ていた。

隣に、クロードがいて、並んで見る朝焼けなら、どんなに、心が動いただろう。

朝焼けだから、じゃなく、どんな景色でも、どんな日常でも。

クロードと一緒に見る景色は、ずっと輝いていた。

クロードと一緒に過ごさないなんて、いつぶりかな？

なんで、クロードは、オレの隣にいないんだろう？

オレは、ここにいるのに。


オレ、日本に帰らないで、クロードのいるこちらにいるんだぞ？

クロード、今日こそは、オレに会いにこいよ。

オレから会いにいけないようにしたのは、クロードなんだから、クロードからオレに会いにこないとダメだろう？

クロードの声が聞きたい。

話がしたい。

一緒にいたい。

分かっているか？

オレとクロードは、夫婦なんだぞ？

会えない時間が、二人の関係を強くするなんて、オレとクロードには当てはまらないからな？

オレとクロードは、一緒にいるから、互いに強くなれるんだ。

来いよ、今日は。

今日も、待っているからな。