フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

文字の大きさ
上 下
998 / 1,437
第6章 コーハ王家の第4王子と高位貴族子弟の近衛は、同じ近衛である地味平凡の子爵子息の魅了で逆ハーレムを作っている、との情報が!

999.『ボクの妹のマーゴットを紹介するの。』『知っている。超強い。』『無敵だった。』『兄は可愛さオンリーだけど、妹は、女帝だ。』

しおりを挟む
 襲撃が落ち着いてひと段落つきーー
戻ってきたアンナと3人で、長老様の家でお茶をご馳走になっていた。
ワイバーンは私の収納魔法と、アンナさんの収納袋を使って回収をしておいた。
もちろん、長老様からのお願いである。

 街が何事もなかった様に、生活を始めた頃。
お茶を頂いていた長老様の家に慌てて入ってくる足音がした。

「長老!ワイバーンは!どうなりまし‥‥た?」

 焦って走ってきたのだろう。肩で息をし、目を赤くしながら叫んでいる。
金色の長い髪がフワッと揺れる。まだ若そうに見える男性だ。
だが、私たちの朗らかな様子に疑問を持ったのだろう。その勢いも長くは続かない


「おお、副ギルド長。もしかして送った者と入れ違いになったかのう?ワイバーンは倒されたよ」

 はっはっは、と笑う長老様とポカン、と口を開けた副ギルド長が対照的だ。
だが、この村のために副ギルド長自らが駆けつけるなんて、なんとも勇ましい。

「どういう事か説明してもらえますか?」
「だから言った通りじゃ。このお2人がワイバーンを殲滅してくれた」
「‥‥2人で?」

 私たちは副ギルド長に背を向けて座っていたので、今ここにいたことに気が付いたらしい。
ロランの顔を見た後、私の顔を見て驚いている。

「ああ、お前さんたちが来る前にと思ってギルドには他の者を報告に行かせたんじゃ。お2人さんは怪我はなかったとはいえ、疲れていると思ってな」
「‥‥で、ここでお茶していたと」
「そうだ。助けてもらったのにお礼の一つも出来ないなんて、嫌だからのう」

 副ギルド長は呑気な長老様の様子に頭を抱えている。

「状況は分かりました‥‥では、長老。この2人に詳しい話を聞きますので、街に向かいたいと思いますが‥‥」
「しょうがないのう。また皆さんこの村に来て下さいな、その時は歓迎しますぞ!」

 その言葉で私たちは次の街に向かうことになったのだった。


 ロランがアンナさんの事情を話してくれたので、アンナさんも着いていくことになった。
急いで来て欲しい、ということで村の馬を借りて行くことになる。
アンナさんもロランも私も、乗馬は問題ないようだ。

 私たちが街に行くことを嫌がる村人を副ギルド長は宥め、また来ると約束して村を出る。
村人総出で見送ってくれたことは忘れないだろう。

 今は先頭に副ギルド長、私、アンナさん、ロランの順で馬を走らせていた。
女性は危ないから、と気を使ってくれた様だ。
副ギルド長は気さくな方の様で、私に色々と声をかけてくれる。
今も質問されたので、答えている最中だ。

「ああ、シャルモンの街ご出身なのですね?」
「はい」
「シャルモンの街のギルド長には私もお世話になりました。すごく優しい方でしたね」
「そうですね」

 先程から、「はい」「いいえ」「そうですね」しか言っていない気がする。
でも副ギルド長はペラペラと話しかけてくる。よく話が持つな、と1人で感心していただけだったが。

ーー実は副ギルド長が私に好意を寄せているから話しかけていることに、私は気づくことはなかった。



 私が、変なところで感心している時。

 後ろで馬を走らせていたロランは、眉間にシワを寄せて前を伺っていた。
私と副ギルド長が楽しげに(?)話している(様に見える)ので、余計にシワが寄っている。
アンナさんはそのことに気づいたらしく、危なくない程度に後ろを振り向いた。

「ロラン、シワが寄っているわよ?」

 アンナさんは眉間を人差し指でトントン、と叩く。
それでロランは顔のことに気づいたらしい。眉間のシワはなくなった。

「何、嫉妬してるのよ」
「嫉妬って‥‥」
「あら?してないとでも?」

 その言葉に黙るしか無いロラン。どこからどう見ても嫉妬してる様にしか見えないだろう。
そこで色々とロランから話を聞いていたアンナさんは思い至った様だ。

「そっか、セリーちゃんが男性と2人で話すところを見たことがなかった?だから嫉妬しちゃったのか」

 図星である。下を向いてはいるが、耳まで赤くなっていることは確かだ。

「セリーちゃんは可愛いから、射止めておかないと攫われちゃうよ?」
「‥‥分かってる」
「ロランは本当にセリーちゃんのことが好きよね~羨ましい!」
「そりゃ、一目‥‥あ」
 
 思わず突いて出てきた言葉に気づき、途中で止めるも、アンナさんには分かってしまったようだ。

「あらまぁ、ロランも隅に置けないね」
「‥‥ちっ」
「まあ、今嫉妬しているからって、セリーちゃんに当たるのだけはやめてよね?」
「‥‥分かってる」

 アンナさんはロランを弄って楽しかったようだ。顔を前に戻している。
そこにはまだ話し続ける副ギルド長と、話だけ聞いている私の姿が。

「‥‥ちゃんと攫われない様に守ってよね?」

 とアンナさんが呟いた声は誰の耳にも届くことは無かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

食堂の大聖女様〜転生大聖女は実家の食堂を手伝ってただけなのに、なぜか常連客たちが鬼神のような集団になってるんですが?〜

にゃん小春
ファンタジー
魔獣の影響で陸の孤島と化した村に住む少女、ティリスティアーナ・フリューネス。父は左遷された錬金術師で村の治療薬を作り、母は唯一の食堂を営んでいた。代わり映えのしない毎日だが、いずれこの寒村は終わりを迎えるだろう。そんな危機的状況の中、十五歳になったばかりのティリスティアーナはある不思議な夢を見る。それは、前世の記憶とも思える大聖女の処刑の場面だった。夢を見た後、村に奇跡的な現象が起き始める。ティリスティアーナが作る料理を食べた村の老人たちは若返り、強靭な肉体を取り戻していたのだ。 そして、鬼神のごとく強くなってしまった村人たちは狩られるものから狩るものへと代わり危機的状況を脱して行くことに!? 滅びかけた村は復活の兆しを見せ、ティリスティアーナも自らの正体を少しずつ思い出していく。 しかし、村で始まった異変はやがて自称常識人である今世は静かに暮らしたいと宣うティリスティアーナによって世界全体を巻き込む大きな波となって広がっていくのであった。 2025/1/25(土)HOTランキング1位ありがとうございます!

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

処理中です...