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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

395.キャスリーヌ。『人には、命の期限があるって、知っている?』

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「命を賭けたくない?命以外なら、人生を担保にする?」
とキャスリーヌ。

ふるふると首を横に振る青年。

「命も、人生も、担保にしたくない?代わりに、担保にするものがある?お金以外で。」
とキャスリーヌ。

お金以外、と聞かされて、ふるふると横に振っていた首を動かすのを止めた青年。

青年の表情は、語っていた。

金銭目当ての窃盗じゃない?
まさか、金持ちの愉快犯なのか?
と。

「勘違いしたら、ダメだよ?お金は、あればあるだけ使い道があるよ?」
とキャスリーヌ。

キャスリーヌの発言に、あ、こいつ、金持ちだ、と分かった青年の顔は青い。

青年は、金持ちに、振り回されてきた経験があるのだろうか?

気の毒に。

青年の一番近くにいるのは、この世界有数の資産家の貴族の娘、キャスリーヌ。

キャスリーヌの側にいれば、そんじょそこらの金持ち以上に、振り回してくれること請け合いである。

さぞ、充実した一生になるだろう。

「人を動かせる金額があればね。」
平然と付け加えられたキャスリーヌの一言に、青年は悲しげな顔をした。

青年の差し出せる金額では、足りない、と、青年は気づいた。

早めに、自分で気づけた青年は、賢明な判断を下すに違いない。

キャスリーヌは、にこにこしている。

「ニンデリー王立学園の使用人を帯同しない貴族の男子寮の上階を立入禁止区域にしているんだね?
一通り、見てきたよ。」
とキャスリーヌ。

青年は、キャスリーヌが、研究内容を把握したかどうか、が、気になって仕方がない。

キャスリーヌが、ただの金持ちの道楽で、荒らし回っただけなら、青年の首は繋がったままでいられる、と青年は、一縷の望みをかける。

「研究者が、私に、研究者の命も人生も、差し出さないというなら。
研究者の成果をもらっていくしかないよね?
研究の成果が全部なくなっても、研究者が残っていれば、研究は続けられる、と言ってくれる雇い主だといいね?」
とキャスリーヌ。

青年の顔は、強張っている。

どうやら、青年の雇い主は、青年に優しくないらしい。

キャスリーヌは、淡々と続ける。

「目を見開いて、口をパクパクしながら、寝ている姿は、魚そのもの。

でも、魚じゃあ、先が見えているよね?
魚で終わる?
そんなわけないよね。

今日の結末が、表沙汰になったら、研究は打ち切り。
続けるにしても、人目につく場所では出来ない。

研究者は、どんな責任をどれだけ取らされるんだろうね?

誰かの不祥事も、研究者が一緒に背負いこむんだろうね?

いなくなる人を有効活用するのが、お仕事の人もいるよね。

人には命の期限があるって、知っている?

今、研究が打ち切りになったら、困るのは誰かな?

研究者の代わりになる人は、何人いる?」
とキャスリーヌ。
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