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第7章 使用人を帯同しない女子寮の秘密

262.転生貴族スラッルス・トークン。前世の魔法のない世界での戦い方と、今世の魔法がある世界の戦い方に悩む。『クソ痛いなー。』

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3人中、2人が飛び退いた。

1人もかすった程度。

そう簡単に、斬らしてはくれねーか。

「ガキが、生意気な口きいてんな。」
と懐柔役。

突風がスラッルス・トークンの体を宙に浮かし、壁に叩きつける。

壁に叩きつけられる前に、スラッルス・トークンは、体をひねる。


魔法がなー。

厄介なんだよなー。

スラッルス・トークンは、戦う時、前世の感覚で動いている。

つまり。
スラッルス・トークンの体の動きは、
魔法のない世界での動きになる。

だから。
この世界の、魔法ありの動きについていくのは、スラッルス・トークンには、骨が折れる作業だ。


下っ端は、魔法が使えないやつでも、実力でのし上がってきた幹部クラスは、魔法が使えたようだ。

どこの世界も同じだなー。
のし上がってくるやつは強い。

スラッルス・トークンは、己の見通しが甘かったことを認めざるをえない。


魔法は、使うと、痕跡を辿られる可能性が高い。

魔法を使う戦闘にならないことを期待したが。

今回、魔法を使うことは、避けられない。

避けられないなら、使い倒すしかない。


スラッルス・トークンは日本刀に魔力を注いで馴染ませる。

斬り合いはダメだ。

敵は8人。

スラッルス・トークンは1人。

多勢に無勢。

背後に回られたら、終わる。

背後をとられないように。

切り裂け!
日本刀を振り抜く。

振り抜いた日本刀から、ワンテンポ遅れて、斬撃が飛ぶ。

魔法の具体的なイメージと感覚が結びつかないと、魔法の発動がズレる。


「ガキは、まだ、ペーペーか。」
と懐柔役。

「世間の荒波に揉まれる前に、浜に打ち上げられるなよ?」
懐柔役の言葉と同時に、スラッルス・トークンの体に幾筋もの切り傷ができた。

意趣返しのつもりか。

簡単にスラッルス・トークンを殺せるのが分かった男達は、本気にならずに、手加減しながら、追い詰めていくことにしたらしい。

懐柔役は、何もしていないのに、スラッルス・トークンの体には、浅くない切り傷が増えていく。


捕まえて、吐かせる気か。


前世の感覚では、吐かない自信はある。

ただ、魔法を使われると、スラッルス・トークンに抵抗できるかどうか。


今は、ただの新米だと軽くいなされているが。

スラッルス・トークンは、魔法の使い方が鈍臭いと知られたら、魔法攻撃が止まない気がする。


前世のやり方とは、別で戦い方を構築しねーと。

勝つどころか、隙をつけるかどうか?

大口をたたきすぎた。

たたいてしまったものは、仕方ないなー。


「痛いのが、好きなガキはいない。」
と懐柔役。

懐柔役は、笑っていない瞳に笑顔を張り付かせて、スラッルス・トークンを切り刻む。

「世間知らずが、度胸試しにきたか?」

スラッルス・トークンは、結界による防御を使い慣れていない。

前世の感覚で、結界とか言われても、さっぱ分からない。

目に見えないものを理解しろ、と言われても、分からねー。

スラッルス・トークンの張る結界は、何もなくても、不安定だ。

懐柔役は、スラッルス・トークンの不安定な隙をついてくるため、切り傷が増えていくばかり。

1つ1つの傷は、深い。

動かなくても痛いが、動くとさらに痛い。

痛みに気を取られると、結界を維持できなくなる。


「どこぞの入団試験か?」

懐柔役は、笑いながら、ナイフを指で回し始めた。

ははっと笑いを止める懐柔役。

懐柔役の瞳は、昏く、感情を映さない。

「俺達を探りに来たか?」

日常会話に聞こえるくらいの音量で、聞いてくる。

「痛い思いに慣れなくてもいい方法がある。そろそろ吐いて、楽になれよ。」

スラッルス・トークンを切り刻む感覚が早くなった。

至るところが痛いが、一度切った場所を重ね切りしてくる。

スラッルス・トークンは、結界を作る集中力が保てず、結界を作ろうとして失敗している。

クソ痛い。

「ううん?」
感情のない目をして首を傾げる懐柔役。

ダメだ。
これ以上、ここにいたら、捕まって、吐かされる。

スラッルス・トークンは、全身の痛みをこらえながら、窓を目指す。

「おっと。簡単に逃げられるとナメてかかってっから、死にそうだよなー。」

スラッルス・トークンが、最初に斬り付けた3人組のうち、かすった1人が、スラッルス・トークンの襟首をつかんだ。

「窓の外が、恋しいかー。外の空気を味わわせてやるよ。」

スラッルス・トークンは、首を掴まれたまま、窓際に引きづられていく。

痛みに気が散るし、服が吸って分からないが、血も流した気がする。

頭が働かねー。

スラッルス・トークンの目は、窓枠に残るガラスの破片を映している。

ガラスの破片は、刺さるといてーなー。

避けたいが、体が動かねー。

自分自身がこんなに戦えないとは。

痛いし、情けない。

キャスリーヌの信頼に応えられないなんて。

マーゴットが、めちゃくちゃ怒りそうだ。

前世も今世も、ボスには恵まれたことには、感謝しかない。

為すすべもなく、窓枠まで引きづられてきたスラッルス・トークン。

男は、スラッルス・トークンの襟首を掴み上げた。

「斬られたら、痛かったんだぜ、おー。痛くて、今夜は眠れない。」

男は、ガハガハ笑いながら、スラッルス・トークンをガラスの破片がギザギザしている窓枠に落とす。



「遅い。」
男の手からスラッルス・トークンの体が放たれた一瞬で。

スラッルス・トークンの体は、窓の外にあった。

窓の外にいた黒い目出し帽をかぶった小柄な少女は、手に持ったスラッルス・トークンを両手で、上空にぶん投げる。

スラッルス・トークンの体は、勢いよく飛んでいった。

「はあ?」
室内から聞こえる男達の声には、我関せず。

黒い目出し帽の少女は、猛スピードで、スラッルス・トークンに、追いつき、追い越していく。
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