子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒

第5章 丸付けは、全部終わってからだよ？後手に回ったからって、それが何？

107.転生貴族令嬢レベッカ・ショア。『私の侍女が帰ってこない。』

転生貴族令嬢レベッカ・ショアの優秀な侍女が、居なくなった。

レベッカ・ショアが、自身の侍女の姿を見なくなって、本日で、4日目になる。

4日前。
レベッカ・ショアは、学校の授業を終え、いつものように寄り道もせず、寮の自室に戻った。

使用人帯同の貴族の女子寮の玄関では、主人を待っている侍女もいる。

レベッカ・ショアの侍女は、玄関には並ばない。

レベッカ・ショアは、侍女を1人しか連れてこなかった。

主人の出迎えの間、侍女は、他の仕事ができない。

1人しかいない侍女の仕事が滞ると、主人であるレベッカ・ショアの生活に支障をきたす。
レベッカ・ショアは、寮の玄関での出迎えを自身の侍女に求めなかった。


侍女が寮の玄関に迎えに来てくれたら、学園で、仲良しの人の輪を見て、落ち込んだりしても、元気を取り戻せる気がする。

12歳のレベッカ・ショア本音では、侍女に出迎えてほしい。

でも、転生前の前世の記憶が、そこは、わがままを我慢するところだ、と押し留めている。

目先の欲望を優先したせいで、最終的に、生活が回らなくなったら、困るのは、誰？と前世の意識が、今世のレベッカ・ショアに問いかけてくる。

前世の意識の言う通りなので、レベッカ・ショアは、可愛いわがままを、自身の胸の中に秘めたままにして過ごしてきた。



その日。
レベッカ・ショアの自室には、ニンデリー王立学園に入ってから毎日、笑顔で出迎えてくれる侍女の姿がなかった。


レベッカ・ショアの部屋の中は、暗くて、静かで。

レベッカ・ショアが侍女を呼ぶ声以外、物音1つしない。

「いないの？」
いないと分かっていても、声を出して、問わずにはいられないレベッカ・ショア。

「どうしたの？」
返事の返らない問いかけは、レベッカ・ショアの心の中にある寂しい気持ちを揺り動かす。

ぽつんと立ち尽くしている自身に気づき、レベッカ・ショアは、部屋の中を確認する。

どこにも、いない。
いつも一緒にいた侍女。

前世の記憶が邪魔して、甘えるのをセーブしがちなレベッカ・ショアの気持ちを汲んで、甘えさせてくれた侍女。

侍女と2人だったから。
親元から離れて、外国の学生寮に入っても、やってこれた。
レベッカ・ショアの分も、何食わぬ顔で、さり気なく足をうごかしている侍女と二人三脚だったから。

同級生とは、会えば話すこともある、以上の関係から進まないまま、入学して2ヶ月。

貴族らしくないレベッカ・ショア。
貴族になりきれない自分に自分で言い訳を用意して、動かないレベッカ・ショア。

生活だけでなく、レベッカ・ショアの心も支えてくれていた侍女がいたから、レベッカ・ショアは、毎日学園に通うことが出来た。


侍女が、部屋で待っていないだけで、レベッカ・ショアは不安になった。

前世の意識が、買い物の帰り道で会った知り合いと話し込んでいるだけよ、とうそぶいている。


レベッカ・ショアは、1人で明日の支度を終えた。
部屋の中で侍女が帰ってくるのを待つ。

いつ開くのか、と扉を見つめながら。

『遅くなりました。』
侍女がそう言って、申し訳無さそうに帰ってきたら。
『本当よ！寂しかったんだから、書き置きくらい、残していってよね！』
嬉しい気持ちを隠せず、笑顔で侍女に飛びつく自身を何度も想像してみた。



日が暮れても、レベッカ・ショアの侍女は、帰ってこない。

日が暮れてから、寮の部屋の中を何度も探したが、侍女の残した書き置きは、なかった。

買い物が、長引いているのなら、寮の職員に言付けくらいしているだろうか？

レベッカ・ショアは、自分で職員に、確認した。
「私宛の伝言はない？」


寮の職員と話をするのは、レベッカ・ショアにとって初めてのこと。
初めての大人と話をするのに、久しぶりに勇気を出したレベッカ・ショア。


突然やってきたレベッカ・ショアを見た職員には、たいそう訝しがられた。


レベッカ・ショアは、侍女が帰ってこない不安と、もしかしたら、伝言があるかも？の期待を胸に、職員に話しかけたので、挙動不審になっていた。

レベッカ・ショアは、自身が挙動不審になっている自覚があり、挙動不審な自分を悟られまいと、気づかぬうちに、更に不自然な動きになっていた。

職員が訝しがっているのは、自身の態度が挙動不審のせいだ、と信じて、疑わなかったレベッカ・ショア。


一方。
レベッカ・ショアに話しかけられた女子寮の職員は、1人で現れたレベッカ・ショアの姿を見て、レベッカ・ショアが予想していなかったことを考えた。