子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒

第5章 丸付けは、全部終わってからだよ？後手に回ったからって、それが何？

104.転生貴族スラッルス・トークン。『夜中の男子寮で足音を聞いたら、部屋の外に出てはならない。連れて行かれるよ？』『廊下に誰がいるんだ？』

転生貴族スラッルス・トークンは、1人で人探しを続けている。

手掛かりは、まだ、何も見つっていない。

『夜中の男子寮をナニカが徘徊している。夜中は、部屋から出てはいけない。見つかったら、連れて行かれる。』
最近になって、男子学生の間に、そういう噂が流れ始めた。

怪談？
スラッルス・トークンは、どこの世界にも、怪談があるんだなー、と聞き流していた。

スラッルス・トークンには、夜中に、部屋の出入りをするほどの用事がある相手などいない。

スラッルス・トークンは、使用人を帯同しない貴族寮に入っている。
部屋の中には、夜中に、話をする相手もいない。
部屋に戻ったら、1人で静かに過ごすのが、スラッルス・トークンの常だ。

日中、真面目に学業に励んだ後、怪しまれなさそうな場所から順番に、人を探し歩いているスラッルス・トークン。
夜中に部屋を出て、うろうろするほどの体力は残っていない。

転生していても、スラッルス・トークンの肉体は、この世界の12歳の平均的な少年のもの。

夜は、よく寝る。


その夜、スラッルス・トークンが、起きていたのは、本当に、珍しかった。

ひどく喉が渇いたと感じて、夜中に目が覚めたら、喉を潤しても、眠れなくなったのだ。

時計を見ると、夜の2時。

常識的な人間は、寝静まった夜の寮内で、活動を始める時間ではない。

しかし。
部屋の出入り口となる扉が面している廊下側から音がする。

スラッルス・トークンは、耳を澄ました。

人の足音のようだが、リズムが違う。

二足歩行の音にしては、きびきびした感覚ではない。
杖をついている音もしない。

足を引きずるなら、ずるずるした音になるはず。

まさか、夜中の寮内でペットの散歩をしているのか？

人の気配は、確かにある。

ペットの気配は、分からないが、廊下に人がいて、人が移動しているのは、確かなのだ。

人の気配は、少しずつ、少しずつ、スラッルス・トークンの部屋へ近づいている。

ナニカは、廊下を移動しているだけで、音が近づいてくるのは、ナニカが移動する音だから、気にする必要などないのかもしれない。

しかし。
今。
スラッルス・トークンは、冷や汗をかいて、息を潜めている。

近づいてくるうちに、何の音か、分かってしまった。

人が、廊下の床を這っているのだ。

ほふく前進のような、トレーニングではない。

健康的な体で動き回っている音ではない。

熱で、頭がクラクラし、体がふらふらする動きとも違う。

体の故障か何かで、手足がままならず、這いずり回って移動している音。

意識があって、意思を持って移動している人がいる。

夜中の2時の男子寮の廊下を。

一体、誰が？
どんな目的で？

気づいてしまえば、気づく前には戻れない。

怪談なら、霊感がないから大丈夫と、余裕があった。

得体のしれない人物が、何らかの意思を持って、扉を隔てた場所にいる。

廊下が静かになっても、緊張した筋肉はほぐれない。

スラッルス・トークンは、眠れぬまま、朝を迎えた。

男子寮の怪談について、情報を集めよう。

安眠のために。

スラッルス・トークンは、しばし、人探しを中断することにした。