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136.『絶望の先にある景色を最後まで見てきてほしい。』佐竹ハヤトがモエカに遺した言葉。モエカは、隠れなくなった、前に出るようになった。
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佐竹ハヤトが、デスゲームの舞台になっているこの建物の中に入って、消息を絶つ前まで、俺に断続的に入れていた連絡。
『元気か?』
三文字の定型句は、佐竹ハヤトから俺への生存確認だったのか。
佐竹ハヤトにまつわることで、俺が危ない目にあっていないかどうか。
個人情報を書いた文面で俺に連絡したら、俺が佐竹ハヤトと親しい間柄だと特定される。
だから。
聞きたいことだけを書いたメッセージを送ってきたのか。
同じ三文字のメッセージを送るなら、助けろ、と送っても良かったのに。
俺の友達は。
助けろ、とは最後まで送ってこなかった。
助けろ、とは送って来なかった佐竹ハヤトは、佐竹ハヤトが死んだ後のデスゲームを、俺が見るようにしたたのか。
俺に、モエカを見つけて欲しかったのか?
モエカを見守ってほしい?
そんな陳腐な願いで、友達の俺をデスゲームに引きずり込むような男ではない。
佐竹ハヤトが、自身の命と将来に代えて、生かしたかった全てが、ここにある。
友達が佐竹ハヤトしかいない俺に、佐竹ハヤトが託した、か。
佐竹ハヤトの狙いを真剣に考えるのは、デスゲームを脱出してから。
「佐竹くんは、私が何かされる前に、窓辺に行きたいと話したの。
『試してみたいことがある。』
佐竹くんは、私を呼んで、手伝ってほしいと言ったの。
あの死んだ男は、私のことは人質だと、佐竹くんに言ったの。
『人質が痛い目にあうのをみたくなかったら、俺に逆らうな。』
とあの男は、笑っていた。
『俺が、今まさに逆らっている相手なら、この世界に一人いるが、見えていないのだろう?』
と佐竹くんは、歪んだ唇で話していた。」
とモエカ。
「佐竹ハヤトが、今まさに、逆らっていると言える人?」
俺は、一瞬だけ考えた。
「佐竹ハヤト本人か。
死にたくない、という佐竹ハヤトの心の叫びを、佐竹ハヤトは、理性で押さえつけたのか。」
佐竹ハヤトが死ぬ以外の道が開かれていれば良かったのに。
「佐竹くんが、窓辺に行きたいと言ったとき、少しして、部屋の出入り口が開いたの。
私達は、私と佐竹くん以外は、出入り口に殺到した。
佐竹くんと私の周りには誰もいなかった。
そのときに、佐竹くんは、私に言った。
『俺達が言葉を交わせるのはこれが最後になるから、最後まで聞いてほしい。』
私は、多分、佐竹くんの声を聞くのは、今日が最後だろうと思っていたから、佐竹くんの話しを聞くことに徹したの。」
とモエカ。
想い合っていた二人は、死に別れる前に、二人だけで言葉を交わしたのか。
「佐竹くんは、私に『絶望の先にある景色を最後まで見てきてほしい』と言ったの。」
とモエカ。
「絶望の先にある景色、か。今のことか?」
言いえて妙か。
「『俺は、タケハヤプロジェクトを絶望で終わらせない。』
佐竹くんは、私に約束してくれた。」
とモエカ。
「佐竹ハヤトは、嘘をつかない。ついた嘘は、真実にしてくる男だ。」
「私は、佐竹くんを信頼していた。
佐竹くんが口に出した言葉を信用していた。
佐竹くんも、私を信用していた。
私は、佐竹くんが、私を信用していることを知っていた。
私と佐竹くんには、私と佐竹くんの間にだけ、流れる時間があった。
私達は、お互いに、信用することができたの。」
とモエカ。
モエカは、愛している人に愛されていることを知っていた。
モエカと佐竹ハヤトの間の繋がりは、モエカが切るまで、なくならない。
モエカは、まだ、佐竹ハヤトとの繋がりを切っていない。
心の繋がりを。
俺が、大学時代に好きになったモエカは、心が強くて、眩しくて、大学時代と何も変わっていなかった。
俺の友達の佐竹ハヤトが好きなモエカは、佐竹ハヤトと両思いでも、お互いのために付き合わない選択をして、胸に想いを秘めたまま大学生活を終えた。
俺が好きな女が、輝いていたのは、好きな男と両思いだと知っていたから、か。
俺が気を取られたモエカの綺麗さを引き出していたのは、最初から最後まで、俺の友達だった。
「『残念だが、俺は最後まで、見届けることができない。
モエカに、最後まで見届けることを頼んでいいか?』
佐竹くんの最初で最後のお願いを、私は叶えることにしたの。
私が、佐竹くんにできることが他にもあれば良かったけれど。
私には、佐竹くんを生かせる力も知恵もなかったから。
私は、佐竹くんに手を貸して、佐竹くんを窓辺に連れて行ったの。
廊下の窓が、一つ、全開になっていた。
佐竹くんは、自分のスマホを取り出した。
死んだ男は、スマホを見ている佐竹くんに
『窓を開けて試してみたが、何も変わりはしなかった。天才も落ちぶれた。』と満身創痍の佐竹くんを見て笑った。」
とモエカ。
「私は佐竹くんを支えて、窓辺に立ったの。
あの日の窓から見える夕焼けが、私と佐竹くんが揃って見た最後の景色。
『佐竹くん。お願いします。』
私は、スマホを手に持った佐竹くんが窓から身を乗り出したときに、佐竹くんに協力してもらって、佐竹くんの足を持ち上げ、佐竹くんの体を窓から押し出した。
『モエカ、元気で。』
佐竹くんの全身は、窓から外へ出た。
建物の外には、何もない。
夕焼け空と、はるか下の地面。
死んだ男は、私に『まだ殺すな。そいつに話をさせないと!』と叫んだの。
私は、笑ってやった。
『もう遅い。』
佐竹くんは、建物の外に出た瞬間、スマホに向かってこう言った。
『タケハヤプロジェクトは終わり、正義が勝たないデスゲームが始まる。』」
とモエカ。
『元気か?』
三文字の定型句は、佐竹ハヤトから俺への生存確認だったのか。
佐竹ハヤトにまつわることで、俺が危ない目にあっていないかどうか。
個人情報を書いた文面で俺に連絡したら、俺が佐竹ハヤトと親しい間柄だと特定される。
だから。
聞きたいことだけを書いたメッセージを送ってきたのか。
同じ三文字のメッセージを送るなら、助けろ、と送っても良かったのに。
俺の友達は。
助けろ、とは最後まで送ってこなかった。
助けろ、とは送って来なかった佐竹ハヤトは、佐竹ハヤトが死んだ後のデスゲームを、俺が見るようにしたたのか。
俺に、モエカを見つけて欲しかったのか?
モエカを見守ってほしい?
そんな陳腐な願いで、友達の俺をデスゲームに引きずり込むような男ではない。
佐竹ハヤトが、自身の命と将来に代えて、生かしたかった全てが、ここにある。
友達が佐竹ハヤトしかいない俺に、佐竹ハヤトが託した、か。
佐竹ハヤトの狙いを真剣に考えるのは、デスゲームを脱出してから。
「佐竹くんは、私が何かされる前に、窓辺に行きたいと話したの。
『試してみたいことがある。』
佐竹くんは、私を呼んで、手伝ってほしいと言ったの。
あの死んだ男は、私のことは人質だと、佐竹くんに言ったの。
『人質が痛い目にあうのをみたくなかったら、俺に逆らうな。』
とあの男は、笑っていた。
『俺が、今まさに逆らっている相手なら、この世界に一人いるが、見えていないのだろう?』
と佐竹くんは、歪んだ唇で話していた。」
とモエカ。
「佐竹ハヤトが、今まさに、逆らっていると言える人?」
俺は、一瞬だけ考えた。
「佐竹ハヤト本人か。
死にたくない、という佐竹ハヤトの心の叫びを、佐竹ハヤトは、理性で押さえつけたのか。」
佐竹ハヤトが死ぬ以外の道が開かれていれば良かったのに。
「佐竹くんが、窓辺に行きたいと言ったとき、少しして、部屋の出入り口が開いたの。
私達は、私と佐竹くん以外は、出入り口に殺到した。
佐竹くんと私の周りには誰もいなかった。
そのときに、佐竹くんは、私に言った。
『俺達が言葉を交わせるのはこれが最後になるから、最後まで聞いてほしい。』
私は、多分、佐竹くんの声を聞くのは、今日が最後だろうと思っていたから、佐竹くんの話しを聞くことに徹したの。」
とモエカ。
想い合っていた二人は、死に別れる前に、二人だけで言葉を交わしたのか。
「佐竹くんは、私に『絶望の先にある景色を最後まで見てきてほしい』と言ったの。」
とモエカ。
「絶望の先にある景色、か。今のことか?」
言いえて妙か。
「『俺は、タケハヤプロジェクトを絶望で終わらせない。』
佐竹くんは、私に約束してくれた。」
とモエカ。
「佐竹ハヤトは、嘘をつかない。ついた嘘は、真実にしてくる男だ。」
「私は、佐竹くんを信頼していた。
佐竹くんが口に出した言葉を信用していた。
佐竹くんも、私を信用していた。
私は、佐竹くんが、私を信用していることを知っていた。
私と佐竹くんには、私と佐竹くんの間にだけ、流れる時間があった。
私達は、お互いに、信用することができたの。」
とモエカ。
モエカは、愛している人に愛されていることを知っていた。
モエカと佐竹ハヤトの間の繋がりは、モエカが切るまで、なくならない。
モエカは、まだ、佐竹ハヤトとの繋がりを切っていない。
心の繋がりを。
俺が、大学時代に好きになったモエカは、心が強くて、眩しくて、大学時代と何も変わっていなかった。
俺の友達の佐竹ハヤトが好きなモエカは、佐竹ハヤトと両思いでも、お互いのために付き合わない選択をして、胸に想いを秘めたまま大学生活を終えた。
俺が好きな女が、輝いていたのは、好きな男と両思いだと知っていたから、か。
俺が気を取られたモエカの綺麗さを引き出していたのは、最初から最後まで、俺の友達だった。
「『残念だが、俺は最後まで、見届けることができない。
モエカに、最後まで見届けることを頼んでいいか?』
佐竹くんの最初で最後のお願いを、私は叶えることにしたの。
私が、佐竹くんにできることが他にもあれば良かったけれど。
私には、佐竹くんを生かせる力も知恵もなかったから。
私は、佐竹くんに手を貸して、佐竹くんを窓辺に連れて行ったの。
廊下の窓が、一つ、全開になっていた。
佐竹くんは、自分のスマホを取り出した。
死んだ男は、スマホを見ている佐竹くんに
『窓を開けて試してみたが、何も変わりはしなかった。天才も落ちぶれた。』と満身創痍の佐竹くんを見て笑った。」
とモエカ。
「私は佐竹くんを支えて、窓辺に立ったの。
あの日の窓から見える夕焼けが、私と佐竹くんが揃って見た最後の景色。
『佐竹くん。お願いします。』
私は、スマホを手に持った佐竹くんが窓から身を乗り出したときに、佐竹くんに協力してもらって、佐竹くんの足を持ち上げ、佐竹くんの体を窓から押し出した。
『モエカ、元気で。』
佐竹くんの全身は、窓から外へ出た。
建物の外には、何もない。
夕焼け空と、はるか下の地面。
死んだ男は、私に『まだ殺すな。そいつに話をさせないと!』と叫んだの。
私は、笑ってやった。
『もう遅い。』
佐竹くんは、建物の外に出た瞬間、スマホに向かってこう言った。
『タケハヤプロジェクトは終わり、正義が勝たないデスゲームが始まる。』」
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