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第6章 コーハ王家の第4王子と高位貴族子弟の近衛は、同じ近衛である地味平凡の子爵子息の魅了で逆ハーレムを作っている、との情報が!

851.吐かぬなら、吐かせてみようホトトギス。

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フィリップ殿下は、武闘派の王子である。

肉体言語を使うことも辞さない。

話す価値のない相手に、言葉で説得などしない。

マルビルが話し終わると、腹パンを食らわせた。

疎外されていても、公爵家子息のマルビル。
直接的な暴力をふるってくる相手なんて、同じ公爵家子息の兄イリダぐらいなもの。

そのイリダも、マルビルが逆らわなければ、相手にしない。

痛い思いをしたくないマルビルは、イリダに逆らわなくなって久しい。

何年かぶりの純粋な暴力。

マルビルは、床に倒れて、痛みに呻いた。

「いつまでも床にはいつくばるな。立てない程ではない。それとも、立てなくなりたいか?」
とフィリップ殿下。

「話しているのに、いきなり暴力をふるうなんで、頭がおかしい。謝れよ。」
マルビルは、立つことはしなかった。

蹲った状態で、顔だけ上げたのだ。

「立て。」
とフィリップ殿下。

「殴られなきゃ、立っていた。殴る方が悪い。なんにもしていないのに、殴ってくるなんて、ただで済むと思うなよ。」
マルビルは、床に座ったまま、腹を押さえている。

シドニーは思った。

マルビルは、殴られた痛みはあるが、立てない程の痛みではないように見える。

戦える王子様のフィリップ殿下は、マルビルを殴るときに、手加減をしている。

シドニーが気づいたなら、ジーンもウィルソンも気づいているだろう。


不敬発言を連発するばかりで、言葉が通じないマルビルは、フィリップ殿下に殴られたことで、一時的に静かになったのだ。

不敬発言の玉手箱を開けてしまった夜会の会場は、凍りついている。

マルビルの発言は、階級社会を理解していないどころではない。

フィリップ殿下に殴られることなく、マルビルの発言が再開されていたら、今頃、どうなっていたことか?

派閥トップの公爵家の次男が、自派閥の侯爵家の夜会会場にて、自国の第4王子に不敬を働いたかどで、斬り捨て御免になる場面に居合わせるところだった。


派閥の鞍替えを本気で検討する家がいくつも出ただろう。

それなのに。

派閥解体の引き金になりそうな張本人は、己の言動を省みようともしない。

立て、という第4王子フィリップ殿下の命令に対して不服を露わにして、不服従の意思表示をし、あまつさえ、フィリップ殿下の行為に謝罪を要求している公爵家の次男マルビル。

恥晒し?

厚顔無恥?

自派閥トップの公爵家の次男がアレなんて。

現実は残酷だ。

「立てなくなりたいか。」
と言うなり、フィリップ殿下はマルビルの両膝下に痛烈な蹴りを入れた。

「うぎゃあああ。痛い、痛い。死ぬううう。」
と泣き叫ぶマルビル。

マルビルの両足の骨は折れている、とシドニーには分かった。

マルビルを立たせる必要がないと判断したフィリップ殿下は、逃亡防止にマルビルの足の骨を折った。

「答えろ。フィリスをどうした?」
とフィリップ殿下。

両足を押さえて、痛みに泣き叫ぶマルビルは答えない。

フィリップ殿下の足が動いた。
マルビルの片腕から音がなる。

マルビルは、新しく折られた腕の痛みも加わり、半狂乱になっている。

「答えろ。お前とお前の兄は、フィリスをどうした?」
とフィリップ殿下。

マルビルは叫んだ。
「転移陣を投げた。イリダの命令だ。悪いのはイリダ。イリダに逆らったら、生きていけないんだ。転移先もイリダが知っている。全部、イリダが仕組んだ。」

静寂が支配する夜会の会場に響き渡る罪の告白。

「ビーイット公爵家の嫡子イリダは、どこだ?」
とフィリップ殿下は、夜会の主催者であるサージェ侯爵に話しかけた。

「申し訳ありません。探して。」
と言いかけたサージェ侯爵を遮るフィリップ殿下。

「全員動くな。今宵、この屋敷で貴族子弟の拉致という犯罪が起きた。ビーイット公爵家の嫡子イリダは、我々が探す。」

ウィルソンが執事に指示して、執事と護衛の一部が会場を出る。
王城に応援要請をして、捜査員などの人手を派遣してもらう必要がある。

早急に。
関係者が、全員貴族。
犯罪現場が、侯爵家の屋敷。

自国の公爵家の嫡子と次男が転移陣で、自国の近衛を務める貴族子弟を拉致するなんて、どんなスキャンダル。

「我々が懸念しているのは、拉致の共犯者が、この中にいること。全員、捜査に協力せよ。」
フィリップ殿下の言葉が、会場に響き渡る。
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