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第5章 丸付けは、全部終わってからだよ?後手に回ったからって、それが何?

108.転生貴族令嬢レベッカ・ショア。本人の知らぬ間に、坂を転がり落ちていく。

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使用人帯同の貴族寮に住んでいる貴族が、使用人を使いに出さず、寮の職員と直接話をするために、貴族自ら職員の元へ足を運ぶことは、まずない。

用があるなら、使用人を使いに出して、職員を部屋へ呼びつける。

それが、貴族の在り方として、支配者として、正しい在り方。

こそこそ、と貴族が1人で忍んでくるなんて、怪しいったらない。

どんな悪さをしているのか、もしくは、しようとしているのか、と勘繰られる。

寮の職員は、
「伝言は何もなかった」と、レベッカ・ショアに伝えたか、レベッカ・ショアを要注意人物に認定した。

寮内でも、学園内でも、周りと打ち解けようとしない外国人の新入生レベッカ・ショア。

授業は真面目に受けているようだが、周りに馴染む様子がないため、歯止めがかからず、一気に非行に走る恐れがある。

寮の職員は、レベッカ・ショアを警戒した。

使用人帯同の貴族寮。
住んでいるのは、お金持ちで、良いお家のご令嬢ばかり。

お預かりしている貴族のご令嬢の生活を乱すような不穏分子の存在は、歓迎されない。

大多数の真っ当なご令嬢方の生活に支障をきたさないように手配してこそ、使用人帯同の貴族寮の職員の努め。


使用人帯同の貴族寮には、ニンデリー王国の公爵家を筆頭に侯爵家のご令嬢が何人もいる。

「どうか、ご内密に。ご報告がございます。」
職員は、公爵家と侯爵家のご令嬢方の部屋を訪ね、レベッカ・ショアという問題児の存在を仄めかした。
「レベッカ・ショアという新入生でございますが、先程、侍女を通さず、自身で、わたくしに確かめにきたのでございます。『自分宛ての伝言はなかったか?』と。」

「まあ。なんと下品な。」
「隠す気もないのですね。」
「いかがわしい行動を恥じ入る気もなさそうですわ。」
「学問の前に、極めることがあるなんて、立派な志ねえ。」
報告を受けたご令嬢方は、口々に、レベッカ・ショアの貴族らしかぬ浅はかな行動に嫌悪感を示した。

公爵家と侯爵家のご令嬢方は、仄めかされた内容から、非行に走るようなご令嬢と同じ寮にいることを懸念された。
「腐った林檎は、ねえ?」
「同じ女性として、恥ずかしいですわ。」
「同類に見られるのは、嫌ですわよ。」
「ニンデリー王立学園の女子学生の品位に関わりますわ。」

自国の公爵家と侯爵家の複数のご令嬢の意に添わないことを放置して良いはずがない。
「皆様方のご懸念なさることは、全てご尤もでございます。」
と職員。
「あら、では?」
とご令嬢方の瞳がキラリと光る。
「皆様方が、恙無くお過ごしになられる環境をご用意することこそが、わたくしの使命にございます。」

どんな小さなことでも、レベッカ・ショアの問題が明らかになった時点で、使用人帯同の寮から、使用人を帯同しない寮に移す。
と、職員は、ご令嬢方に告げた。
ご令嬢方は、職員の決定を後押しした。


使用人帯同の貴族の女子寮の職員。
マーゴットとキャスリーヌが最上級の部屋を予約して、それぞれの部屋代の支払いが済んだ後、子爵令嬢と男爵令嬢の新入生が、高額の部屋の予約をしてきたのは、何かの間違いではないか、と第1王子派の貴族に相談にいった人物だ。

その後、第1王子派の貴族である、公爵家や侯爵家のご令嬢方の言い分を丸呑み。
マーゴットとキャスリーヌの部屋代で、公爵令嬢と侯爵令嬢が、マーゴットとキャスリーヌの部屋に住めるように手配した張本人でもある。

自国で権力のある貴族のご機嫌をとること、阿ることは、使用人帯同の貴族の女子寮の職員にとって、生活習慣のように、身についている。


ニンデリー王立学園は、王立の学術研究の場である。

使用人帯同の貴族の女子寮の職員の行動は、職務に熱心というには、行き過ぎたきらいがあるものの、ニンデリー王国の高位貴族からの評判は、概ね良い。

問題の芽は、懸念材料のうちから、即、高位貴族の元へ報告が上がってくる。

報告が早ければ、高位貴族の権威で、簡単におさめられる。

使用人帯同の貴族の女子寮の職員は、ニンデリー王国の高位貴族の子どもを安心して預ける環境を整えるために、いなくてはならない人材だ。

マーゴットとキャスリーヌの入寮に関する問題で、件の職員が責任を問われることなく、続投しているのは、職員を辞めさせたい人間が、高位貴族にいないためである。


12歳のレベッカ・ショアが、ニンデリー王国に来て以来、ずっと頼りにしてきた唯一の大人である侍女からの連絡がないことに、不安を抱えながら、1日目を終える頃。

レベッカ・ショアが住む寮の職員と、ニンデリー王国のトップの家柄のご令嬢方の間で、レベッカ・ショアの処遇に関する密約が成った。

『どんな些細なものでも、レベッカ・ショアの問題が明るみになり次第、レベッカ・ショアは、現在住んでいる使用人帯同の貴族の寮の部屋から、追い出す。』
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