子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒

第7章 使用人を帯同しない女子寮の秘密

264.バネッサ・オッドア伯爵令嬢。猥雑な夜の街に降り立った天女。

キャスリーヌが、ベリーベリー・イニーの母親奪還作戦を考えた後にまで、時間は遡る。

ベリーベリー・イニーが母親に会いたいと飛び込んでいった怪しげな建物。

バネッサは、1人。
その建物に入らないけれど、注目していると分かる距離をあけて、立っている。

キャスリーヌ、レベッカ・ショア、スラッルス・トークンはベリーベリー・イニーの母親奪還作戦の準備のために、離れた。

マーゴットは、奪還作戦の取りこぼしがないように、フォローするため、待機。


バネッサは人目を引く容姿をしている。

いたら、見てしまう。

見たら、
『何あれ、めちゃくちゃ美少女がいた。
この奇跡を自慢したい。』
と誰かに話したくなるくらいの美少女がバネッサだ。

金髪に鈍色の瞳の美少女。

バネッサは、オッドア伯爵令嬢という肩書きを知らなくても、その美少女っぷりが只者ではない、と思わせる何かを持っている。

そんな美少女が1人で立っている。

猥雑な夜の街。

そこだけ、スポットライトが当たったかのように。

不安げになるでもなく。

毅然と立つ美少女。

勇気ある人が、尋ねた。

「何をしているのかな？」

美少女は、ある建物から、目を離さない。

「待っているのよ。
これ以上は、言えないわ。
見守って。」

大輪の薔薇のように華やかな微笑みのバネッサ。

「喜んで。」
と犬が出来た。

何故か、椅子とテーブルが用意されて、食べ物と飲み物が、次々に乗せられていく。

「私は、毒見係が、毒見したもの以外、食べてはならないと言われているの。

お気持ちだけ、嬉しくもらうことにするわ。

皆さんで、用意されたものだから、皆さん、私の代わりに、私の前で美味しく召し上がる姿を見せてくださる？

皆さんが美味しく思う気持ちを見て、私も同じ気持ちを共有したいわ。」

バネッサの鈍色の瞳のキラキラとした輝きに魅せられて、椅子とテーブルを追加する人々。


夜の街の雑踏の中で、優雅なお茶会が開催されることになった。

バネッサは、オッドア伯爵領内で、様々な領民や、他所からくる多種多様な人種と接してきた。

人生に疲れた酔いどれもいれば、
カタギじゃなくなった人もいれば、
夜の街の住民になったばかりの人もいた。

バネッサは、その容姿から、オッドア伯爵領内で、伯爵令嬢と知らぬ者はいない。

どこに行っても、領民に敬意をはらわれてきたバネッサ。

この街は、オッドア伯爵令嬢と知らないバネッサをバネッサとして、歓待している。

それも、また新しい経験で面白い。

バネッサは、この時間を楽しむことにした。

バネッサの役割は、怪しげな建物にいる本職の人間の関心を引きつけておくこと。

建物を意識しているバネッサが、建物から見える位置にいることで、建物は注目を浴びる。

建物内の人員の何人かは、バネッサの存在を無視できないため、キャスリーヌの立てた作戦を妨害する人員を減らすことができる。

キャスリーヌの作戦が手こずりそうなら、建物の正面で、バネッサが陽動を担当することになっていた。


魔力で探ると、キャスリーヌ達は、脱出出来たが、スラッルス・トークンの魔法を感じた。

スラッルス・トークンは、まだ建物内で戦闘している。

引き際を過ったのだろうか。

冷静なスラッルス・トークンにしては珍しい。
とバネッサは思った。

スラッルス・トークンが、脱出するまで、このお茶会は続ける予定。

まだ、離席の時間ではないようだ。


その後、マーゴットの介入によりスラッルス・トークンは、脱出。

バネッサは、マーゴットの魔力と魔法により、スラッルス・トークンが脱出したことを察知。

「皆さんとお会いできて、楽しい一時でした。

今宵、皆さんと同じテーブルを囲えたことは、幸せな時間だったことを私は宣言します。」

バネッサは、立ち上がり、腕を上げて、月を指差す。

「あの月にかけて。」

「私は、これから、行くところがあります。

また、皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。
では、また。」

バネッサは、淑女の礼をすると、ふわりと宙に浮き上がった。

夜の茶会の参加者のみならず、通りすがりの人々の視線も集めるバネッサ。

人々の視線を集めきると、急上昇。

バネッサは、人々に認識出来ない高さに来ると、そのまま移動。


バネッサのいなくなった後。

バネッサは、闇夜に輝く満月のように、人々の記憶の中に残った。

「天女に会った。」
「天女を見た。」
夜の街に天女出現情報が駆け巡ることになった。



マーゴットは、魔力でスラッルス・トークンを包む。

魔法でスラッルス・トークンを宙に浮かしたまま、ベリーベリー・イニーの家に降り立つ。

家の中に誰かいる。

魔法と人の気配だ。

マーゴットは、注意深く探ると。

バネッサの気配。

マーゴットは、スラッルス・トークンを宙に浮かせたまま、ベリーベリー・イニーの家に入っていく。

「バネッサ、今、スラッルス・トークンと戻った。」
とマーゴット。