116 / 800
第5章 丸付けは、全部終わってからだよ?後手に回ったからって、それが何?
115.転生貴族令嬢レベッカ・ショア。苦しんで藻掻いて、自分自身で掴み取りたいものがある。
しおりを挟む
「迷惑よ。飼い猫の餌をつけ狙う野良のような真似をして。見苦しい。」
最後に声をかけた1人は、私を軽蔑していた。
私は、泣ききったと思っていた涙が湧いてくるのを、必死に抑え込む。
一度ゆるくなった涙腺は、簡単に崩壊するのかもしれない。
『ここで、泣くのは、我慢して。泣いたら、彼女は、二度と口を利いてくれない。』
前世の意識が助言してくれるから、喉がひくついたりしないように、意識する。
彼女に向かって、心の中で呼びかける。
『頼める義理なんてないけれど、私は、一体、どんな理由で嫌われているのか、知りたい。』
3人組の時には、思い浮かばなかった台詞。
でも、今は、私自身のことより侍女のことを聞く。
侍女が帰ってきたら、侍女からも探りを入れてもらおう。
「私の侍女について、知っていることを教えてもらいたいの。」
私は、彼女が、私から逃げ出そうとしないので、ほっとした。
「侍女について聞きたい?」
彼女に鼻で笑われた。
「貴女、主人でしょうに。あれほどの侍女を持ちながら、侍女について、隠れてこそこそと嗅ぎ回っているわけ?卑しいことをするわね。」
彼女は、私を卑怯者であるかのようにあげつらう。
「隠れてない。こそこそもしていない。」
「主人なら、本人に聞けばいいでしょ。」
肩をすくめる彼女。
「聞きたいけど、聞けないから。」
「意気地のない。」
彼女は、はっきり、馬鹿にしてきた。
でも、構わない。
今は、言葉のラリーが続いていることが嬉しい。
会話しながら、本題へ入れる。
「意気地なくてもいい。ねえ。今日、昨日、一昨日、私の侍女を見ていない?」
「侍女を見ていない?どういうこと。いないの?」
彼女は、初めて、私へと視線を向けた。
聡明そうな顔立ちの彼女。
私が、1人でぽつんとしているときは、話しかけてくれた。
「見当たらないの。今日、昨日、一昨日で見ていないなら、一昨日より前は?」
私は、聞きたい返事が返ってこないことに、苛立ちを覚えながらも、感情を抑える。
「侍女がいなくて、よく平気ね。」
彼女は、侍女について、何も答えてくれない。
しかも、はっきりと、馬鹿にしてきた。
令嬢が、侍女なしで過ごすのは、惨めなこと。
貴族令嬢の在り方として、侍女がいない事態は、困窮しているか、家から疎まれているか、を推測させる。
私が、困っていることを打ち明けて、侍女についての情報を求めているのに。
情報をくれないだけじゃなく、打ち明けた情報を使って、馬鹿にしてくるなんて。
彼女、親切そうだけど、本当は、性格が悪いんじゃない?
涙腺と共に、感情のストッパーも、私は外れてしまったのかな。
今までは。
黙って聞き流してきた彼女との会話の1つ1つが受け付けない。
「侍女の姿を見たか、見ていないか。見たなら、どこで見たか、教えてくれない?」
私は、いらいらを込めすぎないように注意しながら、聞き直す。
彼女は、うっすらと笑った。
「嫌よ。どうして、私が貴女に教えてあげなくてはならないの?」
「貴女が聞いてきたことに私は答えたわ。」
私は、思わず、彼女を凝視した。
聞かれたことに、答えたんだから。
私が聞いたことにも、答えてくれるんじゃないの?
「貴女が、勝手にべちゃくちゃと、恥を晒して、私は巻き込まれただけ。」
彼女は、けたたましく笑った。
「貴女って、本当に、なってないわ。侍女には、見捨てられたの?お似合いよ。」
彼女は、笑い転げた。
「ああ。おかしい。おかしい話は、皆で共有しないとね。追いかけてこないでよ。気持ち悪いから。」
彼女は、早足で去っていく。
鼻歌を歌って、スキップしそうなほど、上機嫌だ。
「何、あれ。あんな人だったなんて。よく話しかけてくれるから、嬉しいと思っていた自分の、人を見る目のなさが、猛烈に悔しい。」
私は、思わず地団駄を踏む。
前世の意識が言った。
『要注意人物が分かったから、今回は、良しとする。』
「うん。賢くなったよ。」
『溜め込んでしまいがちだった感情も、今、上手に出せた。偉かったよ。自分のために、自分で怒ったり、嘆いたり出来た。』
前世の意識が、認めて、褒めてくれた。
「うん。出来た。今世で初かも。」
『そうだよ。今日は、初めて出来た記念日。』
前世の意識は、私とは異なる視点を持ちながら、私と一緒に立ってくれている。
ずっと、一緒に立っていてほしいな。
情けない私も。
苦しみながら藻掻く私も。
いつか、大人になって。
あの頃は、若かったの、とふざけて言えるようになりたい。
「今日は、頑張った。帰って、寮の職員に、伝言を確認したら、早めに休もう。」
前世の意識に、私から話しかけてみる。
前世の意識が、心なしか嬉しそう。
『いい考えね。休息してから、明日に備える。』
「帰ろう。」
『帰ろう。』
誘い合って帰るなんて、友達みたい。
他の人には、私が1人にしか見えないけれど。
今日の成果は、ゼロ。
侍女についての情報らしき情報は、何一つ、集めることができなかった。
それなのに。
私は、朝より元気になって、寮に戻ってきた。
寮の職員は、朝と同じくらい、木で鼻をくくったような対応をしてきた。
でも。
今朝の私と、夕方の私は、一味違う。
寮の職員の態度に、今までは、不安になっていた私。
よく考えたら、職員が寮生にする態度じゃないよ。
今は、職員に対して不満を覚えている。
今朝までは、思い詰めて、周りが見えなくなっていたんだと思う。
いっぱい藻掻いて、掴み取りたい、私に必要なものを。
明日もやるぞ!
私は、やる気と希望を明日に持ち越した。
最後に声をかけた1人は、私を軽蔑していた。
私は、泣ききったと思っていた涙が湧いてくるのを、必死に抑え込む。
一度ゆるくなった涙腺は、簡単に崩壊するのかもしれない。
『ここで、泣くのは、我慢して。泣いたら、彼女は、二度と口を利いてくれない。』
前世の意識が助言してくれるから、喉がひくついたりしないように、意識する。
彼女に向かって、心の中で呼びかける。
『頼める義理なんてないけれど、私は、一体、どんな理由で嫌われているのか、知りたい。』
3人組の時には、思い浮かばなかった台詞。
でも、今は、私自身のことより侍女のことを聞く。
侍女が帰ってきたら、侍女からも探りを入れてもらおう。
「私の侍女について、知っていることを教えてもらいたいの。」
私は、彼女が、私から逃げ出そうとしないので、ほっとした。
「侍女について聞きたい?」
彼女に鼻で笑われた。
「貴女、主人でしょうに。あれほどの侍女を持ちながら、侍女について、隠れてこそこそと嗅ぎ回っているわけ?卑しいことをするわね。」
彼女は、私を卑怯者であるかのようにあげつらう。
「隠れてない。こそこそもしていない。」
「主人なら、本人に聞けばいいでしょ。」
肩をすくめる彼女。
「聞きたいけど、聞けないから。」
「意気地のない。」
彼女は、はっきり、馬鹿にしてきた。
でも、構わない。
今は、言葉のラリーが続いていることが嬉しい。
会話しながら、本題へ入れる。
「意気地なくてもいい。ねえ。今日、昨日、一昨日、私の侍女を見ていない?」
「侍女を見ていない?どういうこと。いないの?」
彼女は、初めて、私へと視線を向けた。
聡明そうな顔立ちの彼女。
私が、1人でぽつんとしているときは、話しかけてくれた。
「見当たらないの。今日、昨日、一昨日で見ていないなら、一昨日より前は?」
私は、聞きたい返事が返ってこないことに、苛立ちを覚えながらも、感情を抑える。
「侍女がいなくて、よく平気ね。」
彼女は、侍女について、何も答えてくれない。
しかも、はっきりと、馬鹿にしてきた。
令嬢が、侍女なしで過ごすのは、惨めなこと。
貴族令嬢の在り方として、侍女がいない事態は、困窮しているか、家から疎まれているか、を推測させる。
私が、困っていることを打ち明けて、侍女についての情報を求めているのに。
情報をくれないだけじゃなく、打ち明けた情報を使って、馬鹿にしてくるなんて。
彼女、親切そうだけど、本当は、性格が悪いんじゃない?
涙腺と共に、感情のストッパーも、私は外れてしまったのかな。
今までは。
黙って聞き流してきた彼女との会話の1つ1つが受け付けない。
「侍女の姿を見たか、見ていないか。見たなら、どこで見たか、教えてくれない?」
私は、いらいらを込めすぎないように注意しながら、聞き直す。
彼女は、うっすらと笑った。
「嫌よ。どうして、私が貴女に教えてあげなくてはならないの?」
「貴女が聞いてきたことに私は答えたわ。」
私は、思わず、彼女を凝視した。
聞かれたことに、答えたんだから。
私が聞いたことにも、答えてくれるんじゃないの?
「貴女が、勝手にべちゃくちゃと、恥を晒して、私は巻き込まれただけ。」
彼女は、けたたましく笑った。
「貴女って、本当に、なってないわ。侍女には、見捨てられたの?お似合いよ。」
彼女は、笑い転げた。
「ああ。おかしい。おかしい話は、皆で共有しないとね。追いかけてこないでよ。気持ち悪いから。」
彼女は、早足で去っていく。
鼻歌を歌って、スキップしそうなほど、上機嫌だ。
「何、あれ。あんな人だったなんて。よく話しかけてくれるから、嬉しいと思っていた自分の、人を見る目のなさが、猛烈に悔しい。」
私は、思わず地団駄を踏む。
前世の意識が言った。
『要注意人物が分かったから、今回は、良しとする。』
「うん。賢くなったよ。」
『溜め込んでしまいがちだった感情も、今、上手に出せた。偉かったよ。自分のために、自分で怒ったり、嘆いたり出来た。』
前世の意識が、認めて、褒めてくれた。
「うん。出来た。今世で初かも。」
『そうだよ。今日は、初めて出来た記念日。』
前世の意識は、私とは異なる視点を持ちながら、私と一緒に立ってくれている。
ずっと、一緒に立っていてほしいな。
情けない私も。
苦しみながら藻掻く私も。
いつか、大人になって。
あの頃は、若かったの、とふざけて言えるようになりたい。
「今日は、頑張った。帰って、寮の職員に、伝言を確認したら、早めに休もう。」
前世の意識に、私から話しかけてみる。
前世の意識が、心なしか嬉しそう。
『いい考えね。休息してから、明日に備える。』
「帰ろう。」
『帰ろう。』
誘い合って帰るなんて、友達みたい。
他の人には、私が1人にしか見えないけれど。
今日の成果は、ゼロ。
侍女についての情報らしき情報は、何一つ、集めることができなかった。
それなのに。
私は、朝より元気になって、寮に戻ってきた。
寮の職員は、朝と同じくらい、木で鼻をくくったような対応をしてきた。
でも。
今朝の私と、夕方の私は、一味違う。
寮の職員の態度に、今までは、不安になっていた私。
よく考えたら、職員が寮生にする態度じゃないよ。
今は、職員に対して不満を覚えている。
今朝までは、思い詰めて、周りが見えなくなっていたんだと思う。
いっぱい藻掻いて、掴み取りたい、私に必要なものを。
明日もやるぞ!
私は、やる気と希望を明日に持ち越した。
1
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

スライムばかり食べてた俺は、今日から少し優雅な冒険者生活を始めます。
いけお
ファンタジー
人違いで異世界に飛ばされてしまった佐藤 始(さとう はじめ)は、女神システィナからとりあえず悪い物を食べて死ななければ大丈夫だろうと【丈夫な胃袋】と【共通言語】を与えられ放り出されてしまう。
出身地不明で一銭も持たずに現れた彼を怪しんだ村の住人達は簡単な仕事の紹介すら断る有様で餓死が目の前に迫った時、始は空腹のあまり右手で掴んだ物を思わず口に入れてしまった。
「何だこれ?結構美味いぞ」
知らずに食べていた物は何とスライム、弱って死ぬ寸前だった始を捕食しようと集まっていたのだった。食べられると分かった瞬間スライム達がごちそうに早代わり、始のスライムを食べる生活が始まった。
それから数年後、農作物を荒らすスライムを食べて退治してくれる始をいつの間にか村人達は受け入れていた。しかし、この頃になると始は普通のスライムだけの食生活に飽きてしまい誰も口にしない様な物まで陰でこっそり食べていた・・・。数え切れない程のスライムを胃袋に収めてきたそんなある日の事、彼は食べたスライム達からとんでもない能力を幾つも手に入れていた事に気が付いた。
始はこの力を活かす為に町に移住すると、悪徳領主や商人達が不当に得た金品を奪う冒険者生活を始めるのだった・・・。
仕事中の空いている時間に物語を考えているので、更新は不定期です。また、感想や質問にも出来る限り答えるつもりでいますが回答出来ない場合も有ります。多少の強引な設定や進行も有るかもしれませんが、そこは笑って許してください。
この作品は 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。
後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。
その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。
世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。
王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる