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66.吊るし上げの舞台の完成。

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苦情を言うようにと加地さんに勧めた男は、加地さんへの追い込みにかかっている。

「加地さん。教えてくれ。会社のやつには、いつ、どうやって会うことになっているんだ。

会うことを早められないのか?

早めることはできるだろう?

できなくても、できるように動いてくれ。

加地さんが動くなら、ここにいる全員が一丸となって、会うことを早めるように協力する。」
と苦情を入れるようにと加地さんに勧めた男。

「そんな勝手なことをいわれても。できないものは、できない。」
加地さんは、ひたすら、男の要求を拒否することしかできない。

デスゲーム運営に会えていない事実も、会えないから不法侵入した事情も知っているくせに、と男を責めることは、知っていて、無責任な発言をした、として、加地さん自身の首を絞めることになる。

「なあ、加地さん。

始まったときは、すぐに終わると思っていた。

ただの蚊だ。血を吸ったらいなくなる、と。

蚊が湧き出してから、どれくらい経つ?

十分か?

もう、十分は過ぎたな。

蚊は、まだ湧き続けている。

正直、今の状況がいつ終わるか分からない。

終わりが見えない苦痛には耐えられないんだ。」
と苦情を入れるようにと加地さんに勧めた男性は、言葉を尽くして、加地さんを説得している。

説得する言葉を使っているが、説得している相手は加地さんではない。

加地さんと加地さん以外の差異を強調して、周囲に知らしめている。

加地さんと、加地さん以外の違いを際立たせるのは、なんのためか?

加地さんが、決して頷けないと承知の上で、加地さんに頷かせようと言葉を重ねる目的は何か。

加地さんは、追い詰められていく自覚があるのだろう。

伝家の宝刀を抜いた。

「私は、協定で、一番最初に交渉をする権利を認められている。
私より先に話を持ちかけるのは、容認できない。」
加地さんは、顔を引き締める。

「加地さんが、一番最初に交渉だなんだと主張するのは、もう、さすがに無理がある。」

苦情を言うようにと加地さんに勧めた男は、一回、言葉を切った。

「苦情を言う、苦情を言う、と耳馴染みの良い言葉を話すだけで、煮えきらない加地さんでは。」

加地さんと男性の間に緊張感が高まった。

加地さんの周りの男達は、顔や手を掻きむしりながら、加地さんの周りを固める。

加地さんは、加地さんの身内枠に囲まれて、男性との距離が物理的に開いた。

「加地さんは、今、ご自身がどんな風に見られているか、理解されていないようだ。」
と苦情を言うようにと加地さんに勧めた男性。

男の発言の後、加地さんの周囲のパワーバランスは、加地さんから、男へと完全にシフトした。

「どうして、加地さんには蚊が寄ってこないのか、我々に分かるように説明してもらいたい。

加地さんだけが、蚊に刺されていない状況で、加地さんは、我々に我慢をしろとしか言わなかった理由も。」
と苦情を言うようにと加地さんに勧めた男性。

前半部分は、蚊にさされない人に対する質問としては妥当だ。

加地さんに対してだけではなく、他の蚊にさされていない人に対しても尋ねていれば。

後半の部分が、加地さんを吊るし上げるための仕上げ。

痒みへの苛立ちと、改善しない状況への高まる不満を加地さんに背負わせることに成功。

吊るし上げの舞台は、完成した。

後は、好き勝手な烏合の衆が吊るし上げを実行する

「加地さんだけズルい。加地さんも刺されたらいいんだよ。
痒みが止まらないし、次から次から刺されて、追いつかない。」

一人の発言を皮切りにして。

「加地さん一人だけが無事なんておかしい、謝れ。」

加地さん一人だけが、無事ではない。

加地さん以外にも無事な人はいる。

「私だけじゃない。」
と加地さんは言い返す。

謝れ、と言った男が引っ込むと。

「加地さんは、刺されない方法を私達に知らせなかった。
口先だけのドケチめ。
私達が痒みに苦しんでいるのを見て、何を考えていたか白状しろ。」

加地さんを囲んでいる女の一人が騒ぎ立てる。

「加地さんは、蚊に刺されていないから、我慢、我慢と人に言えるのよ。
痒くて気が狂いそうなのに。
掻いても掻いても、掻きたらないんだから、血だらけよ。
傷跡になったら、どうしてくれるの!」

「どうでもいい。蚊にさされない秘訣をさっさと教えろ。」

蚊にたかられている人はもちろん、蚊にたかられいない人も、苦情を言うようにと加地さんに勧めた男性に同調した。

「前から思っていたけど。加地さんて、威勢の良い言葉を言う以外に、何かしてきたことある?」

「本人、うるさいだけで、何も。」

俺が、何かで名を成したのかと加地さんに質問したときに、反応が悪かった理由が今判明。

「周りがおだて過ぎて、文句を言うと、勘違い勢が悪者扱いしてくるから、加地さんには触りたくない。」

「加地さんの特技は、揉み消ししてもらうことだから。」

「揉み消しも、自力でしないんだ?」

「本当に、皆様のおかげ、という名の、寄生で生きてきたよね。」

「この会社に潜入するときだって、ジャーナリズムがどうとか言っていたけれど、誰のためのジャーナリズムか丸わかり。」

ジャーナリズム?

趣味の動画しか見ない俺が、加地さんを知らなかったのは当然か。

加地さんは、暴露系か、私人逮捕系か、潜入ルポ系の畑の人だったのか?

加地さんの活動には、資金提供者がいたということか。

「他人の秘密を暴きたいからって。
役に立つ人を何人も連れてきて、疲れるところは別の他人にやらせておいて。

労力のいらない楽なお喋りだけで、デカい顔されてもね。」

資金提供だけでなく、人材も提供されていたのか。

元々、腹に溜め込んできたものを吐き出す場となって、加地さんへのヘイトは、順調だ。

吊るし上げが始まった。

俺の隣にいる目元を隠している女は、この事態を目指したのか?

ただの吊るし上げなら、ここでやいのやいのやって終わりだ。

デスゲームというからには、まだ先がある。
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