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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

378.チェール・モンス。『魔力がないぼくといることが、王太子殿下の唯一の息抜きだったんだ。だって王太子殿下は、大人の勝手で疲れていた。』

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小綺麗な少年は、ニンデリー王国の王太子だった。

チェール・モンスは、ニンデリー王国に入ってから、どこかに投げられそうになったが、王太子殿下が掴んで離さないでいたので、王太子殿下が責任持って預かることになった。

チェール・モンスは、ニンデリー王国の王太子殿下が学園にいないときは、王太子殿下から渡された課題をして過ごした。

ニンデリー王国の王太子殿下は、ニンデリー王国にいても、楽しくなさそうだなあ、とチェール・モンスは思うようになった。
サルバルタルで、チェール・モンスと手を繋いだときみたいに、弾けた笑顔を見なくなった。

チェール・モンスといるときの王太子殿下は、気を抜いている。

チェール・モンスといないときの王太子殿下は、いつも気を張っている。

なんでだろ?

チェール・モンスは、王太子殿下と過ごすうちに、なんとなく気づいた。

チェール・モンスは、魔力がない。

だから、王太子殿下は、気が抜けるのだ。

ひょっとしたら。

王太子殿下は、魔力量が少ないのかもしれない。

魔力量が少ないことは、王太子殿下にとって、負担が大きいのかもしれない。

チェール・モンスは、考えた。
「王太子殿下、魔力がゼロのぼくが出来ることは、何かあるかな?」

王太子殿下は、呪術の存在をチェール・モンスに教えてくれた。

呪術は、ニンデリー王国では重要視されてこなかったため、教師がいない。

チェール・モンスと王太子殿下は、独学で資料を取り寄せて、一緒に学んだ。

チェール・モンスは、王太子殿下にたくさん教えてもらって、呪術が使えるようになった。

呪術を使えるようになったチェール・モンスは、実際に使ってみて、驚愕した。

試しに、王宮の中や、学園内の情報を呪術で集めた結果。

王太子殿下の生活は、王太子殿下じゃない人の思惑が左右していることをチェール・モンスは知った。


王太子殿下は、魔力量が少ないから、魔力量の多い婚約者を用意されたこと。

王太子殿下の魔力量は、ニンデリー王国の世継ぎの基準値を大幅に下回るため、貴族の一部から、好ましく思われていないこと。

それというもの、王太子殿下の異母弟の魔力が、基準値を大幅に上回るから。

異母弟は、生まれる前に、お世継ぎとならないことを定められている。

異母弟と母を同じくする異母妹も、異母弟ほどではないが、正妃の子どもよりも魔力が多い。

王太子殿下の下に、もう一人か二人、正妃との間の子どもを国王陛下がなしてくれたなら。

魔力量が、基準値の子どもが正妃との間に産まれたなら。

王太子殿下は、王太子殿下の肩書きを返上して、一介の王子になっていた。

しかし。

国王陛下は、正妃の寝所へ行くことを拒否した。

愛する側妃への裏切り行為はしない、と国王陛下は言った。

側妃への愛はあっても、正妃との間に作った子どもへの思いやりは、国王にはない。

王太子の姉は、王太子より魔力量が少し多い程度。

降嫁するには問題ないが、女王になるには、少ない。

王太子の出生は、多くの大人に待ち望まれていた。

愛情とは別の理由で、望まれていた子どもは、持ってうまれた魔力量の少なさと向き合い続けることを余儀なくされた。

生まれてから、ずっと。


チェール・モンスは、思った。

大人の勝手を全部、王太子殿下一人に背負わせるなんて。

王太子殿下一人が、疲れているのは、味方が一人もいないせいだ。

ぼくは、ぼくだけは、王太子殿下の味方になってやる。

王太子殿下が、ぼくだけの味方になってくれた日から、ぼくは生まれ変わった。

もう、ぼくは、平均寄りの平均以下じゃない。

呪術の腕を磨いて、一人前になってやる。

ぼくは、王太子殿下を助けるんだ。

チェール・モンスは、王太子殿下の絶対の味方になる、と決めた。

そして、ニンデリー王国学園に入学するタイミングで、ぼく、から、私と、一人称を変えたのだ。

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