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第3章 学生の数だけ、物語がある。物語には創り手と演じ手がいるわけで。主役と脇役が交差したりもするよね。

56.鯉とミノカサゴとマーゴット。ガラン領の鯉の池は、娯楽スポット。

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マーゴットとキャスリーヌが入寮するにあたり、コーハ王国の外交部の担当者とコーハ王国の公爵令嬢ライラが、マーゴットとキャスリーヌと一緒に部屋の清掃と点検の監督をした。

問題ないとコーハ王国とニンデリー王国の間で文書が交わされて、マーゴットとキャスリーヌは入寮した。

入寮まで、1ヶ月程、2人はホテル暮らしをしたことになる。

ホテル代と迷惑料は、コーハ王国外交部の担当者がしっかり巻き上げている。

なあなあにすると、コーハ王国の貴族に対してナメてかかってもいいという風潮が出来る。

一度でも、ナメてかかってもいいという印象を与えると、その印象は常について回る。

コーハ王国とコーハ王国の王侯貴族の価値を落とさないためにも、コーハ王国の貴族の子どもが外国で、軽んじられている状況が発覚したなら、速やかに対処に乗り出すのが、コーハ王国のやり方である。

マーゴットとキャスリーヌは、国の方針を知っていたから、堂々と国に丸投げした。

マーゴットとキャスリーヌは、1ヶ月遅れで、寮生活が始める。

寮生活の良いところは、学校までの距離。
学校の建物が、住まいから見えている。
ホテルから通うより通学が圧倒的に楽。

朝も夜も時間に余裕ができる。

寮生活の醍醐味である。

マーゴットも、キャスリーヌも寮の大食堂は使わない。

学園内に社交する相手がいなかったから。

面倒なしがらみは、自分から作りにいかない。

マーゴットのガラン子爵家も、キャスリーヌのベイモン家も、金持ち自慢はしないが、知る人ぞ知る資産家なので、厄介事の種を自分から撒きにいったりはしない。

これぞ、という人物がいたら、声をかけるが、いなければ無理して知り合いを増やしたりしない。

知り合いは、所詮、知り合い。
代々資産家の娘からすると、知り合いというのは、面倒な付き合いを要する人のことである。


マーゴットは、相棒のミノカサゴに話しかける。

「ホテルでは、従業員の目があるから、ミノカサゴが1人でうろうろするわけにはいかなかったけれど。寮の部屋の中なら、ミノカサゴが1人でのびのび出来るわ。」

「ワタシが本領を発揮する場所が整ったわね。やっと。」
ミノカサゴは、マーゴットの鞄から出てきて、すいすいと部屋の中を泳ぐ。
まるで海水にいるかのように、空気中を泳ぐのだ。

「ミノカサゴ。本領発揮してくれるのは、嬉しいけれど、勝手に生徒を探してきて鍛えるのは、なしよ。
生態系が崩れるから、ガラン領に、持って帰るのも、なし。」
マーゴットは、ミノカサゴに釘をさす。

王立学園に来る前。
マーゴットが暮らすコーハ王国のガラン領にて。

ミノカサゴは、マーゴットとガラン領を散歩していて、池の鯉を見つけてしまった。

「マーゴット、鮮やかな魚だわ。どうやって、攻撃するの?」
ミノカサゴは、鯉から目を離さない。

「ミノカサゴ。鯉は、人間に美しさを愛でられるためにいるから。戦わないわよ?」
マーゴットの説明を聞いたミノカサゴは、奮起した。

「マーゴット。美しさは、弱さと合わせるだけじゃ、足りない。強さに裏打ちされてこそ、輝くのよ。ワタシが証明してみせるわ。」
その日から、ミノカサゴは池に通いつめて、池の鯉を鍛え始めた。

マーゴットが、長兄デヒルにミノカサゴを止めるようにと言われて、池に見に行ってみると。

池の鯉が、角を生やしていた。
角で、ピンポイントに人間の目を潰そうとする訓練を積ませたわ、というミノカサゴ。

「鯉?戦士になっているけれど。」
マーゴットが尋ねると、ミノカサゴは、鯉に合図を送った。
すると、鯉の尖った角は一瞬で消えさり、愛でたくなる鯉の姿へ。

「ミノカサゴ。説明して。」
マーゴットは、鯉とミノカサゴの関係を理解して、長兄デヒルに説明する責任がある。
「強さは、見せびらかすのではなく、隠し持ってこそ。」
とミノカサゴ。

「鯉は、角を隠せるの?
鯉の角は、出し入れ自由なの?
そもそも、鯉に角は生えるの?」
池にいるのは、確かに鯉にしか見えない。
角を生やしていなければ。
ミノカサゴは、鯉の努力を讃えて、こう言った。
「マーゴット。生き物は、無限の可能性を秘めているわ。
角がなければ生やす。
角を見せたくなければ、仕舞うのよ。」

マーゴットは、長兄デヒルに顛末を報告。
デヒルは、角を自由に出し入れする鯉を見て言った。
「種の進化か、新種か、分からん。増えるのか?」

マーゴットは、なんとも答えられなかった。
今後は、相棒のミノカサゴを野放しにしない。
マーゴットは、兄に約束した。

その後。
角を出し入れ出来る鯉は、俊敏性を競いたがる者達と切磋琢磨するようになった。

今では。
池の縁に人間が立ち。
鯉が不意打ちでしかけるのを躱す娯楽として、ガラン領民に親しまれている。


鯉の角は、マーゴットの家の領地だから、生えても結果オーライだった。

ガラン領には、歩くご神木や、転がって移動する霊石や、うぐいす色のワイバーンの姿をした神獣パパランなど、人外が豊富。
鯉の姿が変わっても、そういうこともあるんだなー、と受け入れるのが、ガラン領民。

他の土地では、うまくいくまい。
自分から、揉め事のタネを撒く気は、マーゴットにはない。

「ミノカサゴ。本領を発揮したいのなら、わたしの目の前で。」
マーゴットは、ミノカサゴに念押しをした。
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