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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

374.チェール・モンス。『私は、ニンデリー王立学園の中では、特別。私を蔑ろにする大人はいない。見咎める大人もいない。なぜなら、私には。』

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後ろからついてくる男は、チェール・モンスに話しかけてこない。

話しかけたいのかな?
話しかけるタイミングを探っているのかな?

話しかけてやるという意思のこもった視線が、チェール・モンスの後頭部に刺さる。

視線というか、思念のようなものが、後ろから送られてきているような気がする。

チェール・モンスは、段々と早足になっていった。

だって、怖いんだもん。

チェール・モンスは、ニンデリー王国のニンデリー王立学園に入ってからずっと、安全に暮らしてきた。

部外者は、入ってこない。

大人は、限られた人だけ。

どの大人も、ニンデリー王国の王太子殿下の存在がチラつくチェール・モンスを蔑ろにすることはない。

チェール・モンスのすることに、目くじらを立てる大人もいない。

ニンデリー王立学園内で、チェール・モンスは、大人達の特別だった。

チェール・モンス自身が、王太子殿下の名前を出して何かをしたことはない。

だから、気がつけば、王太子殿下の後押しを感じることに、チェール・モンスは感謝しかない。



チェール・モンスと王太子殿下との出会いは、チェール・モンスの母国サルバルタルだ。

チェール・モンスは、魔力を持たない子どもが集められる施設にいた。

魔力を持たない子どもは、0歳から15歳の前日まで、その施設内から出ることはない。

魔力がない子どもが生活して、学ぶための空間を魔法で作り上げている。

子どもが15歳になって、サルバルタルを出ても、一人で生活できるように。

子どもは、サルバルタルのことを知識として知るだけだ。

魔力がなく、魔法が使えない者は、サルバルタルでは、生きていけない。

魔力がないなら、自力で足を踏み入れることが、二度とかなわない祖国サルバルタルに縛られずに生きていく方が幸せだ、と先人は考え、その考えが踏襲されてきた。

チェール・モンスも、文字の上でしか、サルバルタルを知らないままだったら、何の疑問も持たずに、サルバルタルを立ち去り、思い出すこともなかった。

偶然の出会いが、チェール・モンスの未来を変えた。


その日。
サルバルタルに、ニンデリー王国から訪問客があった。

ニンデリー王国の王太子殿下が、お忍びで訪れたのだ。

サルバルタルは、元々、ソラニアとして、当時の魔法使いが心血注いだ技術の集大成が実現した魔法遺跡。

いつの時代も、魔法使いの関心は高い。

魔力持ちで、魔法に長けた外国の王侯貴族が、お忍びにくる先としては、メジャーな場所である。

ニンデリー王国の王太子殿下のお忍びにも、サルバルタルは、特に構えることなく対応していた。

サルバルタルは、お忍びの最後に、必ず、魔力を持てなかった子どもが暮らす施設の視察を組み込む。

サルバルタルから出ていく子ども達が、暮らせる場所を増やすためだ。

魔法生物が寄生しなかったため、魔力を持てなかった子どもも、立派な大人になるべく成長しているので、良ければ、受け入れ先になってください、という営業活動だ。


ニンデリー王国の王太子殿下も、お忍びの最後に、その施設の視察へと案内されてきた。

チェール・モンスが暮らす施設に。
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