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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

431.マーゴットは、チェール・モンスに、魚と人の呪術の結びつきを断たせたい。チェール・モンスは、マーゴットの呪術の腕前を見て閃いた。

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マーゴットは、シグル・ドレマンとチェール・モンスを呪術で浮かせて、上階を目指した。

夜中に空気の入れ替えをする習慣がある?

建物内に入ってくる風は、夜中にしては量が多い。

窓を閉める音が聞こえない。
閉め忘れ?
後から、誰かが閉めにくるなら、誰かに見つかる前に脱出しないと。

ゴウゴウと建物内に吹き込んでくる風の勢いは衰えない。
夜中に窓を開けっ放しにして、外からの侵入者の心配は?

建物の中の音より外の音の方がよく聞こえる。

マーゴットは、不思議に思いながら、階段をのぼる。

マーゴットは、階段を上っていくうちに合点がいった。

キャスリーヌが活躍した後だったようだ。

壁がなくなったお陰で、見晴らしが良くなっている。

そして。
マーゴットは、魚に取り憑かれた成人男性を複数発見した。

どの成人男性も、健康体とは言い難い。

控え目に言って、棺桶に突っ込んでいるのは、片足どころではない。

一人だけ、この前まで学生だったのか?くらいに若い男性がいる。

この辺りにいる魚憑きを全員解除すれば、徘徊教授とマロン・ニャスター教授の分の魚だけが残る。

徘徊教授は、魚を憑けられているわけではない可能性もある。

徘徊教授の徘徊は、教授の自我のなせるわざか、憑けられた魚が引き起こしているのか。

マーゴットでは、見分けがつかないだろう。

判断は、相棒のミノカサゴに頼もう。

徘徊教授とマロン・ニャスター教授は、魚に体を明け渡さずに、人として生を終わらせると、マーゴットは決めている。

マーゴットは、呪術で、くり抜かれた壁の位置まで、魚の水槽を引っ張り上げた。

魂が元に戻るなら、体が近くにあった方が、迷わなくていいだろう。

体が見つからなくて彷徨う羽目になったら、弱った肉体は保たない。

魚の水槽を宙に浮かした状態で、チェール・モンスに声をかける。
「チェール・モンス。魚と人を繋げていた呪術を解いて、人は人に、魚は魚に戻しなさい。」

チェール・モンスは、マーゴットに繭玉を強制的に解除されて、繭玉から出されたショックから立ち直る前に、マーゴットに呪術を使われて階段を運ばれたことで、呪術者としての自信がぐらついている。

チェール・モンスが必死で組み上げた呪術を難なく解除した上に、息をするように呪術を使いこなす少女が存在していたなんて。

チェール・モンスは、呪術であれば、王太子殿下の次に出来ると自信を持っていた。

チェール・モンスは、何も持たない外国の平民。
呪術の腕があれば、王太子殿下を支えられる、と信じて、研鑽を重ねてきた。

チェール・モンスの呪術の腕前なんて、この少女にかかれば、ひとひねり。

チェール・モンスは、自身が、井の中の蛙だと思い知らされた。

打ちのめされていたチェール・モンスは、絶望の中に光明を見出した。

この少女を味方にしたら、王太子殿下は、喜ぶんじゃないか?

魔法じゃなく、呪術を使いこなす少女なら、王太子殿下も安心するんじゃないか。

チェール・モンスと王太子殿下の味方が増えるなら、王太子殿下もチェール・モンスも、楽になるんじゃないだろうか。
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