《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第4章 夫が真実の愛を捧げる相手はどこにいるのでしょうか?名乗り出てください。

56.『あ、若様だ。』公爵は、領地で若様と呼ばれて愛されています。

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「今日の割当は、終わった!」

「本日は、お疲れ様でした。明日も同じ時間に。」
と公爵領の文官。

オレが拳を上にあげると、文官が拍手してくれた。

公爵も、心なしか、楽しそうだ。

「良く働き、良く稼ぎ、良く遊ぶ。」
オレは、公爵と文官と三人で、廊下を歩く。

「公爵、オレは、来たばかりだから、まず、この建物の周辺から活動範囲を広げていきたい。
今から、建物の外を二人で歩き回るぞ。
デスクワークの後は、運動をすると、肩こり解消になるんだ。」

「肩こり?」
公爵に不思議そうな顔をされた。

公爵は、肩こりに悩まされないのか。

「肩こり解消じゃなくても、日常的に、軽い運動をすると、健康にいい。公爵は、ずっと仕事が詰まっていたんだから、少しずつ、体を動かすのに慣れるところから始めたらいいんじゃないか?
オレも体を動かしたかったし。」

「一緒に。」
と公爵。

「一緒にしよう。二人で軽く準備体操してから、行こうか。」

オレと公爵は、オレが教えながら、ラジオ体操とアキレス腱伸ばしをした。

ラジオ体操に、生まれて初めて、というくらい、真剣に取り組んだぞ。

体育の授業なんて、比べようがないくらいに、真面目に取り組んだ。


公爵を床に座らせようとしたら、使用人が、とんできて、床に絨毯を敷いた。

ヨガマットを敷いているみたいな感じになったけど、ヨガは知らないから、絨毯の上で、柔軟とストレッチもした。

足を伸ばして座る公爵の背中をオレが押した後は、オレの背中を公爵に押してもらったり。

気づけば、運動公園で、トラックを何周もするアスリート並みに、準備運動をしていた。

公爵と、公爵の伴侶相手に、
『出発時間もありますし、そろそろ、切り上げてもいいんじゃないですか?』
と止める人は、いなかったのだ。

明日は、時間を教えてもらうように頼んでおこう。

「今日は、手始めに散策するぞ。」

オレが誘うと、公爵はニコニコとオレの隣に並ぶ。

オレ達は、建物を出て歩き出した。

すると。

「「あ、若様。」」

「「若様だよー。」」

「「若様がお見えだ。」」

「「若様、どこ行くの?」」

一歩踏み出す事に、声がかかる。

公爵は、若様と呼ばれて、領民に親しまれているようだ。

公爵の雰囲気が、王都にいた時より、柔らかい。

公爵は、領地と領民が好きなんだな、と一目瞭然。

行き先を聞かれた公爵は、うーんと考えている。

オレの要望を出しておこう。
「歩いて、夕ご飯までに帰ってこれる距離がいい。腹を空かせながら、走って帰りたくない。」

「そうだな。」
と頷く公爵。

「ファミリー初心者向けの行き先で、夕飯までに徒歩で帰れるオススメはないか、街の人に聞いてみてくれ、若様。」

オレが、公爵をツンツンとつつきながら頼むと、公爵は、驚いた顔をした後、笑った。

確かに、笑ったんだ。

はにかむように。

オレは、公爵の笑顔を初めて見た。

オレは、公爵と出会った日から、公爵の笑顔を見たことがなかった。

公爵とオレは、夫婦といえど、接点がなかった。

互いに気づかないことは、今もある。

でも。
公爵の笑顔を見たことがない、なんて。

どうして、今まで、気づかなかったのか。

そのことに、オレはショックを受けた。

公爵?
ひょっとて、笑えなかったのか?

仕事に忙殺されて?

魔王を討伐した英雄と崇められている24歳が?

働きすぎだ。

過重労働じゃないか!

衝撃を受けたオレは、公爵領にいる間は、公爵に家族孝行をしてやることにした。

その日、五人くらいの領民が、近場の花畑へ、オレと公爵を案内してくれることになった。

気遣いのできる文官が、オレ用に、ガイドを一人、つけてくれた。

ありがとう。

お花畑への道。

公爵は、ずっと領民に話しかけられて、楽しそうにしている。

オレと公爵は、隣り合わせで歩いているが、オレ達の間に会話はない。

オレは、公爵が、領民に囲まれて、寛いだ表情を出し始めたのを見て、散策の成功を確信した。

オレのガイドが、公爵と反対側で、行き先の解説をしてくれる。

お花畑は、近隣の領民が、植えたい花を好きなだけ植えていく場所だという。

フリーダムだなー。

お花畑には、多種多様な花が咲き乱れていた。

「見ていて、楽しい花畑だなー。」

ガイドは、誇らしそうにしている。

ガイドによると。

『まとまりや美観は気にしないで、植えたいものを植えて、花畑を楽しもう。』
と先代公爵夫人、公爵の母親が始めたそうだ。

先代公爵夫人は、美的センスが壊滅的だったらしい。

美的センスが、なくても、美しいものに携わりたい、と考えた先代公爵夫人は、美しいと感じる花を手当たり次第に植えていき、花畑を作ってみた。

先代公爵夫人の花畑は、格式を取っ払っているため、いつしか、領民に親しみやすい場所となり、領民の憩いの場へと発展した。

先代公爵夫人が、魔王により消失した後は、領民が、先代公爵夫人の遺志を守って、花畑に花を植え、憩いの場を維持してきた。

いいなあ。

「この景色と、文化を守りたいなあ。」
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