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第6章 可動式魔法遺跡、クークード遺跡の見学ツアーに参加しよう。
193.マーゴット・ガラン。『人の心の機微は難しい。』『ごめん。マーゴット。マーゴットの家の力じゃないとがっかりした俺に謝らせてくれ。』
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マーゴットは、1人。
歩きながら考えている。
人の心の機微は、難しい。
家族以外の人は、マーゴットの予期しない反応をする。
マーゴットにとって、何の意図もないことを、気に食わないと言い出したり、些事だと捨て置いたことを大仰に騒ぎ立てたり。
何をそんなに取り乱すことがあるのか?
マーゴットには、だいたい意味が分からない。
取り乱すほどの大事なら、先々まで考えて、手を打っておけばよいのに、なぜ、ことが起きてから騒ぐ?
何を考えて生きているんだろう?と、毎回、不思議になる。
マーゴットの家の歴史は古い。
コーハ王国が興る前から、あった。
ガラン家として、コーハ王国になる前から、今のガラン領を統治していた一族の当主の娘。
それが、マーゴット。
マーゴットの上にいる4人の兄は、それぞれが優秀でマーゴットに優しい。
一番上の兄デヒルとは15歳離れているし、すぐ上の兄フィリスとは4歳差。
次男は婿入りのため、家にはいないが、会えば可愛がってくれる。
3番目の兄ハーマルは、おっとりとした深窓のご令息な性格をしているため、トラブルで、直接、役に立ったことはないが、家族愛に溢れている。
ハーマルは、今年から、コーハ王国の外交部勤務だ。
外交部から、担当者が駆けつけてきたのも、ハーマルの頑張りがあったはず。
すぐ上の兄、フィリスは、今年から近衛勤務。
姫気質なフィリスのことは心配なので、帰省したら、兄の様子を見に行くつもりだ。
マーゴットと一番仲良く遊んできたのが、フィリス。
マーゴットとフィリスの面倒を見ているつもりで、おっとりと見過ごしているハーマル。
アドバイスをくれる、次男リドリグ。
マーゴットの資質と性格を見出し、教育した長兄デヒル。
父は外交に飛び回り、不在のことも多かったガラン家は、兄弟が、協力して、成長してきた。
マーゴットは、年上の優秀で、マーゴットに心を砕いてくれる兄達を見て育ってきた。
つまり。
マーゴットは、兄の背中を見て育ってきたようなもの。
子ども達が大きくなってから、外交の頻度が落ちついた父も、母と共に、マーゴットの育児に加わった。
キャスリーヌとは、生まれたときからの付き合いで、気心も知れている。
もう1人、1つ下の幼馴染みも、気心が知れている。
幼馴染み2人は、マーゴットの側近として、一生一緒にいる。
2人の幼馴染みとは、経済観念や倫理観、物事の本質の捉え方に隔たりがなく、意思疎通がしやすい。
家から外国に行き、外国の子どもと会うときは、子ども同士の社交だ。
マーゴットからみて、何を言っているのか、理解不能な子どもは、他の子どもにも、理解不能なことが少なくない。
しかし。
学校という空間は。
マーゴットが今まで、関わりがなかった人の集まり。
使っている言葉の意味は分かるけれど。
相手の目的や意図は伝わるけれど。
交流できる気がしない。
交流する気も起きない。
そんな学生生活が続くのかと思っていたら、なんだか、人の集まりが出来た。
今までに接したことのない種類の人達。
ニンデリー王立学園という学校に通わなければ、出会うことのなかった人達。
いつの間にか、集まっているのが当たり前になっていた。
だから。
スラッルス・トークンが、助けてほしい、と願うなら、マーゴットが助けようと思ったのだ。
意味が通じなかったけれど。
仲良くなった、と、思っても、通じて欲しいことを言葉で表すのは、難しい。
スラッルス・トークンには、考える時間を与えたから、考えを改めるかもしれない。
けれど。
1回目で、伝わらなかったのは、寂しい。
マーゴットは、スラッルス・トークンを友達の範疇に入れたいと、精一杯頑張ってみたから。
お前はお呼びじゃない、と手を振り払われたすぐ後に、並んで歩く気分にはなれなかった。
後ろから、スラッルス・トークンの足音が近づいてくる。
「マーゴット!
マーゴット!
ごめん。
聞いて。
許してくれなくていいから、謝らせてくれ。
許してくれたら、本当は、嬉しいけど。
それは後でいいから。」
マーゴットは、立ち止まる。
さっきみたいに。
追いついたスラッルス・トークンは、マーゴットの顔を見てから頭を下げた。
「ごめん。マーゴット。
マーゴットは、自分の望みを叶えたいと思ったときも、家のことなんて、話さなかった。
マーゴットは、自分自身が、味方になる、とメッセージを送ってくれたのに。
俺は、マーゴットの家の力ばっかり気にして、勝手に期待して、がっかりして、マーゴットの誠意に見向きせず、マーゴットの覚悟を台無しにした。
本当にごめん。」
スラッルス・トークンは、頭を上げた。
「俺は、マーゴットが1人で、俺に背を向けて歩いていく姿を見て、自分の馬鹿さに気づいた。
マーゴットは、俺のことを信頼してくれていた。
マーゴットは、家の利害と自分自身を切り離して、俺自身を見てくれていたと、さっき分かった。
遅くなって、ごめん。」
スラッルス・トークンは、自身を見上げるマーゴットの瞳を見つめた。
マーゴットの瞳は、いつもみたいに迷いのない強さだけではない。
微かな期待と不安と諦めが覗いている。
こんな誠実な少女を傷つけた俺は、本当に馬鹿野郎だ、とスラッルス・トークンは、自身を蹴りたくなった。
「俺は、マーゴットに助けてほしい。
生き延びた報酬は、マーゴットの希望を叶える。
この条件で、お願いします。」
歩きながら考えている。
人の心の機微は、難しい。
家族以外の人は、マーゴットの予期しない反応をする。
マーゴットにとって、何の意図もないことを、気に食わないと言い出したり、些事だと捨て置いたことを大仰に騒ぎ立てたり。
何をそんなに取り乱すことがあるのか?
マーゴットには、だいたい意味が分からない。
取り乱すほどの大事なら、先々まで考えて、手を打っておけばよいのに、なぜ、ことが起きてから騒ぐ?
何を考えて生きているんだろう?と、毎回、不思議になる。
マーゴットの家の歴史は古い。
コーハ王国が興る前から、あった。
ガラン家として、コーハ王国になる前から、今のガラン領を統治していた一族の当主の娘。
それが、マーゴット。
マーゴットの上にいる4人の兄は、それぞれが優秀でマーゴットに優しい。
一番上の兄デヒルとは15歳離れているし、すぐ上の兄フィリスとは4歳差。
次男は婿入りのため、家にはいないが、会えば可愛がってくれる。
3番目の兄ハーマルは、おっとりとした深窓のご令息な性格をしているため、トラブルで、直接、役に立ったことはないが、家族愛に溢れている。
ハーマルは、今年から、コーハ王国の外交部勤務だ。
外交部から、担当者が駆けつけてきたのも、ハーマルの頑張りがあったはず。
すぐ上の兄、フィリスは、今年から近衛勤務。
姫気質なフィリスのことは心配なので、帰省したら、兄の様子を見に行くつもりだ。
マーゴットと一番仲良く遊んできたのが、フィリス。
マーゴットとフィリスの面倒を見ているつもりで、おっとりと見過ごしているハーマル。
アドバイスをくれる、次男リドリグ。
マーゴットの資質と性格を見出し、教育した長兄デヒル。
父は外交に飛び回り、不在のことも多かったガラン家は、兄弟が、協力して、成長してきた。
マーゴットは、年上の優秀で、マーゴットに心を砕いてくれる兄達を見て育ってきた。
つまり。
マーゴットは、兄の背中を見て育ってきたようなもの。
子ども達が大きくなってから、外交の頻度が落ちついた父も、母と共に、マーゴットの育児に加わった。
キャスリーヌとは、生まれたときからの付き合いで、気心も知れている。
もう1人、1つ下の幼馴染みも、気心が知れている。
幼馴染み2人は、マーゴットの側近として、一生一緒にいる。
2人の幼馴染みとは、経済観念や倫理観、物事の本質の捉え方に隔たりがなく、意思疎通がしやすい。
家から外国に行き、外国の子どもと会うときは、子ども同士の社交だ。
マーゴットからみて、何を言っているのか、理解不能な子どもは、他の子どもにも、理解不能なことが少なくない。
しかし。
学校という空間は。
マーゴットが今まで、関わりがなかった人の集まり。
使っている言葉の意味は分かるけれど。
相手の目的や意図は伝わるけれど。
交流できる気がしない。
交流する気も起きない。
そんな学生生活が続くのかと思っていたら、なんだか、人の集まりが出来た。
今までに接したことのない種類の人達。
ニンデリー王立学園という学校に通わなければ、出会うことのなかった人達。
いつの間にか、集まっているのが当たり前になっていた。
だから。
スラッルス・トークンが、助けてほしい、と願うなら、マーゴットが助けようと思ったのだ。
意味が通じなかったけれど。
仲良くなった、と、思っても、通じて欲しいことを言葉で表すのは、難しい。
スラッルス・トークンには、考える時間を与えたから、考えを改めるかもしれない。
けれど。
1回目で、伝わらなかったのは、寂しい。
マーゴットは、スラッルス・トークンを友達の範疇に入れたいと、精一杯頑張ってみたから。
お前はお呼びじゃない、と手を振り払われたすぐ後に、並んで歩く気分にはなれなかった。
後ろから、スラッルス・トークンの足音が近づいてくる。
「マーゴット!
マーゴット!
ごめん。
聞いて。
許してくれなくていいから、謝らせてくれ。
許してくれたら、本当は、嬉しいけど。
それは後でいいから。」
マーゴットは、立ち止まる。
さっきみたいに。
追いついたスラッルス・トークンは、マーゴットの顔を見てから頭を下げた。
「ごめん。マーゴット。
マーゴットは、自分の望みを叶えたいと思ったときも、家のことなんて、話さなかった。
マーゴットは、自分自身が、味方になる、とメッセージを送ってくれたのに。
俺は、マーゴットの家の力ばっかり気にして、勝手に期待して、がっかりして、マーゴットの誠意に見向きせず、マーゴットの覚悟を台無しにした。
本当にごめん。」
スラッルス・トークンは、頭を上げた。
「俺は、マーゴットが1人で、俺に背を向けて歩いていく姿を見て、自分の馬鹿さに気づいた。
マーゴットは、俺のことを信頼してくれていた。
マーゴットは、家の利害と自分自身を切り離して、俺自身を見てくれていたと、さっき分かった。
遅くなって、ごめん。」
スラッルス・トークンは、自身を見上げるマーゴットの瞳を見つめた。
マーゴットの瞳は、いつもみたいに迷いのない強さだけではない。
微かな期待と不安と諦めが覗いている。
こんな誠実な少女を傷つけた俺は、本当に馬鹿野郎だ、とスラッルス・トークンは、自身を蹴りたくなった。
「俺は、マーゴットに助けてほしい。
生き延びた報酬は、マーゴットの希望を叶える。
この条件で、お願いします。」
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