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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

466.シグル・ドレマンと被験者と研究者の青年。研究者の青年は、憔悴しきっている。『グロかった。』

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魔導具の光を目印にして、キャスリーヌと研究者と、もう一人が現れた。

「シグル・ドレマン。診察。」
とマーゴット。

研究者と被験者は、一緒にシグル・ドレマンの前へ。

シグル・ドレマンは、魔法は使わずに目と手を使って診察している。

体の衰弱はあるが、被験者本人の精神は、正常、とシグル・ドレマンは、診断を下した。

療養が終われば、社会復帰が可能、というのが、シグル・ドレマンの見立て。

シグル・ドレマンは、ネッド・チリル教授とマロン・ニャスター教授の体を見た後に、生き残りの被験者の体を見て、何かがつかめそうな気がしていた。

魔力の量?
魔力の使い方?

被験者よりも、研究者の青年の方がげっそりしている。

シグル・ドレマンは、研究者の青年に、話したいことを話すように、と伝えた。

「グロかった。」
と研究者の青年は呟いた。

グロ?

被験者は、1人助かった。

助からなかった方が、グロかった?

研究者の青年は、思い出し怖いを語り始めた。

魚憑きから、魚が落ちて、人の魂が戻る瞬間が、グロかった、と研究者の青年は繰り返した。

研究者の青年に、詳細を話す気力はなく。

シグル・ドレマンは、被験者に状況を聞いてみることにした。

「彼が、憔悴している原因に心当たりはないか?」
とシグル・ドレマン。

被験者は、魔法で言葉を伝えてきた。

筋力の衰えから、口を動かして事情説明するよりも、魔法を使う方が、被験者にとっては楽なようだ。

「私は、生きていて、人のままでしたが、他の人は、私以外は、うまく死ねなかったのです。」
と被験者は、言葉を選びながら話す。

「人の魂が本来の体に戻る段になって、生命活動を維持できる状態じゃなかったら、即死にならないのか?」
とシグル・ドレマン。

「体はいつ死んでもおかしくない状態でしたが、魚の霊が憑いていたから、死に至ることはなかったんです。

本来の体に戻ってきた人の魂の方が耐えきれず、おかしくなった、と彼は推測していました。

憔悴しきっている彼は、状況を理解しようとして、一度に、大量の情報を精査しようとしていました。」
と被験者。

「どんな状況だ?」
とシグル・ドレマン。

「私の視界では、一部がゾンビ化したり、怨霊になったりしていました。」
と被験者。

シグル・ドレマンは、キャスリーヌ達がいた、使用人を帯同しない貴族の男子寮の上階の壁がない場所に目を向ける。

今は、何も起きていなさそうだ。

「後始末は?」
とシグル・ドレマン。

怨霊もゾンビも放置していいものではない。

「女の子が何かしていました。今は静かですね。」

キャスリーヌが何かしている、という言い回しは、ゾンビや怨霊は静かになっただけで、まだいることを示している。

次に、何かをするにしても、ソラッドロス王太子殿下とマーゴット、キャスリーヌの三者会談が終わってからだろう、シグル・ドレマンは予想する。

マーゴットやキャスリーヌが次の行動に移る前に、研究者の青年は、元気になっておいた方がいい。

研究者の青年のボス、キャスリーヌは、まだまだ動き回りそうだ。

シグル・ドレマンは、被験者と研究者を休ませるため、使用人を帯同しない貴族の男子寮から、予備のタオルやシーツ、毛布を持ってきて、即席の寝間を手早く作ってやった。

「休めるうちに、休んだ方がいい。」
とシグル・ドレマン。
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