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283.群れて主張する者は、弱者ではない。どこにも所属できず、誰からも声がかからない北白川サナ。

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北白川サナは、泣きも怒りもしない。

「他の被害者を確認に行くとき、私が無傷で帰ってこられたことはなかった、です。」
と北白川サナ。

画面の中で炎上している北白川サナを見ている人がいる。

炎上する北白川サナを不特定多数へ見せるという己の目的のために、北白川サナを狙う人もいる。

見る人と見せたい人の連動がループして、北白川サナの炎上は止まなかったのか。

「ある被害者の確認にいった帰り道、私が襲われるのを見ていても助けなかった学生がいた、です。

私は、その学生を探して追いかけたら、まだ近くにいた、です。

その学生が私に言った、です。」
と北白川サナ。

「何と?」

北白川サナが、今俺に話すくらいだから、件の学生は、ろくなことを言わなかったのだろう。

「『サナに被害が集中していれば、他の人は、無事でいられるからそのままで』、です。」
と北白川サナ。

俺は、北白川サナの言われた台詞に引っかかりを覚えた。

俺は知っている気がする。

その言い回しをしそうな学生は、誰か。

「その学生は、北白川サナを助けなかった理由を、北白川サナに正直に話したのか?」

タケハヤプロジェクトの学生とは、思えないバカ正直さを発揮する不自然さに、俺は首を傾げた。

北白川サナを利用し続けたいと考えていたら、そのような言い回しにはならない。

その学生は、北白川サナの機嫌を直すための誤魔化しをしないで、露悪的な台詞をわざわざ選んでいる。

言動が一致していないにも程がある。

「私が犠牲になる方が、他の人が犠牲になるよりマシ、と言ってきた、です。

私は、既に手遅れだから、と言うのです。」
と北白川サナ。

「北白川サナの状況は、助けるのに手遅れなどという事態だったか?」

「最初は違ったはず、です。」
と北白川サナ。

「タケハヤプロジェクトの学生が、北白川サナだけを助け合わないでいたら、北白川サナの状況だけが格段に悪くなった、ということか。」

「私は救いようがないところまでさらされているから、皆で協力して私を救おうとすることには意味がない、と言うのです。」
と北白川サナ。

俺は、北白川サナがラキちゃんをじっと見ていたことの繋がりを、まだ分かっていなかった。

「私の苦しみを、痛みを、恐怖を、何一つ体験していない分際で、私に言ったです。」
と北白川サナ。

苦しみ、痛み、恐怖を体験していたラキちゃんから目を離さなった北白川サナ。

ラキちゃんのための助けを呼ばず、ただ見ていた北白川サナ。

俺は、ただ見ているだけで何もしない北白川サナを発見したときから、北白川サナに腹が立っていた。

どうして、ラキちゃんなのか、と。

どうして、北白川サナは、何ともないのか、と。

北白川サナは、今、ラキちゃんと同じ目にあった経験を俺に伝えてきた。

北白川サナは、なぜ、俺に伝えたのか?

俺は、北白川サナの行動の理由が分かった。

北白川サナは、恐怖から動かなかったのか?

恐怖もあっただろうが、主な理由は、違う。

北白川サナは、ラキちゃんを助けるために何もできなかったのか?

違う。

北白川サナは、ラキちゃんの助けになるようなことをしないために、何もしないことを選んでいる。

理由は、北白川サナが、同じ経験をしたときに、仲間だと思っていたタケハヤプロジェクトの学生から同じことをされたから、か。

北白川サナのしたことは、単純明快。

弱すぎて群れることができない北白川サナは。

警察に良い感情を持たない男二人をラキちゃんに押し付けた。

ラキちゃんを犠牲にして、生き残りをはかるため、か?

団結して、主張したり戦う者は、弱者ではない。

正義が勝たないデスゲームに参加しているラキちゃんは、正義が勝たないデスゲームに参加する前も、参加してからも、弱者ではなかった。

北白川サナは?

正義が勝たないデスゲームに参加する前の北白川サナは、己の才能に期待し、希望を胸に抱いて参加した学生の集まりから、弾き出されている。

どこにも所属できず。

誰からも声がかからない北白川サナ。

誰からも選ばれない北白川サナは、サバイバルゲームの参加者の中で、一番の弱者だ。

北白川サナは、弱者でいることを拒んだ。

男二人とラキちゃんと北白川サナの四人だったとき。

北白川サナは、弱者ではなくなっていた。

しかし。

今は形勢が逆転している。

ラキちゃんを心配する俺。

ラキちゃんを気遣うメグたん。

メグたんに歩調を合わせるツカサ。

北白川サナに対して、フラットな感情しかないキノ。

今このときも何かを考えているカガネ。

ラキちゃんの味方は来たが、北白川サナの味方は一人もいない。

北白川サナは、弱者に戻った。

北白川サナは、自身の行動により、以前よりもさらに弱くなっている。

ラキちゃんに心を寄せている人は、北白川サナを受け付けなくなった。

北白川サナが何もなく、ラキちゃんだけが襲われた背景は、ラキちゃんが刑事だったから、だけでは説明がつかないからだ。

「傷ついた私が、娯楽として消費されることも。

消えることがないようにと、私の姿が記録されて、世界中のあちこちに残されていくことも。

私が傷つき、弱っていくことは良くて、私以外が傷付き弱っていくことは、許せない、と、いうのが、タケハヤプロジェクトの学生の言い分だった、です。」
と北白川サナ。

北白川サナの行動は、タケハヤプロジェクトの学生の振る舞いに影響を受けている。

だからといって、北白川サナに同情する気持ちは生まれない。

北白川サナが同情される境遇にいたことは、北白川サナのしたことを肯定する理由にならない。

俺の中で、ラキちゃんに対する気持ちは大きいが、北白川サナへの関心は、薄い。

ああ、そうか、だから、北白川サナは、こういう行動をしたのか、と行動理由に納得する程度の関心だ。

俺は、北白川サナには感情を揺さぶられない。

俺は、北白川サナの話を注意深く聞いていた。

北白川サナは、俺の反応の無さをどうとらえたか?

正義が勝たないデスゲームに参加した俺を助けようと近づいてきた北白川サナ。

正義が勝たないデスゲーム運営からの指示内容を話さない北白川サナ。

北白川サナの本心は、まだ隠されたままだ。

北白川サナの長すぎる前髪が、目元を覆い隠して双眸を見えなくしているように。

北白川サナは、本心を出していない。

俺は、北白川サナに露悪的に振る舞った学生が何者かの見当をつけている。

一人だけ、心当たりがある。

その一人は、正義が勝たないデスゲームの中にいる。
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