フィリス・ガランの近衛生活

第6章 コーハ王家の第4王子と高位貴族子弟の近衛は、同じ近衛である地味平凡の子爵子息の魅了で逆ハーレムを作っている、との情報が！

1118.近衛別働隊発足後、リッチェルとアランは、フィリスが噂通りではない様を見た。今、貴族学校での出来事で、リッチェルは心を決める。

一部始終に立ち会っていたリッチェルとアランは、多くのことを理解した。

フィリスが、貴族社会に蔓延していた噂とは対極にあること。

権力者におもねり、権力者に体で取り入って、己の意のままに振る舞うために、お山の大将になることを欲したというのが、貴族社会のフィリス評だった。

フィリスは、権力者におもねってなどいない。

フィリスは、ありのままの振る舞いで、権力者をかしずかせている。

生まれながらの惣領。

他者を従え、導く首領。

フィリスは、守られる立場でものを考えない。

フィリスにとって、人々の上に立つ者として、君臨することは、当然の在り方。

ただ、その在り方は、気高くありすぎる。

フィリスの気高さを理解しない者は、容赦なく引きずり下ろそうとするだろう。

リッチェルとアランは、フィリスを支えて守ることを決めた。

フィリスの大切なものの1人として、前後左右ではなく、斜めにずれた位置からフィリスを守ろうと。

前後左右は、第4王子フィリップ殿下派閥と王太子殿下派閥がいる。

リッチェルとアランは、フィリスを守る内側にいながら、外からも見える位置に立つことにした。

リッチェルもアランも侯爵子息ではあるが、近衛別働隊への入隊打診の頃は、今ほど目立った存在ではなかった。

リッチェルとアランが注目され出したのは、近衛別働隊の幹部への選出が正式に決まり、王太子殿下派閥と第4王子フィリップ殿下派閥との交流が知られるようになってから。

リッチェルとアランは、注目を浴びる中で、頭角をあらわし、一角の人物と評されるようになった。

第2王子派閥と第3王子派閥は、安全運転を重視しすぎて、先見の明のなさから、先行投資をしなかった。

第2王子派閥と第3王子派閥が、両派閥にとって、近衛別働隊に対する唯一の窓口となるリッチェルやアランを離反させるなどという、派閥の利益を損なう愚策を採用するか？

リッチェルが、女性担当者を警戒している理由は、女性担当者の狙いが、派閥の利益に反するものだから、にほかならない。

派閥の利益を考えるなら、これからの近衛別働隊の中核になりえる人材を送り込むのが、正解。

送り込む人材がいないのなら、せめて、友好関係を築かなければ。

第2王子派閥と第3王子派閥は、近衛別働隊の総司令フィリスと総司令補佐のサブリーとユージュアルから高評価を得ていない。

サブリーとユージュアルからは、今日の一件で、一線をひかれた。

フィリスは、貴族学校の学生との交流を仕事として取り組む姿勢を見せている。

目の前にいる学生達の在り様をフィリスが快く思っているから、ではない。
逆だ。
在り様に危機感を覚えたからだ。

リッチェルは、穏やかさを見せながら、頭を働かせる。

派閥内をかき乱し、内側からの混乱と瓦解を目論む者がいる。

その者が、派閥内にいるのか、派閥外にいるのか。

リッチェルは、慎重に、かつ、迅速に、その者を突き止めて、派閥の正常化を働きかける必要がある。

リッチェル自身は、派閥ではなく、近衛別働隊での活動がメインだ。

リッチェルの軸足は、派閥ではなく、近衛別働隊にある。

リッチェルは、今まで、派閥内で、自身の立場をはっきりさせてこなかった。

今までは、それで良かった。

派閥にとっても、リッチェルにとっても、いい作用をもたらしてきた。

だが。
派閥内に、不穏な動きがあると分かった今。

リッチェルの態度を明確にして動かなければ。

姿を見せない何者かが、リッチェルの意図せぬ形で足元をすくいにくる。