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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

409.研究者の青年が、ヒイロ・ゼーゼ教授に師事するのを止めた日。

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「見逃されては、ダメなんだよ。
王立学園内でいくら騒いでも、王立学園の中で終わってしまう。
国に、問題として、取り上げられないと。
学園改革反対派が、行動に移す意味がないだろう?
私はニンデリー王国の貴族として、やらなければならなかった。
貴族として悔いはない。
どんな結末であっても、覚悟はできている。」
とヒイロ・ゼーゼ教授。

研究者の青年には、ヒイロ・ゼーゼ教授の主張は、薄っぺらに聞こえた。

大好きで尊敬する先生と会話しているのに、向き合えば向き合うほど、がっかりが募っていく。

ヒイロ・ゼーゼ教授の貴族の誇りは、指導教授の責任よりも、ヒイロ・ゼーゼ教授の中での占める割合が大きかった。

そういうことだ。

在籍者への配慮が、はじき出されてしまう程に、貴族の誇りが、重要だったのだ。

貴族の家に生まれながら、家族とうまくいかなかった研究者の青年には、理解が追いつかない。

ヒイロ・ゼーゼ教授は、研究者の青年よりも、健康そうに見えた。

教授の面子として、そう振る舞っているだけかもしれないが。

まだ話が通じるなら、話をしてしまおう、と研究者の青年は考えた。

次の機会があるかは、不明だ。

「先生の行動の結果、俺達は意味も分からず、研究室で拘束され、研究室から、王城に連行されて、取り調べを受けることになりました。

拘束されたり、連行されたときに、鞭打たれた在籍者は、傷が悪化して、この場に来ることが出来ませんでした。

先生の誇りは、先生の心を生かしたんですね。

その誇りを、指導教授として、俺達にも向けて欲しかったと思います。

俺達は、最後まで先生といました。

先生が、先生でいる時間を突然終わらせるとは、思わなかったんです。

俺達がいたら、先生はずっと先生でいてくれる、と思っていました。」
と研究者の青年。

そのとき、面会してから初めて、ヒイロ・ゼーゼ教授の感情が揺れた。

「鞭打たれた子は?」
とヒイロ・ゼーゼ教授。

ヒイロ・ゼーゼ教授は、騒動後、初めて、在籍者について質問をした。

「まだ、生きています。もし、会うのなら、先生から、早めに会いに行ってください。自分から動くのは難しそうでした。」

研究者の青年が、身柄を拘束されて以後。

研究者の青年とヒイロ・ゼーゼ教授が、直接話をしたのは、この日のこの時間だけ。

この面会から一週間後。

ヒイロ・ゼーゼ教授が、王太子に寝返ったと噂が流れた。

噂の後、保釈された在籍者は、ヒイロ・ゼーゼ教授の元に集められた。

ヒイロ・ゼーゼ教授は、王太子と並んでいた。

寝返ったという噂は、噂ではないと、居並ぶ在籍者は理解した。

ヒイロ・ゼーゼ教授の考えを推し量ることは、在籍者にはできない。

推し量れても、理解するのは困難だろう。

集められた在籍者の前に、ヒイロ・ゼーゼ教授は、二つの発表した。

一つは。
ヒイロ・ゼーゼ教授が、異世界転生者を使った研究を開始すること。

もう一つは、王太子の研究の主任研究員の募集。

研究者の青年は、迷わず、挙手して、王太子の下についた。

異世界転生者を使う研究云々が、不穏だったこともある。

騒動前と同じように、ヒイロ・ゼーゼ教授の元にいる気には、もう、なれなかった。
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