《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第6章 異世界で公爵の伴侶やってます。溺愛とは、何でしょうか。

122.愛しい人。その二本の腕で、あなたは、何人守れるのでしょうか?わたしのことは、何番目に守ってくれますか?

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クロードは、医者の話を聞いている。

自分の不在中の屋敷に、医者が自由に出入りしていたことを知らなかった可能性はあるなー。

クロードは、帰っていなかったんだから。

クロード不在中の屋敷で、家探しをしたか、噂話を集めたのかな、医者は。

国王陛下の秘密、というのも、似たようにして、集めた可能性はあるな。

医者がうろついた程度で集められる情報だから、情報としての価値はない。

国王陛下の秘密を握ったと考えている医者を使って、国王陛下が何をしようとしたか、が、オレは知りたい。

オレは、国王陛下の思考をよんで、先回り出来るまでに至っていない。

「私は、色々、限界でして。
妹と神子様のせいで。」
と医者。

「国王陛下は、妹と私が神子様に置いていかれたことを嘆かれました。
神子様は、公爵領にいるというから、わざわざ来ましたよ。
神子様、早く帰ってください。
神子様のいていい場所は、ここじゃないです。」
と医者。

「他所の家に入り浸る医者が言うんだ?」
と神子様。

ガタンガタン、と椅子や机がぶつかる音がした。

クロードが、風より早く動いた。
「魔法。」
と呟いて。

オレより先に部屋から飛び出したクロードは、神子様と医者のいる部屋の扉を開けた。

「クロード。やっと来た。聞いたぞー。
クロードと神子様は、本当は仲良しだったんだってなー。
好き合っていたのに、くっつかないなんて、変だ、変だ、と皆が話をしていたぞー。」
と医者は、直立不動で、ケタケタ笑っている。

神子様が、倒れている!
監視員も。

二人とも、うつ伏せで、ぴくりとも、動かない。

「神子様。」
クロードは、大股で、部屋の中に入っていく。

クロードが神子様の体に触れているのを見て。

オレも続いて、部屋の中に入った。

オレは、倒れている神子様に、急いで駆け寄った。

オレは、クロードの邪魔にならないように、神子様の近くに屈んで、神子様の首の脈をとろうと手を伸ばした。

衝撃が起こる前。

オレの視界の端に靴が見えたのを覚えている。

ボロボロに履き潰された靴。

誰の?

この部屋で、ボロボロの靴を履いていそうな人は一人しかいない。

医者が、近くにいる?

オレは、顔を上げた。

医者は、両手をぶらんとおろした状態で立っていた。

医者は、微動だにしない神子様を見て、オレを見ると、ぶらんとしていた腕を振り上げた。

え?
急に、何?

オレは、腕の動きに合わせて、目線をあげていった。

医者の袖から、キラッと光るものが見えた。

あっ。

オレは、腕が振り下ろされてくる瞬間。

動かない神子様と、神子様に何かをしているクロードを見てしまった。

オレは、逃げないといけないと分かっていた。

逃げないと、全て台無しになる。

分かっているのに、オレは動けなかった。

自分で動きたくなかった。

助けて。
オレを見て。

クロード、オレのクロード。
声にならない声で、オレは愛する人の名を呼んだ。

こんなときに、オレを選んでほしいと願うなんて、オレはどれだけ醜いんだろう。

それでも、クロードに、オレを見てほしかった。

こんな時だから。

オレだけを見てほしかった。

だって、クロードは。

クロードの腕は。

その腕で抱えているのは。

クロードの唇は。

その唇が名前を呼んで、近近付いていくのは。


「ヒサツグ!」
クロードの慌てる声がした。
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