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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

573.キャスリーヌの魔法の真髄。商売人としての熱い魂と、創世の十傑の左右としての冷静さを併せ持つキャスリーヌに死角はない。

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布人間レーイーエール・サバンナパークの意識は、混濁しかけては、元に戻ることを繰り返している。

ケトケト、ケトケト。
ケトケト、うるさい、眠たいのに。

布人間レーイーエール・サバンナパークは、眠くてたまらない。

まぶたが落ちそう。

ケトケトと鳴く鳥の声に眠気をかき乱されて、眠れない。

眠れない?

どうして、眠れない?

ケトケトと鳴く鳥の声がうるさいから?

どうして、鳥の声がうるさいんだったっけ?

ケトケトと鳴く鳥の声は、いつから聞こえていたのか?

急激に意識が覚醒していく。

布人間レーイーエール・サバンナパークの目の前にいるのは、一人の少女。

ガランの娘と似たような茶色の髪と瞳の少女は、何食わぬ顔でレーイーエール・サバンナパークを見つめている。

ステップを踏み続ける布人間レーイーエール・サバンナパークの足。

状況は、何も変わっていない、と布人間レーイーエール・サバンナパークは思う。

何をしようとしていたのかを思い出す。

そうだ、ジュゴンはどこだ?

ジュゴンに攻撃をさせようとしていたんだった。

ジュゴンに。

ふうっと眠気が襲ってくる。

眠たい、眠たい。

寝たい、寝たい。

布人間レーイーエール・サバンナパークの本能は、入眠を促す。

ダメだ、今は寝るときではない。

寝てはならない。

今は、まだ、戦わなくては。

戦う?ケトケト、ケトケト。

何と?ケトケト、ケトケト。

思考は、眠気で混乱し、まとまらない。

勝たなくては。

誰に?ケトケト、ケトケト。

誰にって、それは。ケトケト、ケトケト。

誰にだっけ?ケトケト、ケトケト。

思い出せない?ケトケト、ケトケト。

そんな馬鹿な。今、思い出してみる。

どうやって?ケトケト、ケトケト。

何が?

どうやって、思い出す?ケトケト、ケトケト。

今、どこで、何をしていたんだっけ?ケトケト、ケトケト。

何を、何を?

眠気が、布人間レーイーエール・サバンナパークの思考を遮断していく。

眠くて、眠くて。

寝たいのに、眠れない。

眠れないのは、踊らなくてはいけないから。

踊らないといけない。

踊り続けないといけない。 

どうしてだっけ?ケトケト、ケトケト。

どうして、踊り続けないと行けないんだっけ?ケトケト、ケトケト。

踊りを止められないのは、踊る魔法をかけられたせい。

魔法が踊るのを止めさせないから。

魔法がとけない?ケトケト、ケトケト。

踊る魔法は、いつになったら、とける?ケトケト、ケトケト。

布人間レーイーエール・サバンナパークの頭は、眠気に誘われて、がくっがくっと揺れる。

眠気に誘われて、眠ってしまいたい。

ステップを踏む足は、布人間レーイーエール・サバンナパークを眠らせまいと、勝手にどんどん激しいステップに変えていく。

ケトケト、ケトケト。

強制的に眠気を引き起こしながら、眠らせない、キャスリーヌの魔法は、一つの拷問。

キャスリーヌの魔法にかかった布人間レーイーエール・サバンナパークは、自身が拷問されているという自覚がないままに、追い詰められていく。

創世の十傑ガラン家の左右の一つ、ベイモン家。

商売で大きくなっただけの家ではない。

古くから、様々な戦いを生き抜いてきたベイモン家の当主の娘、キャスリーヌ。

商売人としての熱い魂と、ガラン家の左右としての冷静さを兼ね備えた少女に死角はない。
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