《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第6章 異世界で公爵の伴侶やってます。溺愛とは、何でしょうか。

89.公爵に会いたいけど、会う勇気が出ません。『神子様に会いたい。』神子様は、オレと同じ異邦人なんです。たった二人だけ。正反対の立場ですが。

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最近、オレは、ほぼ寝たきりになっている。

起き上がる気力もない。

起き上がりたくもない。

ずっとベッドで寝ていたい。

朝も昼も夜も。

こちらに来てから、張り詰めていた何かが、ぷつんと切れた。

話すのも億劫。

食べるのも、疲れる。

トイレは、漏らしたくないから行くけど。

公爵は、来るなと言っても、何回も部屋に入ってこようとした。

今のオレは、体を動かさないから、肉体が疲れない。うつらうつらしていても、物音を聞いたら、目を覚ましてしまう。

「目が覚めるから、公爵は、入ってくるな。」
オレの部屋は、公爵を出禁にした。


オレは、日の出も日の入りも無視して、寝室にいる。

食事をとるのも億劫で、飲み物を飲んで、消化の良いおかゆのようなものをスプーンですくって、口に運んでもらうようにしている。


希望は、人の活力なんだ。

オレは、生きていく芯となる部分を、永遠に失った。


公爵は、しょっちゅう、オレの部屋の前をうろうろしている。

公爵に気にかけられるのが、嬉しくて、得意な気分になる。

いつも、公爵は、オレの腰に腕を巻き付けてくるから、オレの腰に公爵の腕があるのは、すっかり当たり前になっていた。

寂しいなー。

公爵と過ごした時間が、オレの中では大きくなっていたんだ。

会いたいな。
公爵は、いつもオレの側にいるものだと思うようになっていたんだ、オレ。

「気配がうるさい。」

公爵の様子を想像したら、心配かけているのに、なぜか、くすぐったい気持ちになる。

心配されているんだ、と思ったら、嬉しくて、気持ちが浮上する。

公爵に会いたい気持ちもある。

けれど、顔を見たら、罵らないでいられる自信がない。

公爵を傷つけたくない。

公爵は、十分傷ついてきたんだから。

他の誰でもなく、家族の、伴侶の、保護者のオレは、公爵を傷つけたらダメだっ。

公爵を出禁にした日から。
オレは、公爵とは会っていない。


でも、このままでいいわけがない。

いつまでも、このままではいられない。

オレは、寝たきりだけど、周囲の会話には敏感だ。

公爵領は、神子様がお忍びと言いながら、歩き回っている。

神子様の存在が、公爵領に国王陛下が来るのをおさえている。

公爵は、公爵領の統治に身を入れ始めた。

公爵が、頑張っている。

オレの言葉は、きっかけ。

公爵は、自分で考えて動き始めた。

もう出会ったばかりの笑顔を忘れた公爵じゃない。

誰かの悪意に振り回されてきた公爵じゃない。

今の公爵は、覚悟のある公爵領の統治者だ。


公爵のことを思うと、オレはいつも涙が出る。

公爵を遠ざけたのは、オレなのに。

漏れ聞こえる公爵の話を集めてしまう。

出会ったときは、考える力を失っていたのに、今の公爵は、公爵領の文官や武官に、自分から聞いたり、相談したり出来るようになったって聞いたらさ。

公爵は、オレがいなくて、困っていないかな?

働き過ぎて、疲れていないかな?

オレの頭の中は、公爵のことばかり考えてしまう。

オレがいなくて、寂しさに枕を濡らしていないかな。

そんな後ろめたい期待もしてしまう。


オレは、自分の感情が、安定しなくて苦しい。

公爵に会いたい、会いたい。

オレの感情が公爵を呼びたがっている。

でも、会えない。

止めておけ、と理性が止める。

会うのが怖い。

公爵と会った途端、理性をなくしてしまったら?

荒れ狂う感情のままに、公爵を傷つけない自信が、オレにはない。


現状打破には、どこかで吐き出さないと。

オレの中で渦巻く嵐を抱え込んだまま、公爵とは会えない。

オレの感情だ。

オレが、自分で、けじめをつけないと、オレはいつまでも、立ちすくんだまま。


公爵と結婚していなかったら?

最初は、そればかり考えて、恨んだけれど。

オレの中で、公爵といることが日常になっていて。

公爵と結婚していなかったら?と考えてみても。

公爵のいない暮らしなんて、思いつかないくらいに、オレの中は、公爵がいっぱいになっている。

なんだよ、もう。

こんなの。

こんなの。

絶対、アレじゃん。

好きじゃん。

オレ、公爵のことを好きになっているじゃん。

オレ、これから、どうするんだよ?



「神子様に相談したい。神子様を呼んでくれ。」
オレは、声を出した。

オレの声は、弱々しかった。

声帯も使ってないと、衰えるのかな?

オレは、神子様を呼んでもらった。

オレの気持ちを吐き出して、相談できる相手。

そう考えたら、全然好きになれない神子様しか思いつかなかったんだなー。

我ながら、びっくりだ。

神子様は、オレと同じ異邦人。

こちらで、たった二人の余所者。

立場は、正反対だけど。

神子様は、オレの味方になってはくれなくても、オレの感情に理解を示してくれる。

多分。
そんな気がする。
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